04:すべての始まり
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本日最後の授業が終わり、放課後を迎えた。
いつもであれば帰宅部の俺はこのまま家に帰るだけなのだが、今日は少し事情が違った。
あの東野和奏から教室に残るように言われているのだ。
その様子から察するに割と真面目な話をするつもりのようだった。何を言われるのか今からとても気になる。
「じゃあな、タカヨシ。これからバイトだから先帰るわ」
「おう」
浜口は自宅近くのファミレスでアルバイトをしている。たまに冷やかし目的でその店に行くことがあるのだが、それなりに楽しく働いているみたいだ。
実は俺も最近、バイトをするべきかどうかで悩んでいる。毎月のお小遣いだけでは欲しいラノベや漫画を買うお金が足りないからだ。
やるならどんなバイトがいいだろう。コミュ障だから接客業は無理だし、体力には自信がないので力仕事も難しい。自分に向いていない仕事は長続きしないだろうから、やめておくべきだと思う。というわけで、誰か俺に接客と力仕事がない楽なバイトを紹介してくれないか。
「六限目は一度も寝なかったわね。偉いわ。あたしがあげた飴のおかげね」
カバンを持ち、帰る準備万端の西九条麗香が誇らしげな表情で言った。
「……そっ、そうかもな。ありがとう」
女子に慣れていない俺はキョドりながら礼を言う。
今まで話したこともない俺にいきなり授業中の居眠りを注意してきたり、ハッカ飴を渡してきたり、よくわからない人だ。
「明日もちゃんと起きてなさいよね。次に居眠りしたら口にワサビ突っ込むから」
西九条さんはカバンからワサビのチューブを取り出して、脅すような感じでそれをチラつかせる。
そんなものまで持ち歩いているのかよ。よっぽどワサビが好きなのだろうか。ますます彼女のことがわからなくなってきた。
それにしても、今日はとても奇妙な日である。
東野さんと西九条さんという学校を代表する二人の美少女から立て続けに話しかけられた。今まで女子と会話することがなかった俺に、何が起ころうとしているのだろうか。
浜口は言っていた。俺がラノベに出てくる主人公なのだとしたら、今日がその物語の第一話なのかもしれない、と。
これ、マジで始まるのか? 俺のラブコメあるいはファンタジー、もしくはスポーツ系青春物語が始まってしまうのか?
やがて教室には俺以外誰もいなくなった。肝心の東野さんの姿まで見当たらないのだった。
彼女は放課後になるや否や、すぐさま教室を飛び出してどこかへ向かったのである。
カバンなどの荷物が置いたままなので、約束を忘れて帰ってしまったわけではなさそうだ。きっとそのうち戻ってくるだろう。
「遅くなってごめんなさい。お待たせしたわね」
数分後、東野さんが教室に帰ってきた。
廊下を走ってきたのだろう。彼女は少し息を乱している。
「ああ、大丈夫だよ。そんなに長くは待ってないから……」
別に気にするな、というつもりで俺は答えた。
実際、滅茶苦茶待たされたという感覚はない。せいぜい五分といったところか。このくらいなら許容範囲内である。
「授業中ずっとトイレを我慢していたのよ。だから先に行かせてもらったわ」
聞いてもいないことをわざわざ説明しなくてもいいのに。
「……まぁ、それなら仕方ないさ」
我慢するのは体に悪いからな。そっちを優先して正解だっただろう。
「間一髪で間に合ったわ」
いや、だからそんなことまで聞いてねぇよ。結果報告とかしなくていいから。
それを聞かされたところで俺はどんな反応をすればいいんだよ。
「でも下着を下ろす前に少し出てしまったわ」
知らんがな。
何なの? この人は事細かに説明しないと死んじゃう体質なの? そういう呪いにでもかかってるの? ここからファンタジー路線で物語が進んでいく感じなの?
「あの、それで……話って何なんだ? 俺に何か言いたいことがあるんだろ?」
俺は東野さんの説明を遮り、さっさと本題へ移るように促した。
このままでは埒が明かない。
「ああ、そうだったわね。では早速だけれど、あなたに頼みたいことがあるの」
あの東野さんが俺に頼みたいこととは何だろうか。
「私と契約して魔法少女になってよ」とか「世間の目をごまかすために恋人のフリをしなさい」とかか?
おっと、いかん。漫画やアニメに影響されて変なことしか思いつかない。もっと現実的な展開を想像するべきだ。
「単刀直入に言うわ。中崎隆義くん。文芸部に入ってくれないかしら」
「文芸部だって?」
まさかの部活勧誘であった。
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