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4、魔法は常識ではありません

「元の世界でも特定の血統の者しか魔法使いは生まれなかったし、今生でも呪いや神通力は村で力を持っている者たちしか使えないけれど、まさか一般常識じゃないなんて。そんな世界、本の中でしか知らないわ」

 勘違いも仕方ないと思う。魔法という名前ではないが、この村には魔力と同じエネルギーが満ちていた。

 いわゆる、怨念とか呪いと呼ばれる類のものが。

「こんなに魔の気配が強いから、てっきり世界全体が“そういうもの”だと思っていたのに」

 マッチをすれば火が出るのも、呪いで人が狂うのも、原理さえわかれば何の不思議もない。もしくは原理を知らなくても、“そういうもの”だと分かってさえいれば、驚くことはない。

ただひとつ、引っかかったことはある。

「時間が巻き戻った、と感じたということよね」

 狂った子供が歩く死体になったのを見て気を失ったあと、その日の朝に戻っていたと藤巻は話した。それだけは単なる魔法的なもの、では片付けられない。

 しかも、ただ巻き戻ったわけではない。子供は消えたままだ。結果だけはそのまま残っている。

「時空を操る方法がないわけじゃないけど、それは世界全体に作用するものだから、それこそ神の権能とか、そういう領域だわ。奇跡の一種で、そこらの人間や魔物が使えるものじゃない」

 と、なると幻術あたりの線が妥当な気がする。誰が掛けたか、という問題は残るが。


 村外れのあぜ道で、振り袖姿のまま独り考え込む。


 なぜこんなところに留まっているかというと、考え込むと独り言が出てしまう前世からの悪癖があるからだ。念のため、周囲に誰もいないことを確かめ、道切の外側に出て思考を深めている。

 道切は藁を円状に編み上げてリースのように結んであるもので、村外に出る道の上を横断するように張られている。村外と村内を区切るもので、悪霊や悪疫の侵入を防ぐためのまじないだ。

 ただ、大気中にうずまく魔力の流れを見るに子取村では何かを閉じ込めるために使われている。

「十中八九、〝お蔵様〟案件でしょうし…害がないならひとまず置いておきましょうか」

 もっと優先順位が高いことに取り掛かるのだ。次はまともな食事の確保である。

 紅と椿油を手に入れて弾む心地のまま屋敷に戻った。


 

 子取村は村人のほとんどが農業に従事している田舎の集落で、家々も敷地だけは広いが素朴なつくりの茅葺屋根が多い。

 そのなかで威容を誇るのが子取家の屋敷だ。

 瓦葺の大きな表門をくぐり、錦鯉が泳ぐ池の石橋を渡り、奇岩が並ぶ前庭を通って主屋に辿り着く。敷地内には主屋と離れのほかに、接客用の建物である書院や、茶室、5棟の土蔵が建っている。

 ほかに父の重蔵の舶来趣味が高じて造られた、村外の清香楼と対になる洋館〝月影楼〟もある。

重蔵は重度の舶来趣味だ。ただ、田舎のためどうしても手が届かないところがあり、御用商人が持ち込んでくる外国の品物を買い込んでも、屋敷の人間には本来の使い道がわからず、無駄になってしまうことが少なくない。それには食材も含まれる。

 そのため先日、〝東京で名の通ったレストランで働いていた西洋料理人〟を雇い入れ、月影楼の厨房を任せたと聞いたが…どうやら、あまりうまくいっていないと聞いた。

 その料理人に会う必要がある。


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