13:昼食の時間
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職員室から教室に戻る途中、廊下で東野さんに出会った。これから昼食を取るのだろう。彼女はおにぎりやパンが入ったビニール袋を手に提げている。
「あら、中崎くん。どこへ行っていたの?」
「職員室だよ。入部届を出してきた」
先程、届け出は塩見先生によって受理されたところである。
「これで正式に文芸部の仲間になったというわけね」
そう言って東野さんは右手を差し出し、握手を求めてきた。
俺は「ああ。よろしく」と返事して、彼女の手を握る。
ひんやりとした感触が手のひらに伝わってきた。もう春だというのに、なぜか彼女の手は氷のように冷たい。
……そういえば、女子と手を繋いだのっていつ以来だっけ。幼稚園?
「昼飯、いつもどこで食べてるんだ?」
俺は彼女に尋ねた。
昼休みになると姿を消す東野さん。五限目が始まる数分前に教室へ戻ってくるのだが、それまでの間、どこで何をしているのかは不明だった。
「部室よ」
と、彼女は答える。
なるほど。そうかだったのか。部室は自由に使えるから、昼食を取るには持ってこいの場所だな。
「一緒に食う友達はいないのか?」
「ええ。私、食事は基本的に一人で取るタイプだから。そもそも、私に友達なんていないわ。いつでもどこでも一人で過ごしているわね」
残念な事実を淡々とした口調で説明する東野さん。
全校生徒から人気があるくせにぼっちなのかよ。普通に友達とかいそうなイメージだったけど、高嶺の花って感じがして誰も近寄ってこないのかもしれない。
「中崎くんは教室で食べているのかしら」
「ああ。浜口とな」
「あなた、彼と仲がいいわよね」
「そうだな」
俺たちは同じ趣味で繋がる友人だった。休み時間は主にアニメの話をしている。
「どっちがウケでどっちが攻めなの? 彼の方から告白してきたのかしら」
「そういう関係じゃねぇわ」
勝手にカップル認定されていた。
この前の小説といい、彼女のホモに対する執着心は何なんだ? 何が彼女をそうさせるのだろうか。
「違うのね。残念だわ」
「いや、残念がる必要ないから」
いつか俺と浜口が彼女の小説のネタにされそうで恐い。いくらフィクションとはいえ、モデルにされるには勘弁してほしいものだ。
「そうそう。さっき塩見先生から教えてもらったんだが、文芸部には五つの掟というものがあるらしいな。知ってたか?」
「ええ。古くから伝わる大切な決め事よ。あなたにもこれを遵守してもらうわ」
「東野さんも守っているのか? それ」
「当然でしょう。私は文芸部の部長だから。他の部員の模範になるべき存在よ」
「模範って……。今まで君一人だけだったのに?」
「いずれ部員が増えることを想定していたのよ」
適当に考えた言い訳っぽくも聞こえるが、まぁそういうことにしておこう。
俺はその場で東野さんと別れた。浜口を待たせてしまっているので、早く教室へ戻る必要がある。もしかしたら、アイツはすでに食べ終わっているかもしれない。
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