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レジェンドメイカーズ  作者: 蒼井村正
4/18

最初の戦闘

迷宮樹内部に突入したルシールは、ゴブリンを排除しつつ奥を目指す。


4:「最初の戦闘」


 機動砦の内部は、中央部が吹き抜けになった円筒形をしていて、外周部に、休息や睡眠のための個室、食堂、治療魔法の使い手であるヒーラーが常駐している医療施設、武器や装備の整備ラボ、衛兵たちの詰め所が設けられている。

 そして、吹き抜けとなった中央部には、転送門があった。

 これは、召喚者を一気に都市国家へ転送する装置で、これを活用することで、迅速な戦力の入れ替え展開、補充が可能であった。

「砦を拠点にして、ある程度の長期的な滞在も可能ですし、こまめにロクサゴンリークに帰還して、戦果の報告や補給、休息をすることもできます」

 技術士官らしい女性が、説明してくれる。

「リーク、というのは、都市国家のことかな?」

「はい。そう理解していただいていいと思いますよ。リークといううのは、大融合前の呼称で地域行政単位の意味らしいです」

 ハキハキと受け答えする技術士官の首に巻かれた首輪も、緑だった。

 わたしとしては、わたし以外の「赤」が、どんな活動をしているのか興味があるのだが、全国で数十人程度では、出会う機会は極めて低そうだ。

「案内と説明、ありがとう。じゃあ、そろそろ探索、出てみようかな?」

「もしかして、ソロで行かれるんですか?」

 ちょっと心配そうに、技術士官の娘は聞いてくる。

「うん。管理官には、赤の召喚者の実戦データを取りたいから、しばらくはソロで探索してくれって言われてるから。……じゃあ、行ってきます」

「いって……らっしゃいませ。あなたの剣に幸運が宿りますように……」

 探索者にかける常套句らしい言葉を背中で聞きながら、わたしは最初の探索に出撃した。


 迷宮樹の根の先端に開いた開口部は、三重の鉄格子でできた、頑丈な門扉で塞がれていた。

 迷宮樹は、並みの工具では穴あけや切断ができないので、門扉は、開口部にピッチリと密着する形ではめ込んであるようだ。

 格子越しに、わずかに黄色みを帯びた白光に照らし出された、迷宮樹のトンネルが見えている。

 直径、およそ三メートル。場所によっては、その数倍の直径になるというトンネルは、不規則に曲がりくねりながら、奥へと続いている。

 内壁の色は、所々、色むらのある、くすんだ薄茶色で、同心円状の木目が所々に見て取れる。

 天井部分のごく狭いエリアが、白い光を放って、内部を照らし出していた。

 その光が、緑の肌をもったゴブリンたちに光合成を促し、無補給での活動を可能たらしめているらしい。

 門の前に立ったわたしの周囲では、ギシギシ、バキバキという軋み音がひっきりなしに響いている。

 今、こうしている間も、迷宮樹は成長し続けているのだ。

 その速度は、一日におよそ数メートル。

 決して速くないが、放置しておけば、際限なく成長し、周囲を呑み込んでゆく。

 わたしが近づくと、最初の鉄格子が、ギギギギッ、と、耳障りな音を立てて開いた。

 第一の格子から、第二の格子までの距離は、十メートルといったところか……。

 第一の格子が閉じる音を背中で聞きながら、第二の格子の前に立つと、それも、軋みながら開く。

 召喚者の首輪に連動して開く仕組みのようだが、こういう仕掛け、どこかで見たような記憶があるな……。

 そして、第三の扉。

 黒光りする鉄格子の向こうは、既に敵のテリトリーだ。

 第二の扉が、背後で、ガチャンッ! と音を立てて閉じた。

 第三の扉は、前方の安全確認をした探索者が、任意で開くことが出来るようになっている。

 格子の向こうに、敵の姿が無いのを確認し、扉を開くと、通路に足を踏み出した。

「さて……行きますか……」

 百歩と歩かぬうちに、奥の方からピタピタと裸足の足音が幾つも迫ってくる。

「……」

 わたしは無言で刀の柄に手を添え、状態を軽く前屈させて待つ。

 曲がり角を抜けて、ゴブリンたちが姿を現した。

 資料映像で見せられたのと同じ姿形をした、緑の人型生物。

 手には、鐔も飾りも付いていない、細身の剣が握られている。

 金属では無い。高質化した植物の葉ような素材の武器で、極めて軽量だが、斬れ味は金属製の武器並みに鋭い。

「フンッ!!」

 軽く息を吐くと同時に、わたしは地を蹴って突進した。

 ザザザザ斬ッ!!

 一瞬で十数回、刀を振るい、前衛の数体を斬り倒す。

 ウォーターゴーレムの時と違うのは、切断の感触と、噴き出す血飛沫だった。

 粘液まみれで張り詰めた皮膚を裂き、グニャグニャした肉を断ち切り、骨を、カツンッ! と打ち割った刃は、振るったわたし自身が驚くほどの速さと滑らかさで、ゴブリンたちを切り捨ててゆく。

 最初の遭遇戦で、わたしは十二体のゴブリンを倒していた。

「ふぅ……」

 血振りした刀を鞘に納め、軽く息を整えたわたしは、どす黒い血の海に折り重なった緑の肉塊を一瞥すると、迷宮の奥へと歩を進める。

 同じルートを戻って帰還してきた時は、わたし自身がつくりだした、この死屍累々をもう一度、目にすることになるのだ。

(さっきの戦闘、管理官たちも見ているのかな?)

 首輪を通じてデータ収集しているらしい無表情男たちのことを考え、気持ちを切り替えながら、白い光に満たされた、木製のトンネルを探索してゆく。

 迷宮は、左右の蛇行こそ多いものの、上下の起伏はそれほど大きくなく、足元も適度な摩擦があって歩きやすい。

 所々、分岐や合流地点があったが、わたしは妙な勘に導かれるままに道を選び、ひたすら奥を目指した。

 途中で数度、ゴブリンの群れと遭遇したが、苦戦することなく切り抜ける。

 何度目かの遭遇戦で、『そいつ』は現れた。

 行く手を阻むゴブリンたちの中に、ひときわ大きな個体がいる。

 身長はわたしよりも頭一つ分大きく、身体の幅は倍以上。体重は、おそらく五倍ぐらいあるだろう。

 体型も、頭でっかちでひ弱そうなゴブリンとはまったく異なり、ガッチリ体型で、腹や腰回りには、でっぷりと肉が付いている。

(あれが、ゴブリンの変種、ガラゴブリンってやつかな?)

 管理官から受けた説明によると、ガラゴブリンは、何らかの要因で異常成長したゴブリンで、耐久力や筋力が大幅に増した強敵だ。

 武器も、探索者から奪ったものを好んで私用しているため、戦闘においては十分な注意を払うべし、と忠告された。

 そして、ガラゴブリンは、成長点の守護をしていることが多いという説明も受けている。

 これは、初探索で大当たりかも知れない。

 小柄な同類を押しのける様にして、ズイッ! と前に出てきたガラゴブリンの手には、重厚なバトルアックスが握られている。

 間違いなく、探索者から奪った武器だろう。

「……油断はしない。来いッ!」

 刀の柄に手をかけ、挑発の声を上げると、ガラゴブリンはあっさりと乗ってきた。

「キケエェェェェェ~ッ!!」

 巨体に似合わぬ甲高い声を上げ、巨大化ゴブリンはバトルアックスを横殴りに振り抜いた。

 狭いトンネル内では極めて有効な攻撃だ。

 ブンッ! と重い風斬り音を立てて、バトルアックスの刃が、わたしの頭上すれすれを通過する。

 そう、わたしは地を這うような姿勢で突進していた。

 意外と豊かなバストが、床を擦ってしまいそうだ。

「たぁッ!!」

 抜き打ち一閃、ガラゴブリンの両脚を斬り飛ばし、伸び上がりながらの二の太刀で、緑の肥満体を袈裟懸けに両断する。

 そのままの流れで踏み込みつつ旋回、刃の軌道上に巻き込んだゴブリンたちを撫で斬りにしてゆく。

 ザーッ! と床を滑りながら斬り抜けた背後で、緑の小鬼の群れが。身体の数を倍にしながら倒れ伏した。

「……」

 敵の気配が耐えたことを確認しつつ納刀したわたしの目の前に、蔦に包まれた、巨大な卵形の物体が鎮座している。

 大きさは、私の身体の半分ぐらいで、黄色っぽい燐光を放つ巨大卵が、上下を蔦状の器官に支えられ、宙に浮いている。

 間違いない。資料映像で見せられた、迷宮樹の成長点制御コアだ。

「少し上手くいきすぎたみたいだけど、まあ、いいか!」

 抜き打ちの一閃で、コアに斬りつけた。

 カッ! と硬い音を立てて斬り裂かれたコアの内部から、黄色い蛍光を放つ粘液がドロドロと流れ出てくる。

 ゴウウウンッ!!

 重い音を立てて、迷宮樹の根が震えた。

 天井の光が不規則に明滅し、急激に明るさが減衰してゆく。

「おっと! 一時間ほどで真っ暗になっちゃうんだっけ? 戦果確認、撤退!」

 一人告げたわたしは、元来た道を引き返し始めた。

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