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第1話 お前がいたら、海賊王になれない

 闇夜の中、船に風が吹いた。

 夜風は信じられないほど冷たい。ここは街の街頭からも遠く離れた大海原、孤独の海に静かな夜。人肌が寂しくなるのも仕方ない。

 俺は高鳴る胸を鳴らしながら、船長室に向かった。


 何を隠そう、船長に呼び出しを受けたのだ。こんな夜に1人で来いなんて。これは夜伽の申し出以外ありえない。

 船長も年頃の少女である。そういうことに興味がある年頃なのだろう。ここはお兄さんとして優しく教えてあげるしかないだろう。


 そんな期待に胸と股間を膨らませながら、船長室の扉をノックすると、中に入るように声が聞こえた。


「良く来たね」


 そう言って、船長はいつも俺にはなかなか見せない笑顔を見せた。ツンデレさんなのである。よく言うだろ、ピンクはツンデレである。

 真っ赤な瞳に、桃色の髪は世界を旅した俺でもほとんど見たことのない組み合わせだ。きっとその特異性と生まれ持った美貌を使えば、いいとこの貴族の嫁にでもなれただろう。

 だが、彼女はきらびやかなドレスではなく、海賊のコートをボタンも止めずに着こみ、タイトスカートと、胸にはビキニの布しか巻いてない。

 

「船長に呼ばれたら、俺は世界の果てでもはせ参じますよ」

「よく私の前に顔を出せたなって意味なんだけど……」

 

 そう言って、彼女はイライラしながら苦笑した。

 生理だろうか? それは非常に困る。


「?」

「何で、分からないかな」


 そう言って、彼女は机を叩いた。

 何か様子がおかしい。これから良い雰囲気になる感じがしない。俺は何かやってしまったのだろうか?

 全く身に覚えがないので、分からない。


「108回」

「?」

「君が船員にセクハラした回数だよ。苦情は全部船長にくるんだ。私、次は許さないって言ったよね」

「嫉妬?」


 酒瓶を思い切り投げつけられた。

 ギリギリでかわした酒瓶は船長室のドアにぶつかって砕け散った。


「どうやったら、そんなポジティブに考えられるかな? 馬鹿なの? 死ぬの?」


 このまま叱られ続けたい。

 美少女が顔を真っ赤にしながら、恫喝してくるのだ。お金払っても良いと俺は思うのだけれど、皆はどう思う。

 だがしかし、このまま言い訳をしないと、また敵船をいかだで落としに行かされる。あんな思いはうんざりである。


「船長落ち着いて」

「何さ、言い訳があるとでも」

「俺は船医ですよ。患者に触るのは仕方ないことです。それは何かの勘違いでセクハラだと思われるのは不可抗力です」

「……その言い訳、もう30回くらい聞いたんだけど」

「医療行為の上で、誤解されるのは仕方ない」


 船医という立場を利用して、セクハラするのは俺の日課である。俺はそれを悪いことだと思わない。だって、お医者さんごっこの延長線上で医術を身に着けたもの。俺は人を助けたくて医者になったんじゃない。エロいことしたくて医者になったのだ。じゃあ、エロいことしても良いじゃないか、だって、俺海賊、海の上で自由を謳歌する悪党である。


「じゃあ、証拠もないし医療行為の一環ということで」

「そういうと思ったよ。今回は証拠映像があるから」


 そう言って、船長は金属の板でできた謎の物体を見せる。そこにはまぎれもなく、女の子の船員にセクハラをする。俺の姿が映し出されていた。


「ちょっと、時代設定を考えてくださいよ」

「この世界、剣と魔法のファンタジー世界だから」


 くそ、あんなもの販促だ。俺もあれ、欲しいんだけど。


「エロナルド、君はこの船に多大な貢献をしてきたのは間違いない。私も船長として頑張ってかばってきてあげたつもりだ」

「ルビー船長、嘘ですよね」

「でも、君は仲間にセクハラばかりするし……私の胸ももんだし……」


 船長は少し顔を赤くして、その豊満なバストを抑えた。


「君は真の仲間じゃない。君がいたら私は海賊王になれないと思うんだ。というわけで……」

「俺は船医として、船に伝染病が流行ったとき、皆を救いました」


 俺は結論を言われる前に、有能アピールを開始する。

 俺の夢は船長を海賊王にすることなのだ。そうすれば願いを何でもかなえてくれると船長が約束したので頑張ってきた。

 この船長にエロいことをするためにである。ここで船を降ろされる訳に行かない。

 

 街を襲って若い娘を片っ端からさらい、ハーレムを気づこうと思って海賊になった。しかし、海賊の癖に義賊を名乗る船長は略奪行為を一切禁じていた。

 俺は街で可愛い女の子を見つけるたびに、何度枕を濡らしたことか……


「皆の命の恩人の俺を切るんですか?」

「うん、確かに君が助けてくれたけど、汗をふくためだって、皆が弱って抵抗できないからって、セクハラしてたよね」

「…………」


 命助かったから、それくらいよくない。だって、俺たち海賊だよ。正義の味方じゃないんだよ。海の不法者だよ。


「それに俺は航海士も兼任してます。俺がいなくて航海できるんですか?」

「確かに、君のおかげで宝島を見つけたこともあった。でも、たまに君、全然目的じゃない島に勝手に寄り道するよね。次行く島を決めるのは船長である私なの」

「……それに俺は初期面で、この船を作った船大工も俺ですよ。この船のことは俺が一番熟知してます」

「確かに、この船は海軍の軍艦よりも高性能なのは君のおかげだ。だけど、隠し扉や隠し部屋を勝手に作って、いつも覗きやってるよね? こっちは調べついてるんだよ」

「……コックも俺です。船の食料が無くなったとき、サメと戦いながら、海に潜って魚を捕まえて皆にふるまいました。」

「料理に媚薬や睡眠薬をいれる人を、私は料理人と認めないよ」


 やばい。このままではがちで船を追い出される雰囲気だ。あほ可愛い船長が理論武装している。いつもがばがばなのに……


「やっぱり、君は真の仲間じゃなかったんだと思う」

「まあ、仲間じゃなくて夫ですもんね」

「……だから、何でもポジティブにとらえるのやめて。この年でしわを作りたくないんだ」


 凄く冷たい目で言われた。ゾクゾクするがそんな場合ではない。

 何か、この船に残るための功績を見つけて査定をあげないと追い出される。てか、これだけ貢献しておいて、追い出すっておかしくない。

 俺あってのこの船だよ。この美少女だらけの海賊船を追い出されたら、俺は明日から誰にセクハラして生きていけばいいんだ。


「俺は戦闘員としても有能です。この前は筏にのって、あのスーパールーキー、麦わら王子グルワラの船を沈めました」

「知ってるよ。その功績のおかげで、平船員のくせに、船長の私よりも懸賞金上だもんね。本当むかつく」


 船長の顔に影が差した。こんなことになるなら、船長のくせに船員よりも懸賞金低いとか言って、虐めるんじゃなかった。

 やっぱり気にしていたか。


「君、もう船降りてよ。船長よりも目立つ船員なんて、ぶっちゃけ要らないんだよね。私も船長としての義務感だけで、頑張って君のこと庇ってきたけど、君のせいで、汚名ばかり増えるし、胸張って海賊できないんだよね」


 胸張って海賊やるってなんだ。俺たちは海賊。懸賞金付きの犯罪者で、そもそも胸張って海賊なんて出来ないはずなんだが?


「君、海賊の汚点って呼ばれてるの知ってる?」

「言いたいやつには言わせておけばいいのさ」

「君は人の神経もってないから平気だろうけど、私たちは嫌なの。船医も航海士もコックも外注するから、もう出て行って」


 糞、船長の決意が固いぞ。あの土下座したらやらせてくれそうな船長が……最近やけに船長が優しいので、期待していたのに、あれは罪悪感からくる憐みの優しさで、裏ではあんなマジックアイテムを用意して、俺を追い出そうと考えていたのか……こんなのってひどすぎる。

 こんな理不尽が許されていいのだろうか? いや駄目だろう。


「お願いします。俺はここと船長が好きなんです。ここに置いてください。何でもします」

「ふーん、私のこと好きなんだ。じゃあ、セクハラしないって約束出来るよね」

「あっそれは無理です」


 こうして、俺は理不尽にも船を追い出された。

 退職金代わりに、船長の下着を要求したが、却下され、無一文で船から海に放り出された。幸い泳ぎは得意だったため、何とか一日中泳いで、島までたどりついたが、運が良かったとしか言えない。真っ暗闇の中、方角も分からなかったので、危うく死ぬところだった。


 仲間の命を何とも思っていないのだろうか?

 だから、人間って嫌いなんだよ。直ぐ裏切る。俺は猫耳娘だらけの獣人の国でも目指そうかな。


「どう思う。糞ゴリラ?」

「ウホウホウホ」

「なるほど」


 些細な欠点のため、真の仲間じゃないと船を追い出された俺だったが、仲間がいなくなったわけじゃなかった。こんな俺にもついてきてくれる相棒がいる。

 女ばかりの海賊船の中で、苦楽をともにした相棒。ゴリラみたいな人間みたいなゴリラ。糞ゴリラも一緒に船を降ろされていた。


「着いた、着いた」


 そう言って空を旋回するのは、インテリインコのウンコちゃんである。完全に人語を理解している珍しい鳥で、女ばかりで話相手のいなかった船内で数少ない、俺の話相手になってくれた大事なペットである。


「ウンコちゃんが、陸を見つけてくれなかったら、俺たち死ぬところだったな」

「ウホウホ」

「何、俺たちを船から降ろした船長に復讐しようだと、やめておけ、復讐は何も生まない」

「ウホ」

「そうだ。罪を恨んで人を恨まずだ」

「ウホウホウホウホ」

「俺はゴリラだから関係ないって……」

「じゃあ、船長以外は今度あったらぼこぼこにしていいぞ」

「ウホ」


 そう言って糞ゴリラが、胸を打ち鳴らしてドラミングを始めた。

 俺は医学と一緒に獣医言語学もおさめたので、動物と話せるのだ。薬学にも精通しているし、本当は海賊なんてやっている男じゃないのである。

 海賊王なんて目指してない。ただ、女ばかりの海賊船でハーレム王になりたかった。


 だが、その夢も潰えてしまった。3年間も頑張ってきたのに……得たのは糞ゴリラとウンコちゃんという畜生の親友だけである。

 灼熱の海岸の砂浜に焼かれながら、俺は人生に迷った。

 いつしか、ルビー船長を海賊王にして、嫁にするのが俺の夢になっていたのだ。だがその夢も潰えたのだ。

 身から出た錆だとは思わない。だって、俺って海賊だし……正義の味方じゃないから、全然心が痛まない。罪の意識とかもって生まれなかったし、道徳心も親に育んでもらえなかった。


「ウホウホ」

「そうだな。仕事でも探すか?」


 でも、俺に何が出来るだろうか……医師免許は剥奪されたから、闇医者しかできないし、船つくりは好きじゃないし、料理は好きだけど、いつも同じものばっかり作ってたら飽きるだろうしな。セクハラなら飽きなかったんだけど。


 何か合法的にセクハラできるような、職につきたいものである。

 そのためには、権力が必要だろう。


「ウホ」

「うん?」


 そういって、糞ゴリラが水にぬれた紙を見せた。そこにはバナナ農園の農夫募集と、小さく書かれていた。そこを指さす糞ゴリラ。

 良く見つけたと思う。その紙の大部分は、忌々しい海軍の募集記事になっていたためだ。バナナ農園は完全におまけである。

 いや、でも待てよ。


「そうだ。海軍大将になろう」

「ウホ」

「何、無理だって、だからお前はゴリラなんだ。俺は海賊をやっつけるのは、得意だし、航海術ももってるぞ。それに、ルビー船長を捕まえたら、合法的にエロいことが出来るじゃないか、お前も復讐できるし、一石二鳥だ。完璧だと思わないか」

「ウホウホ」

「でも、俺たち海賊だって、大丈夫だ。海賊を首になったんだから、もう海賊じゃない。そうだろ、ウンコちゃん」

「わしゃー、オヤジについていくだけですけえ」

「流石、ウンコちゃん」


 インテリインコのウンコちゃんは、生まれて始めてみた俺のことを親だと思っているらしい。

 今日もどこから仕入れてきたか分からない、葉巻をふかしている。


「ウホ」

「そうだな。お前も大佐くらいにはなれるんじゃないか?」


 そういうと、テンションが上がったのか、糞ゴリラがまたドラミングを始めた。


「じゃあ、行こうか。海軍本部」


 海賊、エロナルド・ベンベック。

 彼は致命的に馬鹿だった。それも行動力のある馬鹿である。自分から不幸への道を全速前進するような彼の人生は、不幸だと認識しない彼の思考回路が相なって、どんな時も災害級の津波をサーフィンするようなものだった。

 つまり、波乱万丈である。


 既に汚名ばかりを残しているエロナルドは、後世に汚名以外も残せるのか? 

 彼の物語がはじまった。

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