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レジェンドメイカーズ  作者: 蒼井村正
11/18

11:「龍火の洗礼」

スキルを修得したルシールは、サブウエポンを求めて、武器鍛造所を訪れる。

11:「龍火の洗礼」


 「……とりあえず、今のところ、ルシールさんが修得できるスキルはこれだけのようですね」

 石版に浮き出たスキルツリーの輝線を、相変わらず愛撫でもするかのようになぞりながら、スキルコンサルタントの金髪美青年、エルレイ氏は言った。

 あの指の動きを見ていると、自分の身体が撫で回されているような気分になって、背筋の辺りがムズムズしてしまう。

「魔法剣が二つと、基礎の攻撃魔法が数種類、それに、サブウエポンの同時使用スキル?」

 新たに修得したスキルを確認してみる。

「ええ。あなたがメインで使っている、その刀とは別の武器を、攻撃のコンビネーションに組み込めるスキルですね」

 わたしのスキルツリーを初めて目にした時の、熱狂的な物腰は落ち着き、エルレイ氏は、初対面時の紳士的な口調に戻っている。

「そういえば、ルシールって、サブの武器持ってないよね?」

 わたしのスキルツリーが表示されている石版の隣に、自分のスキルツリーを表示させて何やら悩んでいたミサキが声を掛けてきた。

「うん。召喚されたときに、この刀は固有武器として、一緒に召喚されたらしいから、これしか使ってなかったね」

「へぇ、赤の人って、固有武器とか、最初から装備してるんだ。やっぱり凄いんだなぁ……さて、アタシもスキル修得しなきゃ!」

 素直に感心した口調で言ったミサキは、ふたたび、自分のスキルツリーと向き合う。

 彼女のスキルツリーは、首輪の色と同じ緑で表示されていて、その数は五本。

 どうやら、緑は、伸びしろがある分、いろいろなクラススキルを同時進行で伸ばせるようだ。

「あとは、この、ツリーの根元当たりから真っ直ぐに伸びている、ブランチスキル、これは謎ですね。よほど、修得難易度が高いのか、あるいは特別な発動条件があるのか……」

「枝の出所からすると、探知、感覚系スキルっぽいですね?」

 首をかしげるエルレイ氏に、マコトが控えめな口調で意見をのべた。

「ええ。そうですね。もしかすると、ヒドゥンスキルと呼ばれる、固有の特殊スキルかも知れません。興味が湧きますね」

 エルレイ氏、紳士的で美男子なのだが、スキル関連の話になると、何か妙に熱量が増す。

 まあ、それだからこそ、スキルカウンセラーやっているのだろうけれど。

 それから少しの間、わたしは、マコトとエルレイ氏のスキル談義を拝聴していた。

 その隣で、ミサキは別のカウンセラーと一緒に、修得すべきスキルについて悩んでいる。

「えっと……ミサキたちはまだ、まだ、しばらくここに居る? わたし、ちょっとサブの武器を見てこようと思うんだけど?」

 ちょっと手持ち無沙汰になってきたので、中座を申し出る。

 サブウエポンスキルを早く試してみたい……。のためには、サブウエポンを手に入れねばならないのだ。

「あ、お引き留めしてすみませんでした。またのご来訪をお待ちしております」

 エルレイ氏の丁寧な区長に送り出され、数歩歩いて振り向くと、石版に表示されていたわたしのスキルツリーは消えていた。ツリー保持者が一定距離以上離れると、消える仕組みらしい。

 市場をちょっと散策したわたしは、武器鍛造所がある市街の外れに足を向けた。

 武器鍛造所のエリアは、二重になった城壁の間を流れる、幅広な運河を隔てて存在している。

 対岸では、大きな水車が幾つも回転していて、運河の水をくみ上げていた。

 武器の鍛造には大量の水も必要なようなので、そのための用水路でもあるようだ。

 運河に架かる橋のたもとに立つと、絶え間なく響く槌音が、川面を吹き抜ける風に乗って聞こえてくる。

「おっ! ルシールじゃねえか!?」

 声を掛けられて振り向くと、全身赤のコーディネイトでキメた、赤い髪の男が立っていた。

 ユウジ……わたしが所属することになった探索者チーム、『レジェンドメイカーズ』のメンバーで、クラスは軽装戦士だ。

 物静かなマコトや、紳士的なエルレイ氏と比べると、野性的で、ちょっと悪っぽい見た目のユウジだが、召喚者の例に漏れず男前ではある。

「お、やっと起きたんだ? さっき、長屋の方にも行ったんだけど、そのときは、まだ寝てるって言ってたね?」

「おう! まだ少し酒が残ってるけど、な……。で、なんでこんなところに居るんだ?」

「うん、ちょっと、サブウエポンを探しに行こうと思ってね」

 対岸の鍛造所に視線を投げつつ、答えた。

「丁度良かった、オレも武器探しさ。一緒に行こうぜ!」

「うん。いいよ」

 運河に架かった橋を、二人で渡ってゆく。

「制御コアぶっ壊した時に、オレの武器、ちょっとだけ刃こぼれしちまったみたいなんだ」

 わたしの隣を歩きながら、ユウジは話しかけてきた。

「ああ、結構派手に連撃仕掛けていたからね……」

「研ぎ直してもらおうかと思ったんだが、この際だから、アップグレードしてもいいかな、ってな?」

「ふむ。新しい武器も、やっぱり、二刀にするの?」

 ユウジの背中で揺れる、二本の剣を見ながら質問する。

「もちろんだぜ!」

「二刀流って、難しくない?」

「それがいいんじゃねえか! なんといっても、カッコイイだろ!?」

「そこが選択基準なんだ?」

「かっこよさは大事だぜ! それにしても、赤かぁ……いいなぁ」

 わたしの首輪に、チラチラと視線を送りつつ、ユウジは本当に羨ましげな声を上げる。

「え?」

「オレ、全身赤で揃えてるのに、首輪だけが緑だもんなぁ。そこだけ色が違うのが、もう、気になって気になって仕方ないぜ!」

「あ、そういうこと?」

「ああ。オレ、どうせ軽装戦士しかやらねえんだから、クラススキル特化の赤になりたかったあぁぁぁ~!」

 首輪以外は赤でキメた軽装戦士は、橋の上で身悶えしながら悔しがる。

 ユウジって、カッコイイかどうかが価値基準の人らしい。


 端を渡りきると、周囲は槌音に包まれた。

 空気には、炭の燃えた匂いと、焼けた金属の香りが混じり、他の地域とはまったく異なる雰囲気を醸し出している。

「どこか、おすすめの店はある?」

「そうだなぁ。品揃えと、カスタマイズの腕前なら、ナガトさんのところがいいんじゃねえかな? オレもそこに行くつもりなんだけど?」

「じゃあ、そこで……」

 ユウジとともにやって来たのは、ひときわ大きな工房を構えた武器鍛造所だった。

 やはり、ジュメル様式の円筒形の建物で、真ん中には広い中庭があり、井戸が設えられている。

「ナガトさん、いるか~?」

 ユウジは慣れた様子で、工房に入ってゆく。

「うぉ! いつ来てもここは暑いなぁ……」

「おう、赤髪の小僧か? また武器折っちまったのか?」

 工房の奥から、筋骨たくましい中年男性が、汗を拭きつつ現れた。

 髪を極端に短く刈り込んだ坊主頭に無精ヒゲ面だが、それを差し引いてもなかなかの男前だ。

 首輪の色は緑……職人さんも、召喚者なのか? と、ちょっと驚いてしまう。

「今回は刃こぼれだけだよ! でも、ちょっと報酬が入ったんで、武器を新調使用と思ってな」

「毎度あり、じっくり選んでいきな!」

「そんじゃ、オレは完成品売り場の方を見てくるよ」

 鍛冶場の暑さが苦手なのか、ユウジは足早に去って行く。

「あんたは?」

「あ、わたしもサブウエポンを探しに……」

 ぶっきらぼうな中年男の問いに、わたしは微笑みながら答える。

「あの小僧といっしょに、行かないのかい?」

「邪魔でなければ、ちょっと見学させてもらえませんか? こういうの、興味があるので……」

 響く槌音と、切削される功罪が上げる火花、そして、立ちのぼる水蒸気や油煙に、好奇心を煽られていた。

「いいぜ。好きなだけ見ていきな。その代わりといっちゃ何だが、あんたのその武器、ちょっと見せてもらえないだろうか?」

「ええ、かまいませんよ」

 わたしは、剣帯から鞘ごと抜き出した刀を、鍛冶職人、ナガト氏に手渡した。

「拝見するぜ……」

 両手で刀を受け取り、押し頂くように一礼した中年男は、慣れた手つきで鞘を払い、刀身に目をこらす。

「……!? これは……龍火の洗礼を受けた武器か!」

 目を大きく見開いた鍛冶職人は、低く押し殺すような声を漏らした。

「龍火?」

「ああ。高位ドラゴンのブレスを受けて、焼け残った武器ってことだ。こいつは、とんでもないレアものだぞ!」

 刀の切っ先までじっくりと見つつ、ナガト氏は唸るような声を上げた。

「えっ! そうなんですか? それ、わたしの固有武器らしくて、一緒に召喚されたようなんです」

「ふうむ……赤ともなると、こういう超レア武器と一緒に召喚されるのか……しかし、龍火鋼の武器とはなぁ」

「そんなに珍しいんですか?」

「ああ。ドラゴンのブレスを受けると、ほとんどの武器は、跡形もなく灼け崩れてしまうんだが、中には奇跡的に原形を留めて残るものもある。そういう武器は、金属分子レベルで変質して、異様なまでの強度を持つようになるんだ」

 刀身を凝視したまま、武器職人は説明してくれる。

「研ぎ直しや穴あけ、彫刻なんかの加工も出来なくなる代わりに、折れず、曲がらず、斬れ味も落ちない。武器としては理想的なモンになるな」

 説明しながら、刀身を返して峰の方に視線を這わせ、更二項一度手首を返して、反対側もじっくりと見定める。

「しかしこいつは見事なモノだな。焼きムラが全くない……。いやぁ、いい物見せてもらったぜ。俺たちの技術では、とうてい再現できないものだけど、な……」

 刀を鞘に納め、一礼してからわたしに返しながら、ナガト氏は少し寂しげに言った。

「お、そうだ、ちょっと待ってろ! いい物を持ってきてやる」

 工房の奥に引っ込んだ中年男性は、しばらくして、一振りの大型ナイフを持って戻ってきた。

「抜いてみな」

 手渡されたナイフを鞘から抜きだしてみると、それは、緩やかな『ヘ』の字型に湾曲した刃を持った、重厚な大型ナイフだった。

「こいつも、龍火の洗礼を受けた武器さ」

 ナガト氏は、説明してくれる。

「鞘や拵えは、ブレスで焼けちまったみたいなんで、俺が後から作ったものだけどな」

「そうなんですか?」

 わたしは、大型ナイフを軽く振って、バランスを確かめてみる。

 うん……悪くない感じだ。

「龍火鋼再現の手がかりになるかと思って手に入れたんだが、無理な品物だってわかって、ふさわしい使い手が来たら、譲ろうと考えてたんだ」

 ヒゲ面の武器職人は、わたしを真っ直ぐに見つめながら言った。

「ふさわしい持ち手かどうか、あまり自信は無いけれど、そういうことなら、これ、いただきます。おいくらでしょう?」

「金はいいよ」

「いえ、そういうわけにも……」

「じゃあ、鞘と拵えの分だけいただいておくかな?」

 男が提示した金額は、驚くほど安かった。

 


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