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俺のヒロイン候補が変態ばかりなんだが?  作者: 平井淳


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12/16

11:三角関係

感想をお待ちしております。

 家を出てから一時間くらいで学校に着いた。今朝も電車は多くの通勤通学客で混雑していた。入学したばかりの頃は窮屈な満員電車に辟易していたが、一年も経てばさすがにもう慣れた。


 今年も明里とは違うクラスになった。俺は五組で彼女が三組である。

 俺たちは廊下で別れ、それぞれの教室に入る。


「じゃあね。放課後、迎えに行くから」

「本当に部室まで来るつもりなのかよ」

「当たり前でしょ。逃げても無駄なんだからね」


 明里は文芸部に突撃すると言って聞かない。彼女は俺と東野さんが放課後に二人で過ごすのが許せないのだという。どうしてダメなのか理由を尋ねたのだが、「タカヨシには関係ない」らしく、ちゃんと答えてくれなかった。


 部活くらい俺の自由にさせてくれてもいいだろう。どこまでも束縛するなんて、まったく困った幼馴染だ。


「よう。今朝はいつもより眠そうだな。また深夜にリアルタイムでアニメ観てたのか?」


 席に着くと浜口が声をかけてきた。


「そんなんじゃねぇよ。まぁ色々事情があってだな……」


 あまり他言はしたくないのだが、コイツには隠さずに伝えておくべきだろう。


「俺、文芸部に入ることになった」

「これはまた急な展開だな。帰宅部のエースが部活を始めるなんて。それにしても、どうして文芸部なんだ? お前そういうキャラじゃなかっただろ」

「勧誘されたんだよ。それも昨日の放課後にな。後で職員室まで入部届を出しに行く」


 入部届は文芸部の顧問である塩見先生に提出する必要があった。


「誰に勧誘されたんだ?」

「東野さん」

「それってまさか、あの東野さんか? うちのクラスの?」

「ああ」


 それは本当に突然の出来事だった。何の前触れも無しに彼女は俺に文芸部に入れと言ってきたのである。


 気づかぬうちに俺は東野さんにマークされていたようだ。彼女は俺が帰宅部であることやラノベが好きであることを知っていた。


「マジかよ。やるじゃねぇか。とうとうお前にもヒロインが現れたか」

「でも、それがちょっと変な感じでさ。何か思っていたのと違うっていうか……」

「校内ナンバーワンの美少女と接点ができたんだぞ? 贅沢言ってんじゃねぇぞ、コノヤロー」


 浜口は俺の頭頂部に拳をグリグリと押し付けてくる。

 コイツが羨ましがる気持ちは十分わかる。もし逆の立場だったら、俺も同じことを感じていただろう。


 だが、浜口は東野和奏の裏の顔を知らない。知らないからこそ、単純に俺を羨ましがることしかできないのだ。


 真面目で物静かな優等生。それが皆の思い描く東野和奏の人物像だろう。

 だが、実際の彼女は違った。あの人はとてもぶっ飛んだ性格の持ち主だった。


 彼女が俺に睡眠薬入りの紅茶を飲ませたことや、男が男とアレをするような物語を書いていることは浜口にも黙っておこう。そんなことを言ったところで信じてもらえないだろうし、俺も他人のことを誰かにベラベラと話すのはよくないと思っているからな。


「それで、文芸部に入ったこととタカヨシが今眠そうな顔をしていることに、どういう繋がりがあるんだ?」

「笑わずに聞いてくれるか?」

「多分」

「多分って何だよ。そこは絶対って言えよ」

「わかったわかった。笑わねぇから教えてくれ」


 俺は東野さんから小説を書くように言われたことを浜口に話した。

 ネタを考えていたら深夜になってしまい、そのおかげで寝不足になってしまったと説明する。


「へぇ。いいじゃないか。俺もタカヨシがどんな小説を書くのか気になる。完成したら読ませてくれよ」


 浜口は笑いもせず、意外にも興味を示したのであった。


「わざわざ声をかけてきたんだ。きっと東野さんはお前のことを気に入ってる。もしかしたら、彼女とワンチャンあるかもしれないぞ」

「そうか? 別に俺たちはそういう仲じゃ……」

「そんなことはわかってる。最初から主人公に惚れてる都合のいいヒロインじゃないんだからさ。俺が言いたいのは、これから好感度を上げていけってことだ。部活に誘ってきた時点で少なくともお前に悪いイメージは持っていないはずだからな」


 確かに嫌われてはいないと思う。だからといって、恋愛に発展するとは限らないだろう。


 果たして東野さんは今の俺をどんな風に見ているのだろうか。

 恋愛対象として見られている感じはしないし、そもそも彼女が俺を誘ったのは部を盛り上げるためで……。


 そういや、昨日は成り行きで入部すると返事してしまったけど、文芸部に引き込むなら俺以上の適任者がいるような気がするんだよな。


 帰宅部で文章力が高いから誘った、と彼女は理由を述べていたが、そんなヤツは探せば他にもいるだろう。

 よりによって、なぜ俺なのか。別に男子でなくてもよかったのではないか。


「放課後の部室で美少女と過ごせるとか、どう考えてもチャンスでしかないだろ。この状況を思う存分楽しめ。な? 主人公くん」

「あ……。その話なんだけど、明里が今日の放課後、文芸部に乗り込む気らしいんだ。何か言いたげな様子だったから、すごく不安なんだよなぁ……」

「ほほう。ここで幼馴染の乱入か。三角関係まで完成させてしまうとは、やっぱタカヨシはラブコメ主人公の素質があるな。ヒロインに恋のライバル登場ってわけか」


 勝手に東野さんと明里が俺をめぐって争うみたいな流れにしないでくれ。そんなのあるわけないだろ。


 明里と俺はただの幼馴染だ。アイツは俺を異性として見ていない。


「面白おかしく言ってくれるが、明里は俺のことなんて何とも思ってないからな。そりゃ、幼馴染として俺を大切に想ってくれていることはわかるけど、恋愛とはまた別であって……」

「はぁ~。これだから鈍感主人公なんだよ、お前は。本当に何とも思ってないなら、わざわざ部活に乗り込んでくるわけないだろうが」

「いや、でも……」


 俺にはわかる。ずっと明里の近くにいたから。

 彼女は俺に特別な感情など抱いていない。恋愛対象として意識していない。


 目を見ればわかるのだ。アイツが俺を見ている時、それは恋する瞳ではないことくらい。

 あくまで勘に過ぎない。それでも、俺は確信している。この先もずっと、明里が俺を好きになることはないと。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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