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(ああ……姫子様……今頃なにしてるかしら……)

 仕事中もつい姫子様のことを考えてしまう。昨晩も、BLのごとく絡み合い、密なるひとときを過ごし、至上の幸せをみほろは感じていた。まさかまさか。すぐに姫子様が自分を見つけてくれるだなんて思わなかったのだ。こんな恋に満ちた感情を味わうのはみほろにとって初めてのことであった。――それに、ルルハさん……。

 正直、あれだけの結果を出せば調子に乗っていいはずのものなのに、低姿勢で、謙虚で。この界隈のルールを知らぬみほろがうっかりDMを送ってみようものなら、ルルハさんは丁寧に返信をくださった。それから、ちょくちょく絡んでいる。――まさかまさか! こんなハーレム天国が待ち受けているだなんて! SNSなんて、とディスっていた自分が恥ずかしい。ツィる暇があるなら小説書けよ……ツィッターを馬鹿にしていた自分は過去のもの。あそこは、パラダイスだ。みほろの全く知らない天国を提供してくれる魅惑の地。作ってくれた神様に感謝だ。いや、作ったのは開発者なのだが。

 それにしても、とみほろは思う。こうして仕事の手を動かしていても、ツィッターを始める前であれば、二割三割は自分の小説のことばかりを考えていたのに、人間、変わるものだ。160文字制限という恩恵にあやかり、いつの間にか頭の中で呟いてばかりいる。

 #今日の足元

 #森博嗣にハマるとありがちなこと

 #読書好きさんと繋がりたい

 ……ああ、ハッシュタグ。あなたというひとはどうしてこんなにも魅力的なのだろう……。みほろの胸を揺さぶってやまない。なんでもいいからハッシュタグさえつければマークパンサーのごとくキメてくれる頼もしい存在。小室哲哉もびっくりであろう。

 昼休みはニヤニヤしながらツイッター。会社員だということがバレるとなにかと面倒くさいので(しかしバレバレであろう)、みほろは昼休みはツィートせず、『いいね』を押す、或いはリプするだけに留めている。アラフォーのみほろはスマホで文章を打ち込むのが苦手だ。彼女は大学生になってからようやく携帯が普及した世代である。PCのほうが百倍速く打てる。それでも、職場の同僚や上司に比べれば随分と打ち込む速度が遅いことは自覚しているが。あの森博嗣は一時間で八千字打つ。タイピングではなく彼は小説を書いている。それで、八千字。驚きの速さにワイドハイターもまっしろにならざるを得ない。松岡修造あたりをはべらせて。――メニューは三秒で覚えるんだ! さあみほろなにを頼む!

「――麻婆豆、ふ……」

 声に出しかけてみほろは口許を押さえた。――いけない。ここでは強面の西邑鞠子で通しているのだ。誰にも、自分が東野みほろだなんてバレてはならない。みほろは疲れやすい体質のゆえ、特に娘を産んで職場復帰してからは、昼休みのうち半分を睡眠に割り当てているのだが――ツィッターを始めてから、変わった。リプに他人のツィートリツィート……見ているだけで胸がわくわくするのだ。

 みほろは、フォロー返しをしない。フォロー返しをする相手はツィートを見たい相手にだけ限定している。――いや、興味がないというわけではないが、その人間のツィートが暗い内容だったり、自分の小説の宣伝ばかりだったり、はたまたフォロー返しへのリプまみれだったりすると……あまり見たくないのだ正直に。

 美術館のリツイートで発見した、美麗なる絵をお描きになる画家さんを無言フォローすると、驚いたことにその画家がフォロー返しをしてくれた。申し訳ないという気持ちと、嬉しいという気持ちが一挙に去来した。……どうしよう、嬉しい、と……。

 みほろの呟きはしょうもないものが大半だ。自分の未熟な小説の更新告知、コスメのリツイート……こんな不人気なみほろを構ってくれるこころやさしい超熟のウェブ物書きさん……。そのあたたかさにみほろは救われていた。いつものように、ニヤニヤツィートを眺めながら、昼休みを終えた。


 * * *


 川本真琴のシャウトするように、愛には才能が必要であるが、仕事にも才能が必要だとみほろは思う。みほろは思い返す。自分の人生至上最も辛かった時代は、一ヶ月の勤務時間驚きの二百時間超えを達成したプログラマ時代でも、一日平均二十回授乳し、細切れ睡眠に疲弊した産後でもない。――『あの頃』だ、と。

 みほろはこの会社に勤務して十年余りが経つ。いまではすっかりベテラン扱いされているが、この十年余りで十五人以上の退職者が出ており、いまのメンバーで安定するまで、みほろはずっとずっと新人だった。みほろの部署には過去先輩が二人おり、AさんとBさんとしよう。

 Aさん。みほろの面倒を主に見てくれた先輩だ。いや望む望まないに関わらず、みほろの次に年次が若いのだから、Aさんがするほかあるまい。

 Bさん。正直みほろは彼女のことをお局さんだと思っているのだがそれは言うまい。面倒見のいいところもあるのだがむらっ気の多い先輩でもあった。

 Aさんについて忘れられないエピソードがある。みほろが新人の頃の話だ。みほろは基本的に客から仕事を受注し、客の代理で仕事をすることで成り立つ仕事をしており、つまり客商売だ。最も、みほろの見立てでは『客商売』でない仕事などひとつもないのだが。さておき。当時はフロッピーディスクが主流であり……そう、エヴァや桐野夏生著『顔に降りかかる雨』でお馴染みのあれだ……まさか客にFDをそのまま送付するわけにもいかず、クッション封筒を使っていた。みほろの入社した当時は茶色い、FDがぴったり入るミニサイズが使われていた。

 ところがだ。仕事柄FDを頻繁に使用するみほろは気づいた。……あれ、クッション袋が切れそう、と。みほろの部署では備品の発注を担当する人間が決まっておらず、暗黙の了解で新人が行うことになっている。よってみほろはアスクルのカタログを見た……のだが。

 ない。

 載っていない。同じものが。FDだからその近辺の頁に載っているだろう、と思ったのに、ない。あるのは、CDが入る大きいサイズだけのものだ。困った。FDがぴったり入るサイズのもの……それが見つからない。採寸したサイズも載っているのだがFDを入れるには明らかに大きい。

 困ったみほろはAさんに相談した。「Aさん。あの。……FDの袋を買いたいんですが、ぴったりのサイズのものがなくって……。どうしたらいいですかね?」

 ディスプレイに顔を向けたAさんは呆れた顔でため息を吐き、みほろに言い放った。

「――どうしたらいいって西邑さん、あなた自分で考えらんないんですか? ――探してください」

 みほろは、アスクルだけでなく大塚商会やビズネット(いまは『イークイックス』だが当時はこの呼称だった)のカタログをひっくり返して探した。半べそだった。『探せ』と言われたからには、見つけなくてはならない。絶対に。

 会社は、備品の発注をいろんな会社に任せているゆえに探し場所は膨大だった。三時間かけても見つからず、泣く泣くみほろはBさんに相談した。「……あの。Bさん、お忙しいところすみません。FDの袋が切れちゃって……でAさんに相談したら『自分で探してください』……て言われて。でも見つからなくって……どうしたらいいですかね?」

 対面する席に座るゆえみほろの声はAさんに筒抜けである。けれど、Aさんはこのやり取りに無視を貫いた。Bさんは同情したような表情で、

「それならいいわ。CDの袋で。……ね」


 Aさんは、仕事にムラのある人間だった。好きなことはとことんやる、だが極力雑務はやらない。尤も、ド素人のみほろのフォローで疲弊していたのだろう。いまのみほろであれば彼女の気持ちは分かる。……しかし、『言いよう』というものがなかったのか? と。

 さてみほろの暗黒時代はなにも新人時代なのではなく、問題はここからだ。その部署で初めてAさんが産前産後育児休暇を取得して復帰してから、……である。出産を機に引っ越しをしたAさんは大変そうだった。――が。こちらも大変であった。

 復帰後、Aさんは十五時までの時短勤務に切り替えた。定時は十七時。結論から言うとAさんがする仕事の八割がミスだらけで、残った者がその後処理に追われた。自分の尻ぬぐいは自分でするという主義の職場であれど、お客さんに知らせる期限が間違っていたり、請求漏れがあったり……。どうしても迅速に処理せねばならないミスの尻ぬぐいはみほろたちが行った。Aさんに対してはメモを残す。ところがその量が膨大で、Aさんの退社後Aさんのテーブルは瞬く間にファイルと紙で埋まった。

 Aさんといえば、午前中いっぱいは自分の前日のミスの火消しに追われ、午後にやっと仕事が出来るのだがそれもまたミスが多く。無限の負のループのなかにいた。当然、仕事が捗るはずもなく、またあぶれた量の仕事がみほろとBさんに降りかかった。Aさんが15時に退社する一方で、二人は平均十九時まで残業した。面倒で厄介な仕事はAさんに一切振られず、みほろとBさんの負担がテトリスのように積みあがっっていった。

 暗黙の了解でこなす一方、間違いなくBさんの怒りは増大しており、それが露わになった場面があった。Aさんがふと、「○○って××ってことで合ってましたっけ?」何気ない一言。だがBさんは怒った表情で、

「Aさん。ミーティング出てなかったんですか? いましたよね?」

 場が凍り付いた。

 確かにAさんも会議に出席しており、あくまでなにげない会話のなかでの確認のひとつだったのだが。――以来、完全にみほろたち三人の関係はぎくしゃくした。いつも三人でお昼を食べていたのが、Aさんは自席でひとりで食べるようになった。

 そのとき、みほろはBさんサイドについた。なにもBさんが最年長だったのが理由だったのではなく、単に、みほろも憤懣や嫉妬心をAさんに抱いていたからだ。

 当時、みほろの夫は病気を併発し、自宅療養中だった。みほろはなかなか子どもが出来ず苦しんでいた時期であった。――毎日、毎日、書類を見るたびにAさんのミスを見つけ。指摘し。自分の仕事が時間内に終わらず毎日残業し。帰宅すれば青白い顔でゲーム画面に見入る夫のお出ましだ。夕食を作り、風呂を沸かし、洗濯物の処理をし……。

 もし、あの頃、携帯小説サイトに出会っていなかったら発狂していたと思う。それくらい、苦しかった。後にも先にもあんなにも苦しい日々を過ごしたのはあのときだけだった。みほろは毎日毎日胸を引き裂かれる痛みに耐えた。――何故、子どもがいるあのひとが優遇され、自宅で夫の世話をするわたしにばかりしわ寄せが行くの、と。理不尽ではないか。誰かを育てているという点においてあのひととわたしは同じではないか。ミスだらけの仕事をするAさんは優遇され、一方でわたしは優遇されず……こんなにも苦しんでいるのに。

 のちに振り返ればそれはとんだ勘違いだということが分かるのだが――どう考えても子育てのほうが大変だ――しかしながら当時のみほろには、険悪なBさんとAさんの橋渡しをする余裕など微塵も残っていなかった。

 結局、Aさんは鬱に近い状態に陥り、復帰から半年足らずで退職した。みほろには、いじめのようなことに加担して申し訳ない気持ちが残ってはいるが、仕方がないと思う自分もいる。やりようはあったろうが、この職場にAさんの居場所はなかった。そもそも彼女はチームワークに向いておらず、単独でする仕事のほうが合っているようにみほろは思う。

 さて残ったBさんだが、Aさんの退職から二年も経たぬうちに彼女も退職した。理由を述べる前に、みほろの職場にはびこっていた謎のカルチャーについて触れておきたい。

・退職者が出たときは新人が近くの花屋に花を買いに行き、精算を行う

・友達でもないのにグループで会議室でランチを食べる

・毎週行う大変な仕事は必ず新人が行う

・来客時のお茶出しや後片付けも新人が行う

・毎朝三十分程度、お局Bさんのトークにつきあう

 ……などだ。特に馬鹿馬鹿しかったのがランチと花束の件である。最短で二週間で退職した人間もいた。なのに、毎回五千円程度の花束を、その退職者に分からぬようにこっそり買いに行き、しかもその退職者にばれぬように届けてもらうよう花屋に依頼し、かつ渡したあとの割り勘精算も新人が行い、金額を皆に伝え、小銭の準備もする……いま思えばとんでもない悪習である。豪華な花束を貰い、毎回退職者は喜んでいたが、正直喧嘩別れのようなかたちで離職する者も多く、マナー知らずのひとたちを喜ばせる必要があるのか? 激しく疑問だった。

 ランチは、バツイチ子持ち小梨が揃えば、女性なら分かるであろう。――話が続かない。共通のサブカルネタがあるときはいいのだが、間があいたときにいつも最年少であるみほろのほうから話を振り……とんだ苦行だったのを彼女は記憶している。

 毎朝巻き込まれるお局トークについても、忙しいときは正直に迷惑だった。Bさんの親戚の話やら、あとは友達の愚痴。リケジョだったBさんは大学で恋愛関係がぐっちゃぐっちゃだった……友達が友達が、そんな話ばかりをしていた。あなたに自分というものはないんですか? 言ってやりたいのを堪え、手を動かしながら、みほろは話に聞き入った。

 半年で、みほろはBさんを追い抜いたのを自覚した。やがて上司から難しい仕事をどんどん振られるようになり、Aさんの重なった時期がカオスだった。会社では社畜、家では奴隷……いいところでいいように使われる自分が惨めだった。そして、街中を歩けば楽しそうな子連れと出くわす。……地獄だった。

 それに比べれば、いくら育児が大変とはいえ、いまは天国だ。Bさんの退職とともに、メンバーが入れ替えとなり、謎の数々の悪習は自然淘汰された。みほろにはそれが心地よかった。Bさんが居た頃はカジュアルな服装にジーパンもアウトだったが、いまはほぼなんでもアリだ。ロゴの入ったTシャツや穴の開いたジーパンでなければ、要するに来客者を不快にさせないレベルであればよし。

 みほろの職場のグループの女性は全員四十歳前後に突入している。全員、一様におしゃれだ。そして美しい。ファッションなんてどうでもいいと思っていた時期もあったのだが、あの姿を見てみほろは感化される。ああ自分を捨ててはならないのね。女として常に恥ずかしくない自分でありたいと。

 そして全員、一様にクレバーだ。二人のお子を育てるママもおり、頼もしい限りだ。思うに、空気を読む能力、それから業務を行うセンス。みほろの職場で働くならそれが必須だ。思えば過去現れた、ダサい格好をする人間は皆仕事が出来なかった。ファッションセンスと仕事の能力は比例する。あれが低いとこれも低い。

 子どもが生まれる前は閉塞感を感じていた仕事であるが、産後復帰してからは仕事が楽しくなった。ママでいることはときに苦しい。自分を捨てて娘を優先すること、それが要求されるから。だが職場ではただひとりの西邑鞠子として扱ってくれる。それがみほろには嬉しかった。

 東野みほろについても同じであった。彼らは――みほろと関わる誰かは、みほろが兼業主婦、ワーママであること関係なしに接してくれる――みほろにはそれが楽だった。ネットで別の顔を作ると苦悩する人間もいるようであるが、みほろに関してはそれは当てはまらなかった。

 仕事中、二割三割を、次なにツィるか……ぐるぐる考えながら平常運転を心がけ、帰宅。電車の中でレシピを決めておき、その料理を作る。20:15には塾の宿題をすると決めている。となると、食後の一時間程度を小説に割り当てるのが常……だったのだが。

 ツィッターが取って代わった。

 時には裏で小説を更新しながら主に姫子様と絡んでいく。小説が上手い人間はツィも上手い。姫子様の巧みな話術にいつもみほろは惑わされっぱなしで、声を出して笑うこともある。そのくらい楽しい。

 姫子様と何故か盛り上がるのはBLネタだ。攻めが姫子様で受けがみほろ。茶髪で白肌のイケメンであるみほろがいつも大魔王様姫子様に背後から犯されるのが鉄板である。

 ツィッターはやはり楽しい。見ているだけで和むのだ。いろんな情報があふれていて、あ! これもこれも! ……と、ショッピングセンターに迷い込んだ子どものように無邪気な自分を発見してしまう。ワンダーランドでアリスさながら楽しんでいるうちに、時刻が八時半を過ぎてしまうことも。慌てて動画鑑賞中の娘に声をかける。「みりかちゃん。えいごのじかんよー」

「はぁい」仕方ない、といった感じで始めるみりか。パソコンを操作し、英語の歌を歌わせる場面もあるので、母の操作が必須。――つくづく、日本の子育ては母親に負荷がかかりすぎているとみほろは思う。アメリカばりに自己責任だったらどんなに楽だろう、と。音読の宿題なんで馬鹿馬鹿しい。自己責任だろと。アメリカだと物心ついたときから朝はシリアル。食事も勿論自分で用意し、BENTOなるものは存在せず。中学の頃から自分でサンドイッチを作り、小さなりんごを突っ込み、それ用の茶色い紙袋に入れて終了。ランチを忘れても問題なし。カフェテリアで売っているから。……日本のお偉いさんはそんなことも知らないのか? 少子化をどうにかしたいというのならいっぺん、欧州やアメリカ辺り一ヶ月滞在して向こうの子育てを見て来い。……と、まほろは言いたくなる。しかし、それをツィると炎上する恐れがあるので、みほろは大人しくしている。

 年中さんの頃の懇親会で、『ひまわり組にあがったら登園準備は自分でさせるようにしてください』と担任の先生に言われたので、試しに前日のハンカチやランチョンマットの用意を本人にさせたところ、……出来た。なんでもかんでも親がしなければならなかったのが一気に負担が減った。料理は駄目でも洗濯物の処理はどうだろう? と任せてみた。出来た。春から夏への衣替えはみりか本人が行った。ひとつひとつ衣類を取り出して折り畳み、手の届きやすいケースに半袖の服を配置し、着ない長袖の服は箪笥へと。ある程度みほろが指南したものの、基本的にはみりかがひとりで行った。娘の几帳面さにみほろは驚いた。誰に似たのだろう? ……みほろではない。彼女は自覚している。――わたしは放っておくとなにもしないものぐさな人間だから。

 保育園はやはり疲れるものらしく、「疲れたー」とみりかが言う夜もある。そのときは、洗濯物の処理をみほろがやってやる。そのあいだにみりかに翌日の保育園の準備をさせる。

 みほろの夫は帰宅が遅く、平日は完全ワンオペ育児だ。ちょこちょこツィッターをチェックしながら、みりかの世話をし、一日の終わりにおやすみロジャーを読む。これを読むとこの子はすぐ寝る。

 本当は夜更かしでもしたいのだが、翌日の仕事に支障が出るからと、みりかが寝てからすぐにみほろは寝る。歯磨きや服薬の合間にやはり、ツィッターをチェックしながら。姫子様のツィートは見ていて飽きない。診断ものなど毎回釣られてやってしまう。リプしていじられると無性にみほろは嬉しくてますます姫子様のことが好きになる。――ああ、楽しい、と。

(明日、なに呟こっかな……)

 布団に入り、暗い天井を見ながら考えるのは勿論ツィートのことだけだ。いままでは、家庭の悩み、それか小説のこと。そればっかりだったのに……。中高生が一日にSNSに七時間費やすというデータを見たときにみほろは驚愕したものだが。あれくらい、みほろも情熱を費やしている。実際休日などは超えることすらある。それでも土日で二話一万字くらい書けるものだから驚きだ。

(明日は、……娘のこと、と……それから好きな小説家、の……あるある)

 眠りに落ちる最後の瞬間までみほろはツィッターのネタを考え続けた。


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