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レジェンドメイカーズ  作者: 蒼井村正
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6:探索チーム

6:「探索チーム」

 「……ん……うぅ……ンッ!?」

 窓から射し込む朝日のまぶしさで目ざめたわたしは、そこが自分の部屋でないことに気付いて、ちょっと困惑してしまう。

(あ、そうか、昨日はリデアと思いっきり呑んで語って、彼女の部屋で二次会して、そのまま寝ちゃったのか……)

 記憶を整理しつつ起き上がったわたしは、少し離れたソファーの上で、とんでもない姿で寝ている褐色美女を発見した。

 召喚者の証である首輪以外は、ほぼ全裸のゴーレムマスターは、恥じらいなど微塵も感じさせぬ大股開きで爆睡している。

 床には、空の酒瓶や、ほぼ完食状態のおつまみのお持ち帰り容器が散乱していて、昨夜のご乱行を物語思い出させた。

 ソファの近くに落ちていた薄手の毛布をリデアの身体に掛けてやり、シャワーを借りて、簡単に身繕いを済ませる。

「んぁ……おはよぉぉ~」

 まだ意識は夢の中のような声を上げ、リデアが目をさました。

「おはよう。お泊まりしちゃったね……」

「ん~、いいよ別に。今日は仕事休みだし……。悪い、お水一杯欲しい」

 どうやら二日酔い状態らしい褐色美女に水の入ったジョッキを持ってきてやり、ついでに、散らかった床を片付ける。

「ルシール、お酒強いんだねぇ。アタシは頭ガンガンしてるよぉ」

 水入りジョッキを傾け、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいたゴーレムマスターは、眉をしかめる。

「ん? そうなのかな? 朝ご飯食べに行くけど、一緒に来る?」

「あー、アタシは昼まで寝てるよ~。また、飲もうね!」

「うん。是非」

 リデアの部屋を出たわたしは、遅めの朝食を済ませると、そのまま転送門へと向かい、迷宮樹の探索に出かけた。


 数時間の探索の末、ソロ活動では二個目の成長制御コアを発見し、破壊したわたしは、市街へと帰還し、夕食を摂っていた。

 周囲では、わたしと同じように探索を終えて戻ってきた召喚者たちが打ち上げや反省会を開いていて、程良い喧噪が、料理の匂いが入り混じった店内の空気を掻き回している。

「……お食事中の所、失礼します。ルシール・ケイオスさん、ですね?」

 あらかた食事を終え、食後のお茶にするか、ちょっと祝杯しちゃうか悩んでいたわたしに声を掛けてきたのは、立派な鎧に身を包んだ、凛々しい顔立ちの女戦士だった。

 艶やかな黒い髪は、眉の上辺りで一直線に切りそろえられていて、肩の辺りにかかる程度の長さの襟足も、見事な直線にカットされている。

 やや太めの眉もキリッ! と凛々しく。ちょっときつめの眼差し、色白な顔の中で、鮮やかな赤で自己主張していく唇の色とあいまって、大人びて高貴な印象を与える美女だ。

「はい。そうですけど?」

「私、冒険者チーム、『ミュルミドン』のリーダーをしているサヤカと申します」

 礼儀正しく一礼した彼女の首輪は、青だった。

 緑の上位互換だという、青の首輪、始めて見た……。

「先日は、チームメンバーがお世話になりました。療養中の彼に代わって、お礼を申し上げます……」

 サヤカと名乗った、いかにも真面目そうな女戦士は、さらに深く頭を下げる。

「あ、これはご丁寧にどうも。彼の具合はいかがです?」

「身体の傷はすっかり癒えましたが、心の傷は、しばらく時間がかかりそうですね……」

 沈痛な表情で答えたサヤカに席をすすめ、わたしは昨日の情況について、少し説明した。

「わたしが、もう少し早く加勢できていれば、失われる命の数を減らせていたかも知れません。それだけが心残りです」

「いえ、未熟なメンバーたちだけでの探索を許可した、リーダーである私の落ち度です。そのせいで、ルシールさんのお手を煩わせただけでなく、辛い思いまでさせてしまいました」

 私の正面に座ったサヤカは、また、深々と頭を下げる。

「……ところで、ルシール殿は、ソロで活動しておられるとか?」

 重くなった空気を振り払うかのように、女戦士は話題を変えてきた。

「ええ。今のところ、そうですね」

 もしかして、スカウトするつもりかな? と、ちょっと嬉しく思いつつ頷く。

 この管区だけでも、三百を超える数の探索者チームが存在しているようだ。

 大きなチームになると、数十人規模で活動していて、着実な戦果を上げているという。

 ただし、転送門で一回に往き来できる人数は限られていて、最大でも十人程度、転送門の魔力チャージにも時間がかかり、一日に稼働できる回数も限られているので、大軍勢で迷宮樹に突入して物量で蹂躙! とかいう戦術は取れないらしい。

 結果的に、数人の小グループでの探索せざるを得ないため、大きなチームは、所属メンバーをいくつかの班に分けて活動させている。

 ソロで成長制御コアを最短時間撃破したわたしは、即戦力として期待される新人なのかも知れない。

「探索者チームに所属するつもりは、無いのでしょうか?」

 軽く身を乗り出し、チームリーダーの美女は持ちかけてきた。

 やはり、彼女の目的はチームへのスカウトらしい。

「……管理官からは、赤の召喚者のデータ収集をしたいので、しばらくソロでの探索をして欲しい、と言われています」

「そうですか。この管区最初の、赤の召喚者ですものね……」

 青の首輪を付けたチームリーダーは、わたしの首に巻かれた赤の首輪に視線を向け、小さく微笑んだ。

 赤の首輪に剥けられたその視線には、少し羨ましげな光が宿っている様に感じられる。

「もし、どこかのチームに所属するつもりがあるようでしたら、私どものチーム、『ミュルミドン』も、その候補として考えておいてください」

 サヤカが去ったあと、わたしは少し考える。

 どこかのチームに所属、あるいは、わたし自身がリーダーとなってチームを立ち上げ、指揮する。そういうことは可能なのか?

 管理官からは、能力が他の召喚者たちとは違いすぎて、足並みを揃えて行動することは不可能、と、断言されてしまったが、わたしの方が合わせれば……。

 どちらにせよ、管理官たちが許可してくれなければ、わたしは今後もしばらくはソロで戦闘データ収集を続けることになるのだろう。

「実験動物……とか思っちゃ、いけないんだろうけどね……」

 苦笑を漏らしたわたしは、二個目のコア破壊のささやかな祝杯を一人で上げるべく、酒類のメニューを開いた。


 翌日も、わたしは単独で迷宮樹に挑んでいた。

 さすがに三日続けてコア撃破は、余程運が良くないと無理だろうが、今は自分の出来る精一杯をやるだけだ。

 コアを破壊された根の区画は、崩壊が始まるため立ち入り禁止になっていて、わたしは少し悩んだ末、ちょっと離れたところにある機動砦に転送してもらい、白い光に満たされた木製のトンネル内を探索していた。

「む……戦闘の跡。遭遇と同時に殲滅したみたいだな。結構手練れの探索者チームかな?」

 通路にできた血溜まりに転がっている、十数体のゴブリンの死骸を横目で見ながら、わたしは更に先へと進んだ。

「……!?」

 聞こえてきたのは、男の叫び。

 断末魔や悲鳴ではない。力強く闘士に満ちた、戦士の咆哮だった。

「こっちか!? 今度は間に合う……間に合わせるッ!!」

 声のした方向に、わたしは全力疾走開始する。

 自分でも驚くほどの高速でトンネルを駆け抜けたわたしが見たのは、ゴブリンの群れの只中で奮戦する召喚者のチームだった。

 人数は五人。

 全身鎧に身を包み、身の丈ほどもある大型剣を装備した重装戦士が一人、二本のショートソードを装備した、赤髪の軽装戦士の男、魔道師らしいいでたちの少女と、弓を装備したポニーテールの女性、そして、フード付きのローブを着た男性。

 周囲には、ゴブリンの死体が散乱し、それを遙かに上回る数のゴブリンが、包囲網を狭めようとしていた。

「間に合った! 今度は……間に合ったッ!!」

 思わず、そう叫んでしまいつつ斬り込んだわたしは、刀の一閃で数体のゴブリンをまとめて斬り捨てる。

「助太刀ありがとよ!」

 わたしに気付いた赤髪の軽戦士が、闘いながら声を掛けてきた。

「援軍か、助かる!」

「ほらね! 助けは来るんだよ! アタシの勘は当たる!」

「あっ、ありがとうございます!」

 ローブの男性と、弓使いの女性、魔道師姿の少女が同時に声を上げる。

「悪いが、もう少し手伝ってくれ。こっから巻き返すから!」

「もちろん!」

 わたしと、軽戦士の男性は互いの死角をかばい合いながら、ゴブリンの群れを蹴散らしてゆく。

 その背後でも、わたしの乱入で浮き足立ったゴブリンたちに対する逆襲が始まっていた。

「でやあぁぁぁぁ~ッ!!」

 気合い一閃、重装戦士の振り抜いた大型剣が、数体のゴブリンを叩き斬る。

「背中ががら空きだよッ!」

 剣を振り抜いて、隙だらけになった重装戦士の背後に迫っていたゴブリンの身体に、数本の矢が突き刺さる。

「ありがとう……ッ!」

 援護してくれた弓使いに礼を言いつつ、重装戦士は、見事なカウンター攻撃で、ゴブリン共をまとめて叩き潰した。

「毎度ありッ!」

 快活な声で応えた女性射手は、続けざまに矢を放って、重装戦士の死角から接近してくるゴブリンを的確に射倒してゆく。

「いいチームワークだね……」

「ん? そうか? うちは、いつもこんな感じだぞ、ッ! とぉ!」

 わたしのつぶやきに反応する余裕を見せた赤髪の男性も、両手の剣を巧みに振るって、ゴブリンを次々に斬り伏せてゆく。

 一分とかからず、緑の小鬼共は、全滅していた。


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