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第6話 妖怪

 食い千切られた肩を見て、一瞬何が起こったのかわからなかった。

 肩に走った激痛はこれまでに経験した事のない激痛、海人は歯を食いしばり、壁の青い顔から走って逃げていく。


「怖い、怖いよ…なんだあれ…痛ぇ…死ぬ…このままじゃ…」


 手に持った傷薬、おそらく飲むタイプだと思うのだが、蓋を開けて飲んでみる。

 すると、やはりファンタジー世界のように傷は回復した。


「なんだよこれ、いったいどうなってんだ…」


 痛みが引いて傷口が魔法のように回復していく。


(そもそもあの壁は何だ?俺達を逃がさないように囲んでいるのか…?)


 考えるだけで恐ろしい、あんな壁に囲まれて今まで生活していたかと思うと…

 海人は森の中を1人で走り続ける、見失った健二も気になるが、あいつの事だ、うまく宿まで逃げ帰ってるだろう。

 俺はそう考えて、森の中の安全そうな場所を探している。

 何故ならもう日が落ちて、森が暗くなって来たからだ。

 適当な場所で寝てて、またゾンビにでも出くわしたら危険だ、食べられてしまうかも知れない。

 しばらく走って行くと森を抜け、見知らぬ一軒家があった。


(どこだここは…誰か住んでいるのか?)


 家の周りをゆっくり歩いていると、後ろから声をかけられる。


「あの…」

「ひいいいぃぃぃっ!!」


 思わず飛び跳ねてしまい剣を構えてしまう。


「私、この家に住んでいる者なんですが、あなたは?」


 よく見ると相手は人間だった、しかも相手は俺と同い歳ぐらいの女だった。


(良かった…人間がいた、ああ、本当に助かった…)


 俺は倒れこむように後ろの木にもたれ掛かる。


「はぁ、はぁ、びっくりした、いや、俺は異世界から来た勇者だ…」

「異世界…?勇者…?」


 彼女は目を丸くして、聞き慣れない言葉でも聞いたかの表情をする。


「まあ冒険者みたいなものだよ」

「ああ、冒険をしているんですね!」


 ようやく通じたようだ、それで、この女も何故こんな危険な森に住んでいるんだろう。


「勇者さん、この森の中は夜になると、恐ろしい魔物でいっぱいになりますよ。森で夜に迷子になった人間が、朝起きたら骨まで食べられていたなんて事は日常茶飯事です」

「ええぇ!!?そうなのか!?」


「はい、ですから、今日のところは私の家に泊まっていきなさい。森の中で魔物に食べられて、死にたくないでしょう?」


 森の中ってそんなに危険なのかと、海人は森の方角を見て震えだす。

 そりゃ確かに、あんな青い顔みたいなのがいて、襲われたら俺は終わりだろう。

 俺は怖くなって彼女に泊めてもらうよう頭を下げてお願いした。


「お世話になります、よろしく…お願いします…」



 家に入ると、暖炉や椅子、ソファーなどがある。


「あんた名前は?俺は海人だ」

「リサです、よろしくお願いします」


 しかし海人に不安がよぎる、その疑問を、彼女にぶつけてみた。


「ああ、よろしくな。ところでリサ、森に魔物がいるっていったよな?」

「ええ、言ったわ」

「だったら、その魔物がこの家にまで襲ってくる事はないのか?」


 俺が不安がっていると、彼女は笑みをこぼし、紅茶を一口飲んだ。


「大丈夫よ、あの子達はこの家には近付いて来ないから」


(あの子達?まるで知り合いみたいな言い方だ…それに口調が…)


「近付けない?どうしてだ?」


 彼女の雰囲気が怪しい…お腹の辺りがモゾモゾと動いている。


「うふふっ…知りたいのね?」


 彼女のこの変わり様、なんだか危険な事のような気もする…


「あんた…そのお腹…いったい」


 そんな俺の疑問は無視して続けられる。


「あの子達が私に近付けない理由…知りたいのよね?」

「…ああ、頼む、教えてくれ…」

「魔物達の強さは様々、より強い魔物が弱い魔物を支配するのよ」

「そりゃ、自然界の法則だろ、動物だって人間だってそうだ」

「君、より強い魔物は、なんて呼ばれているか知ってる?」

「さぁ…「強い魔物」でいいんじゃねぇの?」


 彼女は「ふふふ」と不気味に笑いながら、やはりお腹の辺りがブルブル動いている。

 そもそもこんな森の奥の一軒家にドレスを着たお嬢様が1人で住んでいる時点でおかしいぞ。

 そして彼女は獲物を見るような目をしながらこちらを見て言った。


「彼らは「妖怪」と呼ばれているの、この辺りの妖怪は壁の主と…それから…」

「それから…?」


 何故だろう、電気は付いているのに部屋が薄暗くなっていく。

 彼女の足元になにやら、液体が垂れていた。


「おい、なんだこりゃ、リサ、何か地面に垂れてるぞ…」


 足元の赤黒い液体を眺めたあと、それは血だと気が付いた。


「あんた!大丈夫か!血がこんなに!!!」


 俺は上を見上げる…すると信じられない事が起こっていた…


(馬鹿な…見間違いか?)


 見上げると彼女の首が無かった。

 そして首から溢れ出ている赤黒い血が、ここまで垂れていると気が付いた。

 しかもそれだけじゃない、彼女のお腹の中がモゾモゾと動き、突然、服が破れてしまう。

 その中から現れたものを見て、俺は腰を抜かした。


 それは見知らぬ化け物の顔だった、目は無く、血が垂れている。


「ひいいいいっ!!!いいいい!!」


 俺は悲鳴をあげ、あまりの恐怖に歯をガタガタ言わせている。


 お腹の中から現れた顔は口を動かし、続きを話し出した。


「私、妖怪なんだ、今まで、ここに来る人間を殺して食べて来た」


 彼女の殺害現場のイメージが、何故か海人の脳に浮かんでくる。

 そこには、この館に迷い込んで来た人間を泊めて、寝てるときに首を切り落とし、殺害する彼女の姿。

 殺害した人間の生首と体は、お腹の化け物がムシャムシャと食べていた…

 何故か海人の頭にそのイメージが飛び込んで来て、俺は下呂を吐いてしまう。


「う…げぇっぇぇぇええええええっ!!」


 彼女はそんな俺の脅えも気にせず続けてくる。


「でもね、もう油断させるのも、待つのに疲れちゃった、だから今、君を食べようと思うの」


(今?まさかこのまま…)


 海人は咄嗟に腰に刺した鞘から剣を抜いて彼女に構えた。

 しかし彼女は警戒すらしていない様子だった、怖くないのだろうか?

 彼女はこちらに歩いてきて、お腹の中の顔はこちらをにっこりと笑って見ていた。


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