10:幼馴染
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朝食を取り終えてから歯を磨き、カバンを持った。その直後に玄関のチャイムが鳴った。
「明里さん、迎えに来たみたいだよ」
早苗が俺に知らせる。
チャイムを鳴らした人物が誰なのか、俺と早苗はインターホンのモニターを確認せずとも把握していた。
こんな朝早くからうちに用があるのは彼女くらいしかいないからだ。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
ドアを開けると、そこには案の定、幼馴染である北原明里の姿があった。
彼女は俺と同じ神岡高校に通っている。
「おはよ、タカヨシ」
「おはようさん」
明里の家は我が家のすぐ左隣にある。そのため、俺たちは昔から毎朝一緒に登校しているのだった。明里はいつも同じ時間にチャイムを鳴らすので、俺はそれに間に合うように支度している。
「今日もいい天気だね」
「そうだな」
雲一つない青い空が一面に広がっている。天気予報によると、今日の降水確率は午前午後ともにゼロパーセントだそうだ。まさに雨が降る心配はないことを裏付けるかのような晴天だった。
二人並んでゆっくりと通学路を歩き始める。現在の時刻は七時十五分。今から最寄りの駅へと向かうところだ。自宅から遠く離れた高校に進学した俺たちは早朝から電車に乗って通学している。
俺が神岡高校を選んだ理由は、同じ中学出身の生徒がほとんどいない学校へ行きたかったからだ。そう思うようになったのは、中学三年の時に起きたあの事件がきっかけだった。
悪い噂のせいで居場所を失った俺は、高校では人間関係をリセットして新しい自分に生まれ変わりたいと思っていた。誰も俺のことを知らない世界で一からやり直したいという気持ちが強かったのだ。
中学三年の秋、俺は単身で未知の世界へ飛び込むことを決意した。
ところが、そのことを明里に伝えると、彼女は自分も一緒に行くと言い出したのである。
彼女は俺を一人にしたくなかったらしい。離れ離れになるのは心配だと言っていた。
元々別の高校を志望していたにも関わらず、俺が神岡高校へ行くと言った途端に進路を変更したのだった。
俺としては完全な一人ぼっちになるよりも、よく知った間柄の幼馴染がいてくれる方が心強くて助かっているのだが、明里自身は本当にそれでよかったと思っているのだろうか。
「今日、部活休みなんだ。だから一緒に帰れるね」
明里は中学時代からバスケットボール部に所属していた。二年生となった現在ではレギュラーとして活躍しているそうだ。
「すまない。実は俺、放課後は部活があるから」
「えっ? タカヨシ、部活入ったの? いつの間に……」
驚く明里。そういや、まだ彼女には何も伝えていなかったな。
それもそうだろう。入部したのはつい昨日のことなのだから。
正確にはまだ入部は正式に決まっていない。入部届を提出していないからだ。
入部届は今、俺のカバンの中に入っている。署名を行い、保護者のハンコも忘れずに押されているため、すぐにでも提出できる状態だ。
「何の部活?」
「文芸部だ」
「そんな……! 嘘でしょ……」
明里は動揺を見せる。俺が文芸部に入ったことがそんなに信じられないのだろうか。やっぱり俺には似合っていないということか。
「文芸部って東野さんが一人でやってる部活だよね?」
「そうだな。俺が来るまでは彼女だけだった」
「これからはタカヨシと東野さんが放課後の部室で二人きりになるってことだよね?」
「まぁ、そうだな」
密室で美少女と二人で過ごす。
そのシチュエーションを想像するだけで、俺は興奮と緊張を覚えた。
「そんなのダメ! 絶対ダメ! 決めた。今日の放課後、私も文芸部の部室に行くから!」
「いきなり何言ってんだよ。どうしてお前が文芸部に……。別に俺が放課後に誰と過ごしてようが勝手だろ」
「ダメったらダメなの!」
こんなに焦ってどうしたのだろう。ここまで必死な明里の姿を見るは初めてだ。
昔から俺の言動に口を挟んでくることが多かったが、今回は意図がよくわからない。
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