15:活動内容
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明里の入部が今この瞬間に決定し、文芸部の部員数は三人に増えたわけだが、東野さん以外の二人は今まで小説を一度も書いたことがない完全なる未経験者であった。
読書好きの俺は普段から様々な本を読んでいるものの、明里はずっとバスケ一本だったので、本を読む習慣がなかった。文学に対する興味や関心がない彼女でも、この部でやっていくことができるのだろうか。
「中崎くんにはすでに伝えているけれど、北原さんのために我が部の活動方針について改めて説明するわね」
そう言うと、東野さんは部室の壁に掛けられた黒板にチョークで『文芸部の活動』と書いた。
優等生らしさを感じさせる細くて上品な字体だった。
その黒板はチョークの文字を消した跡が一切なく、これまでほとんど使用される機会がなかったように見受けられる。ずっと彼女一人だけだったので、部活ミーティングなどで黒板に何かを書く場面がなかったのだろう。
「文芸部は月に一回、文芸部誌『時雨』を発行しているわ。よって、普段の活動は掲載用の作品を書くことがメインになってくるわね」
「どうして『時雨』っていうタイトルなの?」
明里が尋ねる。
それは俺も気になっていたところだ。
「ごめんなさい。名前の由来は私も知らないわ。どうやら、この部が創設されてからずっとこのタイトルで発行されているらしいのだれど、当時の関係者に訊いてみないと確認のしようがないわね」
文芸部の歴史は五十年近くにも及ぶ。『時雨』は半世紀前から存在しており、それなりの伝統があるようだ。
「これに加えて、秋の文化祭では特別号を発表することになっているの。でも、去年は私一人だけだったから、そちらに時間を割くことはできなかった。だから今年こそは文化祭でも作品を発表したいと考えているわ」
東野さんが部員を集める理由の一つは、この特別号を発行するためであった。
では、特別号を作る目的は何なのだろうか。
「定期的に発行する『時雨』との違いは何なんだ?」
「月刊では長編小説を連載するのだけれど、特別号はそれとは別に短編小説を掲載することになるわ」
つまり、普段書いているもの以外のショートストーリーを書く必要があるというわけか。
俺はまだ一つも作品を書いていないが、執筆の掛け持ちなんてできるのか自信がないな。
「その他の活動として、読書会とリレー小説の執筆を予定しているわ。どちらも一人ではできないことだから、今は中断しているけれど、これも創部時から行われていたことよ」
部員が複数人いなければ成立しない活動。そういったものをやりたいというのが東野さんの望みである。
「まず読書会は週に一度、特定の作品を全員で読んで、お互いに意見や感想を発表し合うイベントよ」
「どんなものを読むの?」
「ジャンルは特に指定するつもりはないわ。ただし、部員全員が一度も読んだことがない作品であることが条件ね」
つまり、俺のお気に入りのラノベは対象外というわけだ。
でもジャンルは自由ってことは、まだ読んでないラノベならオッケーってことだよな。
「もう一つのリレー小説だけれど、こちらはテーマや登場人物、時代背景を決めて、あとはその時のノリやテンションで好きなことを書いて次の人に回す感じでやっていたそうね」
「それ楽しそう! 何だか交換日記みたいだよね」
リレー小説は自分一人だけでは完結しない物語だ。他の部員と一緒に作り上げる作品である。メンバーそれぞれの個性やアイデアが詰まったものになるので、そういったところに面白味があるといえる。
「以上が主な活動内容よ。他にも突発的に思いついたことをするかもしれないけれど、現段階で予定しているのはこのくらいね」
東野さんはチョークを置き、パンパンと両手を払った。
「そういえば、中崎くん。昨日は宿題を出していたわね。どんな作品を書くのか考えてきてくれたかしら」
「タカヨシのオリジナル小説? 私も気になるなぁ」
俺は東野さんから自作小説のネタを用意するように言われていた。
それを考えるために昨日は遅くまで起きていたため、今日はずっと眠かった。
「ああ、もちろん考えてきたさ。渾身の物語をな」
ようやくそれを披露する時が来たようだ。
よし、ここで東野さんと明里をアッと言わせてやろうじゃないか。
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