12:「始動! 新生レジェンドメイカーズ」
ルシールを加えたレジェンドメイカーズは、迷宮樹の攻略に挑む。
12:「始動! 新生レジェンドメイカーズ」
成長する迷宮、迷宮樹の根の先端に埋め込まれた門扉の前に、わたちたち、レジェンドメイカーズのメンバーが勢揃いしていた。
「突入前に、最終確認しておくね? ルシール、レジェンドメイカーズの、基本ルールは?」
チームリーダーのマコトが、新規メンバーであるわたしに問いかけてくる。
「……無理はしない、無茶もしない、だったよね?」
「そう。それは、キミが加入した今も変わらない。焦らず、コツコツと実績を積み重ねていこう」
わたしを見つめ、おだやかに微笑むその顔は、やっぱり美形だ……。
「まあ、要は、突っ込みすぎて死ぬな! ってことだろ?」
いかにも突っ込んでいきそうなタイプの軽装戦士、ユウジが口を挟んできた。
「もちろん、死なないというのは当たり前だけど、大きな傷を負ったり、他のメンバーを危機に陥れたりするような行動は禁止だからね? 僕は、誰一人失わず、このチームで伝説を作り上げたいんだ」
真摯な口調で告げるマコト。
どうやら、レジェンドメイカーズという、ちょっと大それたチーム名の裏には、並々ならぬ決意が秘められているようだ。
「わかってるよ! だから、戦闘指示は任せたぜ、マコト!」
「ああ。全力で、戦術指示を出すよ」
頷くマコトは、チームリーダーであり、ヒーラーであり、コマンダーというレアスキル持ちでもある。
コマンダースキルとは、一定範囲内にいるチームメンバーに、的確な指示を瞬時に出せる、情報伝達系のスキルだ。
それには極度の精神集中と、闘い全体を感知できる複数のスキルの同時発動が必要なため、マコト自身はほとんど戦闘に参加できない。
マコトをガードしつつ、中距離、遠距離支援も行うのが、弓使いのミサキと、魔道師のトモコ。
ミサキは快活な性格の美女で、トモコは、どこか自信なさげな表情をした、小柄な美少女だ。
さらに、中衛で防御、攻撃を柔軟に切り替えて担うのが、重装戦士のゴウタ。
彼の基本戦術は、マコトたちに向かって行きそうな敵を、ウォークライというヘイト誘導スキルで引きつけ、襲ってきたところをカウンターで迎撃するというもの。
そして、前衛を務めるのが、全身赤でコーディネートした軽装戦士のユウジと、新メンバーであるわたし、ルシール・ケイオスということになる。
ユウジは、二本の剣を使い、素早い動きと攻撃で敵を翻弄する戦闘スタイルを好む。
彼の談によると、「カッコイイから」らしい。
「今日の探索は、戦術パターンの確認を兼ねているから、成長コアの発見、撃破にはこだわらないで行くよ。小規模な遭遇戦を数度行って、課題を見つけられたらいいな、って思ってる」
マコトの説明を聞いて、ユウジはちょっと不満そうな表情になる。
「せっかく、ルシールが加入したのに、ちょっと消極的すぎないか?」
「ルシールの戦闘能力についてはデータ不足で、まだ、僕もどういう戦術パターンを指示するか読み切れていないんだ。だから、しばらくは今まで以上に慎重に行く」
穏やかな口調であったが、マコトの表情からは、絶対に妥協しないぞ! という強い意志が感じられる。
「了解! 無理、無茶しないってのが、ウチの絶対のルールだからな」
マコトが、意外に強情な性格なのを熟知しているらしいユウジは、ちょっと苦笑しつつ頷いた。
「俺も、新しいカウンタースキル修得したから、機会があれば試してみたいね」
大柄な体躯を、重厚な鎧に包んだゴウタが、穏やかな声で言った。
「ゴウタ、念願の、『円月流』の初伝スキル解放したんだよね?」
ミサキが補足説明してくれる。
「円月流?」
わたしの問いに、
「そう! カウンター特化の剣術流派で、とにかく待ちの体勢から、一撃必殺の技を繰り出すんだよ! アタシが尊敬してる、『爪王』のリーダー、ケイさんも、円月流の使い手なんだ!」
さらに追加説明してくれるミサキ。
「へえ、そうなんだ……」
マコトと何やら知り合いだった雰囲気の、凛々しさと色香を併せ持った美女の顔を思い出しながら、わたしは頷く。
「ケイさんはねぇ、凄いんだよぉ。刃が三枚に分かれるギミックソードで、神速のカウンター攻撃キメるの!」
よっぽど、ケイさんに憧れているのか、瞳をキラキラ輝かせ、興奮した口調で話すミサキ。
「でね、斬られた敵から噴き上がる三条の血飛沫が、巨大な爪の痕みたいな軌跡を描くのが、チーム名の由来にもなってる、『爪王』って技なんだよ!」
「へえ、自分の得意技を、チーム名にしてるんだ。よっぽど自信があるんだね」
わたしも、その技を見てみたい、という好奇心をおぼえつつ、相づちを打つ。
「そういえば、トモコは何かスキル追加したのか?」
ユウジの問いに、
「え? あの……私は、魔力放出の安定化スキルとか、ないかなぁ、って相談したんですけど、それは無いって……。なので、保留中です」
魔力量だけなら青の首輪クラスに匹敵するという魔道師少女は、気弱そうな笑みを浮かべる。
「いいんだよ、トモコは、ペブルショットの威力がすっごいから、あれだけで戦えちゃうもの!」
落ち込みかけているトモコを、ミサキが即座にフォローする。
ペブルショットとは、小石を風の結界で包んで高速射出する攻撃魔法で、基本的には牽制や護身用なのだが、トモコが使うと、ゴブリン程度なら当たり所によっては即死させられるほどの威力を発揮するらしい。
「おうっ! 頼りにしてるぜ!」
「うん。トモコの援護は正確だからね」
ユウジとゴウタも、即座にフォローに回る。
「あ、あれだけは得意だから……。頑張ります……」
少し表情が明るくなったトモコは、コクリ、と頷く。
やっぱり、このチームはいい……。
「さて、それじゃあ、行こうか?」
「よーし! 出発~♪」
こうして、わたしがチーム加入して初めての探索行動に出撃した。
三重の鉄格子を抜け、迷宮樹の根の内部に形成された、光るトンネルの中を進んでゆく。
「ここ数日、ゴブリンたちの数が増えているらしい」
最後尾を注意深く進みながら、マコトが言った。
「らしいね。予想外の数の群れに遭遇して、命を落とした探索者もいるって……」
わたしも、そういう現場に立ち会ってしまった経験があるので、表情がどうしても硬くなる。
「やっぱり、セントラルコアに近づいているから、でしょうか?」
トモコが控えめな口調で話しかけてきた。
「そうだね。僕はそう思っている。迷宮樹を根本的に制御している巨大コア、セントラルコアまで、あと少しで到達できそうだからね」
トモコの質問にマコトも同意する。
「くぅぅ~! 俺たちで撃破してぇなぁ! そしたら、マジで伝説級の功績じゃねえか?」
「だよねー、まあ、焦りは禁物。無理と無茶はしないで行こうねー」
はやるユウジを、ミサキがやんわりとなだめる横で、ゴウタも穏やかな笑みを浮かべつつ、頷いている。
「おそらく、ゴブリンの生成を行っているであろう施設も、セントラルコア周辺に存在しているはずだ、と、僕は想定している」
自説を話すマコト。
「討伐が進んで、迷宮樹の根の面積が減ったことで、送り出されてくるゴブリンたちの密度が、相対的に上がっているんだと思う」
「なんだか、あと少しって実感が湧いてきたぜ! ムッ!?」
先頭を進んでいたユウジの表情が引き締まる。
「来るぜ……。指揮よろしくッ!」
マコトに言ったユウジは、シュルンッ! と鞘鳴りの音を立てて、二刀を引き抜く。
わたしも、刀の柄に手をかけ、抜刀の姿勢を取った。
チーム、レジェンドメイカーズとしての最初の戦闘が、始まろうとしていた。