コント 「勇者と魔王と偽勇者」
魔王 「ククク…よくぞここまでたどり着いた、先ずは誉めてやろう、だが! 世界最強の魔族であるこの私に勝てるものなどいない! ここが貴様の墓場となるのだ!」
勇者 「そのセリフ、そっくりそのまま返してやる! 行くぞ、魔王!」
魔王 「掛かって来い! 勇者!」
偽勇者「ちょっと待った――――‼‼‼」
魔王 「む? 貴様、勇者と同じ装備をしているが、一体何者だ? 」
偽勇者「よくぞ聞いた、この俺こそが『本物』の勇者だ! 魔王よ、この俺と一騎打ちをしてもらおうか!」
魔王 「勇者よ、貴様が勇者で間違いないんだよな?」
勇者 「当たり前だ! 貴様こそ、こんなぽっと出の偽勇者に騙されるんじゃない!」
偽勇者「魔王よ! 騙されるな! この俺こそ『真の』勇者だ!」
勇者 「俺が本物だ!」
偽勇者「いや俺が本物だ!」
魔王 「だああああああ! 紛らわしい! 一体どちらが本物の勇者かはっきりせんか!」
勇者 「…よし、ならばこうしよう! 勇者には神から与えられた特殊スキル『先読み』がある、俺とお前が今からとあるゲームでそのスキルが備わっているのか試そうではないか、魔王! お前は審判をしてくれ!」
魔王 「お、おお、で? 一体そのゲームとやらは何なのだ?」
勇者 「それは――」
偽勇者「それは『あっちむいてホイ!』だ! ジャンケンと言う相手の出す手を読むことと、相手が向くであろう顔の向きを予想する、勇者のスキル『先読み』を判定するためにはうってつけのゲームだな!」
勇者 「貴様、何故それを!」
偽勇者「そんなもの俺の『先読み』のスキルがあればたやすく読めること、どうだ、魔王! この俺が本物の勇者だと解っただろう!? 」
魔王 「うーむ、こいつの言う事ももっともだな、という事はこいつこそ本物の勇」
勇者 「待て魔王! はやまるんじゃない! このゲームを使う事は『先読み』のスキルを使うまでも無く予測できることだ! 」
魔王 「そうなのか?」
勇者 「この勇者の名に懸けて!」
魔王 「いや、どちらが本物か解らない時に勇者の名前を掛けられても…」
勇者 「いちいち細かいやつだな! 兎も角! 『あっち向いてホイ』で決着をつけるぞ! 異存は無いな?」
偽勇者「元より異存は無い、では早速始めようか! 」
魔王 「なんだかよく解らんが、では! 試合開始! 」
勇者 「行くぞ!」
偽勇者「おう!」
二人 「じゃーんけーん! ポン!」
魔王 「…あいこか」
勇者 「なかなかやるな…」
偽勇者「そっちもな…」
二人 「あーいこで、ホイ!」
魔王 「…またあいこか。」
勇者 「なるほど、続けて同じ手と見せかけて裏をかいたつもりか? 『先読み』のスキルの前ではそんなもの意味はない! 」
偽勇者「ふん、裏の裏をかいてやはり同じ手を出すと思わせようとしたようだが、無意味だな」
勇者 「行くぞ、今度こそ覚悟しろ!」
偽勇者「そのセリフそっくりそのままお返しするぜ!」
二人 「じゃーんけーん…」
魔王 「…いったいいつまで続けるんだ? もうかれこれ100回連続あいこだぞ?」
勇者 「くそ、このままでは埒が明かない。」
偽勇者「ならば、提案があるのだが。」
勇者 「なんだ? 一騎打ちなら貴様に譲る気は無いぞ? 」
偽勇者「それなんだが、そもそもそこまでこだわる事なのか? とふと思ってな 」
勇者 「何? 一騎打ちで雌雄を決するのは別におかしくはないだろ? 」
偽勇者「おかしくは無いが、そもそも魔王を倒してこの世界を平和にするのが目的だよな?」
勇者 「言われるまでも無い、その為にここまで来たのだからな。」
魔王 「…なんか、嫌な予感がするんだが」
偽勇者「ならばここは、力を合わせて魔王を討伐するのが良いのではないのか?」
勇者 「ならば、本物の勇者はどうやって決めるつもりだ。」
偽勇者「魔王を倒した後で、国民に投票してもらい、より多くの支持を得たほうが『真の勇者』というのはどうだ?」
勇者 「なるほど、あくまで平和的に解決するのならそれがいいかもな。」
魔王 「え、あれ? ということはどういう事?」
偽勇者「というわけで魔王、貴様はここで倒れる運命にある事に変わりはない」
勇者 「この世界の平和の為、魔王! 貴様をここで倒す! 」
魔王 「おい! ふざけるな! 二人掛かりとは卑怯だぞ! 正々堂々戦わんか! 」
二人 「お前に言われる筋合いではない! 」
魔王 「そ、そんな馬鹿なあああああああああっ…」
かくして世界に平和が取り戻されたとさ