14:乱入
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放課後は部活の時間である。俺は今日から文芸部員として本格的に活動を開始することになった。
だが、幼馴染の北原明里はそれをよく思っていないらしい。厳密には俺と東野和奏が部室で二人きりになることが気に入らないようだ。
明里は俺が東野さんに取られてしまうのではないかと思い、嫉妬しているのかもしれない。
もしそうであるならば、少し可愛らしく思えてくるのだが、多分それは違うのだろう。何か他の理由があるのではないかと推測している。
「本当にどうしちゃったのよ、タカヨシ。昔は部活なんて絶対しないって言ってたのに」
部室棟の階段を登りながら、明里はさっきからブツブツと文句ばかり言っている。
俺と彼女は文芸部の部室に向かっている最中であった。
「気が変わったんだ。文芸部の活動が面白そうだったからさ」
「そんなの嘘だよ。どうせ東野さんがいるからでしょ。東野さんと仲良くなりたいから入部したんだよね? そのくらいわかるよ。だってあの人、超可愛いもん」
塩見先生と同じことを言う明里。俺が東野さんを目当てとして文芸部に入ったのは紛れもない事実だが、その動機を表には出さないようにしていたつもりだ。それでも他の人にはバレてしまっているらしい。
「俺は純粋に興味を持っただけだよ。やましい気持ちなんてない」
「ふーん、どうだか。タカヨシって昔から可愛い女の子が好きだし」
男は誰だって可愛い女子が好きに決まっているだろう。俺だけが特別なわけじゃない。魅力的な子に関心が向くのは当然のことである。
「言っておくが、東野さんの方から俺を誘ってきたんだからな?」
「その前提がもうあり得ないよ。誘うにしても、どうしてタカヨシなの? 他の子でいいじゃない」
「これにもちゃんと理由があるんだよ」
「どんな理由?」
疑惑の目を向けてくる明里。
俺が文芸部に勧誘された経緯を説明をしようとしたところで部室の前に到着してしまった。
とりあえず、詳しいことは中で話そうと思う。
ドアを軽くノックする。もしかすると東野さんが先に部室へ来ている可能性がある。いきなりドアを開けるのではなく、合図をする方がマナー的に正しいといえる。
「どうぞ」
返事が聞こえてきた。東野さんの声だった。
「失礼するぞ」
そう言って俺は明里を連れて部室に入る。
「ちゃんと来てくれたのね、中崎くん。……そして、そちらの方は?」
東野さんは明里の方を見ながら言った。
「北原明里です」
明里が名乗る。
「北原さんね。私は東野和奏よ。ここの部長をやっているわ。今日はどうしたのかしら。私に何か用でも?」
「タカヨシとはどういう関係なの?」
「私と中崎くんの関係……? そんなことをあなたが知って何になるというのかしら」
「いいから答えて」
「そうね。人には言えない『特別な関係』……かしら」
東野さんは不敵な笑みを浮かべながら答える。
「おい、何言ってんだ。ただのクラスメイトだろ」
すぐさま訂正を求める俺。
誤解を招くような表現はやめてほしいのだが。
「それだと全然面白くないでしょう、中崎くん。曖昧な言葉で濁した方が何かの伏線っぽくて味が出ると思わない?」
面白いとか面白くないとか、今はそんなことを求める状況ではないのだが。
この人、他人事だと思ってふざけてるだろ。お前もガッツリ当事者なんだぞと言ってやりたいものだ。
「とにかく俺と彼女はクラスと部活が同じだけで、特別なことは何もないから」
俺は無難な説明で明里を納得させようとする。
あまり話をややこしくしないでおきたい。東野さんのペースに飲み込まれたら、余計に面倒なことになってしまう。
「本当に何もないの?」
「ああ、ないよ。昨日初めて会話したくらいだからな」
「そっか。そうなんだ」
明里は俺の言うことを信じてくれるかのように思われた。
ところが。
「私と中崎くんが昨日初めて会話をしたというのは事実だけれど、その後、彼との間に何もなかったというのは嘘よ。何もないのに彼が文芸部に入部しようと思うはずがないでしょう」
あんたは黙っててくれないか。せっかく話が丸く収まるかもしれないのに、わざわざ広げようとしてどうする。
「やっぱり何かあったんだ……」
「ない。本当に何もない」
……いや、ありました。俺は睡眠薬入りの紅茶を飲まされました。
でもそんなこと言えるわけがねぇ。
「中崎くんは男の子よ? 男の子が望むものなんて『アレ』に決まっているじゃない」
「どれだよ」
思わず突っ込む俺。
「アレはアレよ。ふふ。もうわかっているくせに、とぼけるのが下手ね」
マジでわからない。俺にはわからない。
なぜこの人はこんなにいらんことばっかり言うのか、さっぱり理解できない。
「……ば、馬鹿! タカヨシのエッチ!」
そして、明里は何を想像したのだろうか。
なぜ俺は罵倒されている?
「何だか修羅場っぽくなってきたわね」
「誰のせいだと思ってやがる」
東野さんはこの空気を一人だけ楽しんでいる。
俺と明里をかき回し、その反応を見て笑うのだ。
やはりこの女はおかしい。
「もう我慢できない。タカヨシと東野さんが密室で二人きりなんて絶対に認めないから。この先、何が起こるかわからないもん」
「そうね。私のような超絶美少女と一緒にいたら、中崎くんの理性が崩壊して、中崎くんのナニがヤバいことになりそうよね」
「ヤバいのはお前の思考回路だ」
自分で超絶美少女とか言ってるよ、この人。
頼むから勝手に変な方向に進まないでくれ。俺を置き去りにしないでくれ。
「タカヨシを放置するのは危険だよね。だから私もこの部活に入る!」
ここで明里がとんでもないこと言い出した。
「はぁ? 何言ってんだよ。バスケ部はどうするんだ?」
「辞める!」
いいのかよ、それで……。最近レギュラーになれて喜んでいたじゃないか。今年は県大会で優勝するんだって意気込んでいたじゃないか。
それなのに簡単に辞めてしまうなんて、明里のバスケに対する思いはそんなに軽いものだったのか?
「急なことで驚いたけれど、私は部長としてあなたの入部を歓迎するわ。これからよろしくね、北原さん」
「うん!」
東野さんと明里は互いに手を取り合う。
この流れに違和感を覚えるのは俺だけだろうか。そもそも話をややこしくしたのは東野さんであり、彼女が適当なことばかり言うから明里がバスケ部を辞めることになったのだが、どうして明里は東野さんとすっかり意気投合しているんだ?
「これから面白くなりそうね」
東野和奏は俺の耳元で囁いた。
アンタにとっては面白くても、俺は全然笑えないんだが。
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