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06:部室にて

感想をお待ちしております。

 ヒロインが主人公を部活に勧誘するのはライトノベルではありがちな展開だ。


 大抵の場合、主人公は半ば強制的に入部させられるものだが、今の俺には選択肢が残されている。

 

 部活なんて面倒だ。興味ないしやりたくない。

 それが正直な感想だ。


 だったらさっさと断ってしまえばいいのに、それをできない自分がいる。


 入部しなければ後悔するかもしれない。そんな風に感じているからだ。


 やるかやらないか。迷った時はやる方を選べ。


 どこかで誰かがそんなことを言っていたような気がする。

 「やらない後悔」よりも「やる後悔」というヤツだ。


 そうさ。嫌なら途中で辞めてしまえばいいんだ。

 入部する権利があるならば退部する権利もある。


 実際に活動してみて、それから部活を続けるかどうかを決めればいい。


 よって、俺が選ぶ答えはもう決まっている。


「わかった。入部するよ。まだよくわからないことも多いけど、ちょっと面白そうだしな」


 俺は文芸部に入ることにした。


「ありがとう。感謝するわ、中崎くん」


 東野さんの頬が緩む。

 初めて彼女が笑う瞬間を見た。


 それまでずっと無表情で何を考えているのかよくわからない感じだったが、やはり美少女の笑顔というものは凄まじい破壊力を持っている。


 俺は照れ臭くなり、思わず顔を逸らしてしまった。

 

「では早速だけど部室へ案内するわ。詳しい話はそこでしましょう」


 部室か。なんかマジで部活って感じがするな。


 中学、高校と帰宅部だった俺にとって部室は新鮮だった。


 部活に所属していなかった俺はこれまで一度も部室に入る機会がなかった。そのため、部室はアニメやラノベでしか見ることがない場所だった。


 主人公たちの物語はいつも部室から始まるのだ。

 

 それにしても、まさか自分がその当事者になる日が来るとは思っていなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 俺が通う神岡かみおか高校は本校舎と特別棟、さらに部室棟が存在する。

 部室棟は文字通り部活動で使用される建物であり、主に文化部の部室で構成されている。


 三階建ての部室棟。その最上階にやって来た。階段を上がり、そのまま廊下を進んでいくと、一番奥にある部屋の表札に「文芸部」と書かれているのが見えた。


「ここよ。さぁ、どうぞ入って」


 東野さんが部室のドアを開ける。


「お邪魔します……」


 中に入ると、まず最初に飛び込んできたのは二つの長机だった。


 片方の長机にはコードに繋がれたノートパソコンが一台だけ置かれている。このパソコンを使って東野さんは普段執筆をしているのだろう。


 入り口から左側にある壁の前には本棚があった。四段の棚に文庫本や分厚い辞書が敷き詰められている。


 右手側の壁には小さめの黒板が設置されているが、そこには何も書かれていなかった。


 入り口から見て正面にある大きな窓のそばには緑色のソファが置かれている。二人くらいなら同時に座ることができそうなサイズだ。


「適当な場所に座って。イスならそこよ」


 畳まれた状態のパイプ椅子がいくつか壁に立てかけられていた。

 俺はそこから一つだけ取り、その場で腰掛ける。


「放課後はいつもこの部屋で活動をしているわ。基本的に自由に使っていい場所だから、私物の持ち込みもオーケーよ。あそこにあるポットは私が持ってきたものなの。邪魔にならない程度なら、好きなものを持ってきてくれて構わないわ」


 部屋の片隅に机があり、その上に電気ポットが置かれていた。隣にはティーセット用の棚まで設置されている。


「思ってたよりも広いな。ここをずっと一人で使っていたのか?」

「ええ、そうね。学校にプライベートルームができたような気分だったわ。部員は他にいないから、何をしていても文句を言われなかった。そう、ナニをしていても……」


 誰にも邪魔されずに作業ができるのはいいことだ。

 だが、この密室で美少女と二人きりというのは落ち着かない。コミュ障で女慣れしていない俺には少々苦しい。


 アニメを観ている時はこういうシチュエーションが羨ましいと思っていたが、いざ自分が経験するとなると緊張するな。


「でも、たまに顧問の先生が来ることもあるから、完全に気を抜くわけにはいかないわね」

「顧問は誰なんだ?」

「塩見先生よ。忙しいみたいだから、たまにしか来ないけれど」


 シオミ―か。部員だけでなく顧問の先生まで美人とか、マジでラノベみたいじゃないか。


「気を抜けないって言ったけど、塩見先生ってそんなに厳しいのか?」


 優しいことで有名な先生だ。授業中に寝ている生徒がいても怒ることはない。いつもやんわりと起こしているイメージだ。


 部活の時だけ豹変するのだろうか。急にスパルタモードになったりしないよな?


「そんなことはないわ。いつも優しいわよ。ただ、誰もいないからといって油断し過ぎるのはよくないということよ。たとえば、スマートフォンでいかがわしい動画を見ながら、いかがわしい行為をしていたら急に先生がやって来て、不意打ちを食らう可能性があるからやめておきなさい。しばらく塩見先生の顔を直視できなくなるし、彼女の記憶を消す方法がないか真剣に考え始めたら夜も眠れなくなって、発狂しそうになるから要注意よ」

「やけに具体的な説明だな。もしかして、これ東野さんの実体験なのか?」

「誰もそんなことは言ってないわ。人が親切で忠告してあげているというのに変な詮索をするのはやめさない。これ以上言ったら殺すわよ」


 やっぱり図星じゃないですか。

 ま、いくら自由だからといって度を過ぎたことをしてはいけないのはわかった。俺も節度とマナーを守ろう。


「お茶を淹れるわ。初日だからおもてなしをしないと。紅茶でいいかしら」

「あ、いや。そんなに気を遣わなくても……」

「いいのよ、気にしないで」


 そう言って東野さんはティーポッドにお湯を注ぎ、棚から取り出した紅茶のティーバッグを中に入れる。

 

 しばらく経ってからカップに紅茶を注ぎ、それを持ってきてくれた。


「砂糖も必要かしら?」

「ああ、一本もらおうかな」


 シュガースティックを受け取る。俺はそれを一本丸ごと紅茶に投入した。


「いただきます」


 息を吹きかけて冷ましてから、一口飲む。


「お味はいかがかしら」

「うん、美味い。それにいい香りだ」

「ならよかったわ。遠慮しないでどんどん飲んで」

「君は飲まないのか?」

「ええ。これは全部あなたのために用意したのだから」


 いや、ティーポッド一つ分の紅茶はさすがに飲み切れないんだが。


「さ、遠慮しないでグイッといきましょう」

「お、おう……」


 何だ? 何か引っかかるな。

 どうして彼女はこんなにたくさん紅茶を俺に飲ませたがるのだろうか。


 まぁいいや。紅茶は嫌いじゃないしな。


 俺は深くは考えずに一杯目を飲み干すのだった。


「あ、あれ……?」


 ここで突然、視界がぼやけ始めた。

 目がクラクラする。あと、眠くなってきた。


「どうやら結構すぐに効くみたいね」


 東野さんはニヤリと笑っていた。


 まさか、彼女が紅茶に何かを仕組んだのか?

 

 どうしてそんなことを……。

 考えようとする前に俺の意識は失われてしまうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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