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レジェンドメイカーズ  作者: 蒼井村正
16/18

16:「突入! センターコア」

16:「突入! センターコア!」


 その後の数日間で、わたしたちのチーム、レジェンドメイカーズは、三つの成長制御コアを破壊していた。

 迷宮樹内をうろつくゴブリンたちの数は日増しに増え、激戦が繰り広げられたが、わたしたちはリームリーダーであるマコトの卓越した戦術指揮で、それらの闘いを全て乗り切っていた。

 そして今日も、センターコア撃破を目指す探索は続く。

「……なあ、時間的にもかなり余裕があることだし、最近話題になってる、壁ってやつ、探してみないか?」

 探索開始から二時間と経たぬうちに、成長制御コアまで到達、破壊に成功したことで、まだ暴れ足りない様子のユウジが提案してくる。

「壁、か……。一度、確認しておいてもいいかもしれないな」

 マコトの決断に従い、壁探索を行うことにした。

 長年にわたる、召喚者たちの活動で、迷宮樹の侵食面積は大幅に減少し、いよいよ、その中枢部にあると推測されている、センターコア撃破の可能性が、現実味を帯びてきている。

 当然、その武勲を狙うチーム同士の先陣争いも過熱化し、迷宮樹探索は決戦モードに突入していた。

 結果、成長制御コアの撃破数は飛躍的に増えているが、無茶な突撃を敢行したチームからは、重傷者や死者も出ていて、管理官から、戦術管理の徹底通知が出ていた。

「……おい、あったぜ! あれ、壁だろ?」

 先頭に立って探索していたユウジが、興奮した口調で言いながら、わたしたちの方を振り向く。

 一時間と経たぬうちに、わたしたちも、ついに、「壁」を発見していた。

 それは、通路を塞いだ、根の塊だった。

 人の腕ぐらいの太さの根が、何百本も絡み合い、トンネルを封じている。

「なんか、根を一本ずつ斬っていけば、通れそうじゃないか?」

 ユウジはそう言うなり、いきなり、壁に斬りかった。

「どおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~ッ!!」

 二本のショートソードを振るい、怒濤の連続攻撃で、絡み合った根に攻撃を仕掛ける。

 その攻撃で、数本の根を切断することはできたが、その程度では、ガッチリと絡み合った根の壁はビクともしなかった。

「あー、ダメかぁ。ここまで来ておいて、引き返すしかねえのかよ! クソッ!」

 ユウジは、苛立ち紛れに、壁を蹴っ飛ばして愚痴る。

「おい、ゴウタの重い攻撃だったら、もっと深く斬り込めるんじゃね? それとも、トモコの強力魔法でぶっ飛ばしちまうか?」

「ん~、無理だと思うよ」

「私も、無理だと思います」

 ユウジの無責任な振りを、ゴウタとトモコは即座に拒否した。

「……なら、ルシールの斬撃だったら、行けるだろ!? な、行けるよな!?」

 ズイッ! と身を乗り出して、わたしに迫って来るユウジ。

「どうかな? 斬りつけても何とかなるかも知れないけど、これ、他の手段で、なんとかなるかもしれない」

 ユウジの連続攻撃で切断された根が、既に修復を開始師始めているのを見ていたわたしは、ふと、思いつく。

「他の手段というと?」

 マコトが興味深げに尋ねてきた。

「……複雑に絡み合ったこの根は、生体認証キーを兼ねた秘匿通路だと思う」

「承認何とかというのは、よく判らないけれど、それは、ゴブリンだったら、何らかの手段で、この壁を通れるって事かな?」

「だね……。そして、そのキーは、おそらく、ガラゴブリンだと、わたしは推測している」

 マコトの問いに答えたわたしの発言に、チームメンバーたちは各者各様の表情を浮かべる。

 ユウジは、さっぱりわけが判らない様子で首をかしげ、マコトとミサキ、そしてゴウタ、そしてトモコは、何か思い当たる節がありそうに頷いた。

 ガラゴブリンとは、ゴブリンの数倍の体躯を持った大型の変異種だ。

 主に、成長制御コアを守っているのだが、専用装備を持たず、探索者から奪取した装備品を間に合わせのように装備して使っている。

「ずっと疑問に思っていたんだよ。ガラゴブリンの存在意義について……」

 わたしは、持論を展開する。

「ガラゴブリンは、小型種ゴブリンの戦闘指揮をしているわけでもなければ、率先して迎撃に出てくるわけでもない。防御戦力としても、決定的に強いわけでもない」

「言われてみれば、そうだな。デカイ分、小回りが利きにくいから、オレとしては、ちびゴブリンの群れよりやりやすい相手だぜ」

 ユウジもようやく頷いた。

「戦力として微妙ならば、何の為にいるのか? その答えは、センターコアから、根の末端まで、小型種のゴブリンを先導、誘導するため……じゃないかな? と、わたしは思ってる」

「ルシール、キミの持論は理解したけど、それが、この状況を打開できる根拠は?」

 ごく当然な質問をしてくるマコト。

「わたしの刀……というか、おそらく、わたしが修得しているスキルに、生体波動記憶というのがある。それを、今から使ってみる」

「何そのスキル!? ちょっと怖いんだけど……」

 スキルマニアの弓使い、ミサキが、少し引き気味の表情で声を上げるのを背中で聞きつつ、ゆっくりと刀を抜き、切っ先で、根が複雑に絡み合った壁に触れる。

「わたしも、このスキルがどういう意味を持っているのか理解できていないんだけど、今回は、その応用技を試してみるつもりだよ」

 説明しつつ、わたしは、『刃の記憶』を探る。

 この刀で斬ったモノたちの固有生体は、どういう仕組みなのか判らないが、刀身の中に全て記憶されているようなのだ。

 これまで斬った、数十体のガラゴブリン。その生体波動の中から、共通するパターンを抽出し、刃先に再現して壁に送り込んでみる。

 五秒……十秒……変化が見られぬままに時だけが経過し、勘違いだったかな? と思い始めた時、それが起きた。

 ミシッ! メキメキメキメキッ!

 軋み音を立てて、根の壁が左右に分かれて開いてゆく。

「うぉ! ホントに開きやがった!」

 ユウジが驚きの声を上げる。

 やっぱり、信じてなかったのか……。まあ、いいけど。

 絡み合った根の壁は、想像していたよりも分厚く、およそ十数メートル。その向こうは、他の場所と違わぬ、迷宮樹のトンネルが真っ直ぐに続いている。

「どうする? 行く?」

「ああ。行ってみよう。一人ずつ、素早く通過してくれ。まずは、ユウジ、次にミサキ、トモコ、ゴウタ、それから僕、最後はルシールの順番で」

 わたしの問いに、マコトが即決して命令を下した。

「よっしゃぁ! 一番乗りだぜ!」

 特にためらう様子も無く、ユウジは足早にトンネルの先へと進む。

「これ、急に閉じたりなんて、しないよね?」

 左右にパックリと開いた、根の壁を警戒しつつ、ミサキも走り抜け、その後を追うように、トモコとゴウタが続いた。

「まだ、維持できるよね?」

「うん。問題ないよ」

 わたしに一言かけたマコトも、注意深く壁の狭間をくぐり抜けた。

「じゃ、私も……」

 壁にあてがっていた切っ先を離し、一気に向こう側へと走り抜ける。

「……壁、閉じませんね?」

「ああ。このまま開きっぱなしかな?」

 全員で見守ること、十数秒後、ギシギシと嫌な軋みを上げながら、根の壁は閉じていった。

 迎撃が来る気配は無い……。

「このトンネル、妙に真っ直ぐだな。全員、警戒しつつ進もう」

 マコトの指揮で、探索を再開した。

 彼が言うとおり、トンネルには脇道も曲がり角もなく、真っ直ぐに奥へと続いている。

「……ねえ、わかる? こっち側、異様に静かじゃない?」

 ミサキが声を潜めて言った。

 確かに、迷宮樹探索中にはずっと聞こえていた、根の生長するミシミシ、バキバキという音が、まったく聞こえない。

「敵の気配もしねえな……。む、この先、広くなってるみたいだぞ」

 先頭を進んでいたユウジが、用心しつつ、広間に踏み込んだ。

「何だか妙なモノが生えてるぜ……」

 そこは、ユウジが言うとおり、奇妙な空間だった。

 トンネルの左右にできた溝状の窪みから、先の尖った草のようなものが何百も伸びている。

「これは……武器の畑、か!?」

 人の背丈ほどもある草を、注意深く調べていたマコトが、少し驚いた様子で言った。

 それは、彼が言うとおり、武器の畑だった。

 小型種のゴブリンが装備している、薄刃のショートソード型をした葉っぱが、ぎっしりと密集して生えているのだ。

「まさか、武器まで植物のように育成してたとはね。まあ、武器の組成から、極めて硬度の高い植物質の構造だというのは判明してたんだけど」

 育成中の「ショートソード草」を、興味深げに調べつつ、マコトはつぶやく。

「もしかして、武器の畑、アタシたちが初めて発見したのかな?」

「そうだと思うよ。これまで、こういう報告は上がってないからね」

 ミサキの声に応じたマコトは、通路の奥へと視線を向ける。

「結構重要な施設だと思うんだけど、警備も居ないし、迎撃が来る気配も無いね?」

「うん。この施設、しばらく使われていないように思う」

 マコトの問いに、わたしは答えた。

「廃止された通路なんでしょうか?」

 トモコが遠慮がちに発言する。

「そうかもしれないね。答えはこの先にあると思う……」

 わたしたちは、通路の更に奥へと歩を進めた。

 ごく緩やかな下り坂になっている、真っ直ぐな通路を進むこと数分。いきなり視界が開けた。

「う……ぉ!」

 ユウジが、声を押し殺しながら呻く。

 そこは、とてつもなく広い空間だった。

 直径は、少なくとも数百メートル、高さもそれぐらいありそうな、円筒形の巨大空間だ。

 わたしたちが出たのは、そのほぼ中央の高さにある開口部だった。

 そして、視界のはるか先に、それ……おそらく、センターコアと思われるものがそびえ立っていた。

 超巨大空間の床と天井から、タワー状に伸びた根の柱に上下を支えられた、とてつもなく大きな、黄色く光る卵型の物体。

 そして、柱の根本には、信じられない光景が広がっていた。

「おい、あれ、全部ゴブリンかよ……!?」

「柱から、ゴブリンが生まれてる!?」

 ユウジとミサキが、かすかな恐怖さえ感じられる声でつぶやいた。

 視界のはるか下、広大な円形の空間を、万単位の数のゴブリンが埋め尽くして蠢いている。

 さらに、柱の根本あたりに空いた無数の穴から、粘液まみれのゴブリンがズルズルと這いだしてきているのだ。

 巨大空間の外周部には、先ほど、私たちが発見した、「武器畑」が拡がっている。

「ここで生まれたゴブリンたちが、あの畑で装備を調えて、根の先端に向かって出撃していたのか……とんでもない生産力だな」

 さすがに、表情を強ばらせてマコトがつぶやく。

「十年間、毎日、何百体も倒しても終わらないわけだね、こんなに大量に生み出されていたなんて……」

 眼下に蠢く何千というゴブリンを見下ろし、ゴウタも声を上ずらせる。

「でも、センターコア壊せば、これ、終わるんですよね?」

「多分……ね。でも、あの数のゴブリンを突破して、コアまで到達するのは、さすがに無理っぽいね」

 すがるような表情で見つめてくるトモコに微笑みかけながら、わたしは厳しい現実を告げる。

「だね。弓でコアを直接狙ってもいいけど、この距離じゃあ、矢を全部使っても破壊できる保証無いなぁ」

 弓使いのミサキは、センターコアへの距離を計測しながら、フウッ、と溜息をつく。

「魔法攻撃するのは、ちょっと遠すぎますね」

 トモコも、不安げな様子を隠さずに言った。

「どうする? 壁の開け方は判ったことだし、一旦引き返して、召喚者チームの連合軍で攻めるのが、策としては最も確実だと思うんだが?」

 チームリーダーのマコトは、慎重な提案をしてくる。

「それがいいと思うけど、壁を開けられるのがわたしだけだった場合、戦力の投入に支障をきたすかも」

 黄色い燐光を放つセンターコアを見据えながら、わたしは意見する。

「何か、いい手でも?」

「うん。マコトの嫌いな、無茶な手だけど、ここから直接、センターコアを攻撃する作戦を思いついた」

「一応、説明してくれるかな?」

 慎重派のチームリーダーは、説明を求めてくる。

「無茶だけど、このチームなら……レジェンドメイカーズのみんなとだったら、成功率の高い作戦だと思うよ」

 チームのみんなを見回したわたしは、確信を胸に、作戦を説明し始めた。

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