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レジェンドメイカーズ  作者: 蒼井村正
13/18

13:「隠された力(ヒドゥンスキル)」

迷宮樹に突入したレジェンドメイカーズは、ゴブリンたちとの戦闘に突入する。

13:「隠されたヒドゥンスキル


 「……今日は、俺に先陣切らせてくれないかな?」

 普段は後衛を担当している重装戦士のゴウタが、珍しく前に出てきた。

「新しいスキル、試してみたいんだね? いいよ。ルシールとユウジは、ゴウタのサポートを頼む」

 チームリーダーのマコトが即決でフォーメーション変更を伝えてくる。

「了解!」

「ちっ、しょうがねえなぁ。今回だけだぞ!」

 こういうときに、マコトが修得しているコマンダーのスキルは便利だ。

 各メンバーの担当と戦術が、瞬時に脳裏に閃いて、わたしとユウジは、ゴウタの後方数メートルの所で待機する。

「ありがとう。頑張るよ!」

 礼を言って、兜の面覆いを下げたゴウタは、自分の身長ほどもある大型剣を脇構えにして、ゴブリンたちの襲来を待った。

「あれが、円月流の基本の型、『太刀待ち』だよ……」

 既に弓の矢をつがえて、支援体制を整えているミサキが解説してくれた。

 型だけを真似するなら簡単そうだが、スキル修得による術理が伴っていないので、習得者のような動きは不可能らしい。

 ペタペタという裸足の足音が、それから間もなくして聞こえてくる。

 足音から察すると、数はおよそ十匹という所か?

「ウオオォォォォーッ!!」

 重装戦士が、吠えた。

 敵の攻撃衝動を刺激し、ヘイトを一身に集めるスキル、『ウォークライ』だ。

 ヘイトを集めると同時に、敵の冷静な判断力を鈍らせ、フォーメーション攻撃を阻害するという追加効果もある。

 敵の足音が聞こえるということは、こちらの声も確実に届くということ。ゴウタは堅実な戦い方を好むタイプらしい。

 数メートル先の曲がり角から、緑色にヌラついた肌のゴブリンたちが湧き出てきた。

「ケェェェェェ~ッ!!」

 ゴウタの雄叫びに対抗するかのように、耳障りな声を上げたゴブリンたちは、細身の剣を振りかざして、カウンター待ち状態の重装戦士に突撃する。

「フウウウゥゥンッ!!」

 大きく息を吐き出しつつ、ゴウタは巨大な剣を振り抜いた。

「一の太刀、昇月!」

 ミサキが、興奮した口調で言った。

 斜め下から薙ぎ上げる一撃は、同時に二匹のゴブリンを両断し、そして……。

「ハアアッ!」

 重厚な甲冑に身を包んだ巨漢は、流れるような動きで踏み込みつつ、大きく円を描くような横薙ぎの一閃で、同時に数体を吹き飛ばす。

「わぁ、『水面月』まで修得してるんだ!」

 ミサキが上げる感嘆の声を背中で聞きながら、わたしとユウジはほぼ同時に地を蹴って突進、残りの敵を瞬時に斬り伏せた。

「これで全部……かな?」

 敵の気配が無い事を確認しつつ、納刀する。

「だな……。しかしゴウタよぉ、オレたちの分、もうちょっと残しておいて欲しかったぜ! 美味しいところ全部持って行きやがって!」

 文句を言いながらも、ユウジの口元には笑みが浮かんでいる。

「みんな、確実に強くなってるね。さあ、探索を続けよう」

 満足げに言ったマコトを中心にフォーメーションを組み直し、探索を再開した。

「……分岐路か……三つに分かれてるけど、どっちに行く?」

 トンネルの分岐で立ち止まったユウジは、三つの穴を交互に覗き込みながら悩んでいる様子だ。

「……こっち、だと思う」

 わたしは、無意識のうちに、左側のトンネルを指さしていた。

「ルシールさん、わかるんですか?」

「もしかして、探索系の上位スキルも修得してるとか?」

 トモコとミサキが聞いてきたが、わたしは首をかしげてしまう。

「いや、スキルじゃない、と、思う。なんとなくだから、決断はみんなに任せるよ」

「よし、ここはルシールの意見に従おう」

 いつでもマコトは即決行動派だ。

 それから少し歩いたところで、また、分岐があった。

「……?」

 みんなの視線が、わたしに集中してくる。

「え? また、わたしが決めるの? ……今度は、こっち、かな?」

 右側を指さす。

「あの、言っておくけど、確信があるわけじゃ無いからね。なんとなくだから」

 ただの勘で、みんなを引っ張り回しているような、申し訳ない気持ちになって、ついつい言い訳してしまう。

 これは、ただ道を間違えた! では済まされない、命がけの探索行動なのだ。

 わたしの気まぐれが、このステキなチームを死地に誘ってしまうことも、充分あり得るのだ。

「それでも構わないぜ、だろ、みんな?」

「はい。ユウジさんの言うとおりです」

 ユウジの言葉に、トモコも即座に乗ってくる。

「そう言ってもらえると、ちょっと助かるよ……むっ! 敵、来るみたい」

 この数分間、まったく感じられなかったゴブリンの気配が、右側のトンネルから迫って来る。

「ルシールが選んだ道、正解なんじゃないかな?」

 ゴウタが迎撃態勢に入りながら、ポツリと言った。

「今度はオレが斬り込むぜ、いいよな?」

「なら、わたしは後詰めで……」

 右側のトンネルは、少し狭い。二人が並んで闘うのは、無理がありそうだ。

「よし、それで行こう!」

 即決したマコトの戦術プランが、意識に流れ込んでくる。

 後頭部の辺りに涼やかな風を当てられているみたいな、この感触、嫌いじゃないな……。

「行くぜぇ!」

 ゴブリンの群れにユウジが突っ込んだ。

「とりゃあぁぁ~!」

 地を蹴って、トンネルの天井近くまで跳躍したユウジは、まるで宙を舞っているような華麗な剣さばきで、数体のゴブリンを瞬時に斬り倒す。

 着地した所を、剣で突こうとしたゴブリンの頭部が、トモコの放ったペブルショットに打ち抜かれ、その後ろに居たもう一匹の顔面に深々と食い込む。

「援護アリガトよッ!」

 顔面に小石を食い込まされて仰け反ったゴブリンを一刀で斬り捨てたユウジは、両手の剣を振るい、残りを全て死体に変えた。

「ふぅぅ~!」

「フウゥ~じゃないッ! ルシールに残しておいてやりなさいよ!」

 してやったり、という表情で息をつくユウジに、ミサキがツッコミを入れる。

「いや、わたしは別に……」

「まあ、討伐ポイントは、探索に参加しているチームメンバーにも少しずつ分割されて入るからね」

「討伐ポイント?」

 マコトの説明に、わたしはまた首をかしげてしまう。

 もしかしてわたしって、何も知らないまま、探索に出されてしまっている状態なのだろうか?

「うん。経験値、とか呼ぶ人もいるみたいだけど、いわゆる、スキル修得に必要なポイントが、戦闘や探索で加算されていくんだよ」

 説明好きなミサキが解説してくれる。

「で、当然のことながら、敵を撃破した召喚者に一番多く功績ポイントが割り振られるってわけ」

「他にも、アシストや指揮、回復なんかでしか入らない技能ポイントもあるから、自分の伸ばしたいクラスに応じた行動が必要になってくるね」

 ミサキとマコトの二人がかりの説明で、だいたい理解できた。

 「なるほど。そういうことなんだね……。あっ! また敵の気配が!」

「戦力小出しか? 愚かな手だな……って、おい、多いぞ、これ!」

 ユウジの表情が、緊張で引き締まる。

「今度は、わたしが前に出てもいい?」

 刀の柄に手をかけたわたしは、メンバーの返事を聞かす、前に踏み出した。

「無理と無茶はするなよ、ルシール」

 マコトの言葉に無言で頷き、わたしはさらに前へ……。

 狭い通路を埋め尽くして迫るゴブリンの数は、おそらく四十体はいるだろう。

 その先頭には、迷宮樹の成長制御コアを守護しているという大型種、ガラゴブリンの姿もある。

「ハッ!!」

 わたしは、一気に地を蹴って、低い姿勢で突進。

 おそらく、探索者から奪ったものであろう大型剣を振りかざしたガラゴブリンの胴を薙ぎ、その背後に群れていた小型ゴブリンの群れに突っ込んだ。

「ヤァァァァァァッ!!」

 気合い一閃、自分でも、何回斬ったかわからぬ連続斬撃を放って、緑の小鬼の群れを切り刻んでゆく。

「遅い!」

 最初に感じたのは、それだった。

 ゴブリン殿の動きが、ものすごく遅く見える。

 いや、動きだけでは無い。噴き上がる血飛沫も、まるで宙に静止しているかのようだ。

 止まった時の中で、わたしだけが、目にも止まらぬ速度で刀を振り、ゴブリン共を斬り裂いてゆく。

 突進の勢いで、ザーッ! と床を滑りながら納刀したわたしの背後で、数十の肉片に切り刻まれたゴブリンの群れが、血溜まりの中にうずたかく積み上がった。

「……すっ、すげぇぇぇ!」

「これが……赤の力なの!?」

 ユウジとミサキの上げる声を聞きながら、わたしは仲間たちの方を振り返る。

「あっ!」

 わたしを見たトモコが、驚きの声を上げた。

「え? どうか、した?」

「あ、あの……ルシールさんの目、金色に光っていたような……」

「うん、アタシも見た」

「僕にも、そう見えたね」

「俺も……」

「ええっ! オレ、ルシールの剣捌きに見とれてて、見てなかった!」

 どうやら、ユウジ以外の全員が、わたしの目が金色に光っているのを見たらしい。

「もしかしたら、エルレイさんの言ってた、ヒドゥンスキルが発動していたのかもしれないね」

 マコトの言葉を聞きながら、わたしは、自分の目が、ほのかな熱気に包まれているのを感じていた。

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