03:ヒロイン登場2
感想をお待ちしております。
友達は数よりも質である、というのが俺の持論だ。
少ない友人と深く長く付き合う。それで十分ではないだろうか。無理に大勢の人間と戯れる必要はないと思う。
とはいえ、浜口以外のクラスメイトとまったく関わらずに一年間過ごすのはよくないだろう。
せっかく同じクラスになったのだから、少しくらいは他のヤツらとも接点を持っておいた方がいいかもしれない。
この先は修学旅行や職場体験といった重要なイベントが控えている。また、体育祭や文化祭もある。そういった学校行事を通して、クラスメイトと仲良くなれたらいい。
それに来年はもう受験生である。きっと勉強漬けの日々で遊んでいる暇などないはずだ。だから、二年生の間に高校生活の思い出をたくさん作っておくべきだといえる。
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。これから五限目の授業が始まる。
間もなくして先生が教室に入ってくる。それと同時に日直が「起立」と声を上げたので、生徒たちは一斉に席から立ち上がり、始業の挨拶をするのだった。
英語担当の塩見先生は若手の女教師である。優しくて、しかも美人なので生徒からの人気が高く、「シオミー」の愛称で親しまれている。
「皆さん、新しいクラスには慣れましたか?」
最初に軽く雑談を交えるのが塩見先生のやり方だった。いきなり授業を進めることはない。
「慣れました」
一人の生徒が答える。
それを聞いて塩見先生はニッコリと微笑んだ。
しばらくしてから、ようやく授業の本題に入り始める。
先生は教科書の6ページ目を開くように言った。
このページで使用されている文法についての説明が行われる。
しかし、先生の綺麗な声はやがて俺を眠りの世界へと誘うのだった。
食後の五限目はとにかく眠くて仕方がない。勝手に瞼が下がってきてしまう。
睡魔に抵抗することなく瞳を閉じると、すぐに意識が遠のいていく。
授業中なので眠ってはいけないとわかってはいるのだが、ずっと起きているのは難しい。
このまま授業が終わるまで眠ることにしよう。
俺が座っているのは窓際の一番後ろの席である。そのため、眠ったり他の授業の課題をしていても先生に気づかれにくい。というわけで、俺は堂々と机に身を伏せることにした。
その直後、誰かに肩を叩かれるのを感じた。
俺は先生に居眠りがバレてしまったのかと思い、慌てて顔を上げた。
しかし、塩見先生は今も黒板の前に立って授業を続けている。彼女が俺の居眠りに気づいた様子はない。では、肩を叩いてきたのは誰なのか。
ゆっくりと後ろを振り返るが、そこには誰もいなかった。
おかしい。これはもしや幽霊の仕業か? いや、そんなまさか。
今のは気のせいだった。そう思うことにしよう。
俺はもう一度、眠りの体制に入る。
「ちょっと。どうしてまた寝ようとするのよ」
今度は声が聞こえてきた。
右隣の席からだった。
顔を上げて右側を向くと、呆れ顔をした茶髪の美少女がいた。
彼女の名は西九条麗香。
家が金持ちのお嬢様である。
東野和奏に劣らぬ美貌の持ち主だが、清楚系の彼女とは異なり、西九条麗香はとても派手な印象を与えるのだった。
目が合う。
俺はドキリとした。
「授業中なんだから居眠りしてちゃダメでしょ」
コソコソと俺に話しかける西九条さん。
まさか彼女に居眠りを注意されるとは思わなかった。
意外と真面目な子なのだろうか。
「ご、ごめん……」
俺はとりあえず謝っておくことにした。
別に俺が居眠りをしていようが君には関係ないだろ、と言いたいところだが、変に波風を立てるのはよろしくない。ここは素直に自分の非を認めるべきだ。
その後は西九条さんに怒られることがないように眠気をこらえながら真面目に授業を受けた。
集中力を欠いたため、あまり内容は理解できなかったが、全く聞かないよりはマシだろう。
五限目の授業が終わると、西九条さんが再び話しかけてきた。
「眠気覚ましにこれでも舐めてなさい」
そう言って彼女はハッカ飴を俺に手渡す。
なぜそんなものを持っているのかはわからないが、ありがたく受け取っておくことにした。
俺は言われた通り飴を舐める。
スーッとした感覚が口の中に広がり、同時に目が冴えていくのがわかった。これで六限目も居眠りせずに授業を受けることができそうだ。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。