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Black Hedge 誓いの刃  作者: ROGOSS
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Moment The Hedge

「2001年から始まり、15年間争い続けた第三次世界大戦。人類が21世紀の始まりの年に一番最初にしたことは、世界を巻き込む大戦争でした。それも、最初は発展途上国同士の内戦見せかけた代理戦争から始まり、終いには先進国同士の技術の粋を集めた超高度戦争となっていきましたね。ですが……そんな時に現れたきへい(鬼兵)は戦争を終結させるには充分すぎる力を持っていました。稀少なレアメタル……その中でもごく一部のレアメタルに含まれるED8(イーディーエイト)は、未だに詳細はわかっていませんが、人間の細胞を活性化させ、普段は未使用となっている脳の可動領域を最大まで引き上げることができる……それにより、鬼兵に対しては通常の兵器では撃破が不可能となり、鬼兵は単身で一国を崩壊させることができました」


 長々と話しているDKO日本支部総司令の間藤(まとう)は、一息をつくかのようにコップを手に取った。

俺は呆然とその姿を見ているしかない。

 男性だというのに、日本人離れした白い髪は、髪を結んでいるゴムを取り去れば腰あたりまで伸びているらしい。長身であることもまた、彼を日本人とはかけ離れている存在たらしめている。その一方では、柔和な笑みを浮かべる整っている顔立ち、何かのおまけかのように鼻の上に乗っている丸眼鏡が愛らしさせ醸し出していた。

 女性職員は間藤の姿を見れば、人知れずその美しさに黄色い声を上げているらしい。

 だが、俺は知っている。

 日本人離れしているその容姿に隠されている秘密を……彼が抱えている闇がはたして何なのかを……

 そして彼もまた、俺が抱えている闇を知っている。お互いに闇については触れないのが暗黙の了解だ。このDKOにも、数え切れないほど同じような闇を抱えている者がいる。それでも彼らが今、平和のために、治安を守るために戦い続けているには……各々に決めている誓いがあるからだろう。

 俺にもまた、近いがあるのだから……その誓いを破ってしまった時、俺自身、どうなるかわからない。


「鬼兵は戦争の終結と共に、それぞれの国へと帰還しました。主要国で確認されているだけでも、第三次世界大戦中に出現した鬼兵の数は1000はいるとされています。ですが……鬼兵は人間の道を外れた者。まさに鬼です。鬼兵の力を一度でも振るった者に対する安念は消えていました。戦争終結による戦闘行為の厳罰化。また、戦闘時の非人道性……それらを問われ、元鬼兵の多くは裁判にかけられ極刑判決を受けています。それでも、生き延びた者達は……? 彼らが体の異変に気がつくまでに多くの時間は必要ありませんでした。血、戦いへの渇望。その結果起こる、鬼兵による猟奇的事件。鬼兵は己が求める血を見たい、争いを起こしたいという願望を耐えることが出来ず、してはならぬとわかりながらも、多くの事件を起こしました。さらに……その願望を利用するべく、裏世界では鬼兵は用心棒として、研究対象として売買されました。……現在では、既に死亡した鬼兵の肉体の一部を利用して戦後に創られた違法鬼兵も出現しています。お国を守るために戦った過去を持ちながらも、鬼兵となったことからの破壊への衝動を抑えきれない者、鬼兵の力を違法に使い、戦後の平和を楽しめない違法鬼兵……両者を取り締まるのが我々DKOのお仕事です」


「今更そんなにも長々と講義しなくとも知っている。どうして今更聞かなくちゃいけないんだ……」


「天崎くん……君が熱心に鬼兵を鎮圧する活動を知っていることは知っています。それが正規、非正規を問うてないことも。大半の職員は、違法鬼兵に対しては容赦ありませんから。彼らの気持ちも理解できますからね。DKOは黙認という形をしています。……ですが、アナタは違う。故に私はね、君にはいつまでも純粋でいて欲しいんですよ」


「……何が言いたいんだ?」


 間藤はコップを机の上に置く。瞬間、圧倒的な威圧感を部屋を埋め尽くした。

 どんな素人でもわかる。間藤の存在がどんな者であるのかを。


「忘れてください。スクイードなどという狩人に会ったことは。それはアナタの今後の人生において、決してプラスにはなりません」


「だが、事実をねじ曲げることはできない」


「報告書のことですか? ならば、書き換えてかまいません。総司令の私が言っているのです。これが私個人のお願いではないことはわかりますね?」


「DKO本部の命令ってことか……」


 いつもそうだ。

 俺の中で黒い感情が渦巻く。

 本部というのはいつもそうだ。どれだけ事実を伝えたところで、導線の途中で事実を書き換え、なかったこととする。

 手を握る。握った指の爪が手の平に突き刺さり、出血を起こしていることは今の俺には些細な問題だった。

 自分ではどうしようもない怒りがこみ上げてくる。



琴音 凛華(ことね りんか)さんのことは忘れてしまったのですか?」


 間藤の言葉を聞き、怒りが急速に収まっていく。

 脳裏に浮かんでいた紅蓮の炎は消え去り、次の瞬間には幼い少女が泣いている姿が浮かんでくる。幼いと言っても、年齢は12.3歳くらいだろうか……? 少女に近づいた血まみれの少年は彼女に何かを囁いた。


「わかっている。……すまなかった。この件の報告書は書き直す。それでいいんだろう?」


「わかってくれて嬉しいですよ。私も、わざわざ歴史のお話をしたかいがあったものです」


 俺は報告書を手に取り、部屋の外へと続くドアノブに手をかけた。


「間藤、戦争は終わったと思うか?」


 特に考えもなく発した質問。その答えがどのようなものであっても構わないと思っていた。ただ、聞いてみたかった。彼がどう答えるのかを。


「終わっていませんよ。むしろ、これからが本番です」


 その発言に驚き、俺は振り返った。窓の外を見ている間藤の横顔には、今まで誰も見たことがないような怒りが浮かんでいた。

 俺は静かに部屋を出ることしかできなかった。

設定メモ集

第三次世界大戦

各国で地下資源が近い将来に枯渇するといったことから、地下資源確保のために勃発した大戦。

最初はアフリカ大陸の小国同士の紛争や内戦であったが、次第に戦火が広がっていったことから大国も各地に参戦するようになった。

また、レアメタルから採取することができるED8を体組織に組み込むことで、極限まで身体能力を強化した兵士、通称「鬼兵」が登場する。鬼兵の中には超能力といった類いを扱うことのできる者もいたことが確認されている。

戦後、鬼兵は大戦中の非人道性から多くが死罪となった。


鬼兵

第三次世界大戦中に兵器として使用された超人の通称。

1000人ほどいることが確認されている。

現在生存している正確な数は不明であるが、違法鬼兵が裏社会で出回っていることから、一説では大戦中よりも多い鬼兵がいるのではないかとされている。

鬼兵を取り締まる組織として国連直轄対鬼兵組織DKOが存在している。

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