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第008話:加護?シラナイヨー

【前回のあらすじ】

上級狩人パーティー「明星」に助けられた俺は、彼らと一緒に狩りをすることにした。巨乳エルフに、鍛え上げた弓の技を見せつける。彼らは目を白黒させて言った。


「アンタは一体、何者?」

「ただの屋台の店主です」

 臨時パーティーを組んだ俺たちは、文字通り森の中を蹂躙した。もう一頭出てきたエビルベアを一撃で屠り、突撃猪やビッグカウも十頭以上狩った。気がついたらもう日が暮れている。


「今日はこの辺で野営にしよう。カトーさんの収納袋のお陰で、慌てて街に戻る必要はないからな」


「念の為、罠を張っておくわね」


 オイゲンとリフィナが周囲の木々に糸のようなものを巡らせている。俺はガスコンロを取り出した。


「一人分作るのも五人分作るのも同じですから、良かったら一緒にどうです?」


「おぉぉっ! そりゃ楽しみじゃっ! なにせあのホットドッグを作っているお主の料理じゃからの。さぞかし美味いモノなのじゃろ?」


 さて、夕食は久々に「コメ」を喰いたい。纏めて作ることができ、かつコメに合う食べ物といえば「カレー」である。あらかじめ準備しておいたため、四人の前でスキルを発動する必要もない。俺は早速、収納袋から食材を取り出し始めた。


「コメは土鍋で炊くから、まずはカレーの仕込みだな」


 圧力鍋に牛脂、バター、すり下ろした生姜とニンニクを入れて中火に掛ける。ニンニクの香りが立ってきた頃に、微塵切りにした玉ねぎを入れる。どうせなら多めに作っておきたいので、玉ねぎは四個分を使った。飴色になるまで時間を掛けて炒める。


「うぉっ……スゲェ美味そうな匂いだな!」


 四人が鼻をヒクヒクさせている。この玉ねぎを炒めている時に「今夜はカレー!」という感覚になる。玉ねぎの甘く芳ばしい匂いは、異世界でも魅力的らしい。

時折、鍋を混ぜながら別のコンロで肉を焼く。牛肩ロースブロックだ。巨大な塊肉を包丁で二センチ大のサイコロにカットし、塩コショウを振る。鉄のフライパンに牛脂を落とし、煙が立ったところで肉を焼き始める。


 ジュゥワァァァァッ……


 肉の焼ける音で焼き加減を判断する。表面に焼き目を付けたところで肉を取り出し、皿に取り出しておく。肉の脂が広がるフライパンで、一口大に切った人参、ナス、シメジを炒め、火を通す。玉ねぎが程よく茶色くなったところで、先ほどのサイコロステーキ、月桂樹の葉、そして水を入れる。野菜は入れない。圧力を加えると崩れるからだ。


「強火にして加圧開始。その間に……」


 カレーだけでは寂しいのでもう一品作ることにする。カレーに合う副菜といえば、コールスローだ。キャベツ、人参を千切りにし、玉ねぎも薄くスライスする。ボウルに塩水を用意し、千切りにした野菜を浸す。こうすることで、サラダにした時に水気が出なくなる。別のボウルにマヨネーズ、酢、砂糖、塩、胡椒を混ぜて調味液を用意しておく。水気が出るので、野菜は直前で和える。


 シュッシュッシュッ……


 圧力鍋が音を立てていた。そろそろコメを炊く必要があるだろう。「直火専用五合炊き土鍋」を用意する。本当ならコメに水を吸わせておくべきだが、今回は無洗米を使ってすぐに炊く。五合分のコメと水を入れ、沸騰するまで中火に掛ける。その間に圧力鍋の加圧が終わる。人参などの野菜類を入れ、数分煮込み、火を止める。カレールー、ガラムマサラ、カイエンペッパーなどを加えて香りを立てる。


「な、なんだ? この匂いは? 初めて嗅ぐぞ?」


「香辛料の香りじゃな。しかも相当に複雑な香りじゃ」


「もうダメッ…… アンタねぇ、食べさせるんならチャッチャと作りなさいよっ!」


「リフィナ、失礼だぞ。カトーさん、申し訳ない」


「いえいえ。もうすぐ出来ますよ」


 ルーが完全に溶け込んだのを確認し、再び煮込み始める。焦げないように時折かき混ぜる。同時に土鍋の面倒も見る。中火から弱火に落としてから十五分、蓋の縁から水気が無くなり、土鍋からパチパチという音がし始めた頃に、中火に戻して二十秒、そして火を止める。絶対にやってはいけないのは、ここで蓋を取ることだ。最後の十分間の「蒸らし」が重要なのである。


「よし。出来上がりだ」


 蓋を外すと、ピンッと立ったご飯が出来あがっている。シャモジで混ぜると、程よく御焦げもできていた。炊きたてのご飯をカレー皿に盛り、粉チーズを振りかける。コポコポと泡を弾かせているカレーをタップリと掛ける。木のスプーンをルーに挿して、完成だ。


「ホイッ! 俺の故郷の料理です。あ、あとコールスローも作りますね」


 しっかりと水気を切った千切りの野菜を調味液の入ったボウルで混ぜ合わせ、それを一人用の器に取っていく。木のフォークも用意した。


「カレーに合う副菜〈コールスロー〉です」


 地面に胡座し、カレーが盛られた皿を手にしたまま、全員が固まっていた。毒でも入っていると思っているのだろうか? 俺は自分の分を盛ると、スプーンを手にした。


「じゃ、いただきまーすっ!」


 ご飯とルーを一緒に口に入れる。カイエンペッパーの辛味、ガラムマサラの豊穣な香り、そして肉や野菜の旨味がタップリと溶け込んだカレールー。それらが炊きたての御飯と混ざり合い、万民を虜にする一品へと変わる。


「ウンマッ! ホラ、みんなも食べてください」


 俺の食べ方を真似て、リフィナはカレーを口に入れた。その瞬間、カッと目を見開き、夢中で食べ始める。他のメンバーたちもバクバクと食を進めていた。


「こりゃ美味いっ! エールを飲みたくなるのぉっ!」


 ドワーフらしく、ドルガは酒を欲しがった。まぁ、さすがに缶ビールまでは出せない。水だけで我慢してもらおう。


「こんな料理、初めてだわ。この野菜も美味しい。酸味、甘味、塩味が混ざり合って、いくらでも食べられそう」


 一人一合分のライスを用意したが、全員が綺麗に食べてしまったようだ。カレーは残っているが、ライスが無い。俺はパンを用意した。


「コメ程じゃないけど、パンもカレーには合いますよ。食べます?」


 四人がコクコクと頷く。フライパンで両面をカリッと焼き、カレーをスープ皿に盛ってパンと一緒に出してやる。


「パンをカレーに付けて食べてください」


 そう言って俺はパンを千切ってカレーに付けた。うん、悪くない。食パンの香ばしさと甘さが、少し辛めのカレーに良く合う。多めに作ったカレーは、あっという間に無くなった。


「それにしても、神業のような弓技を操り、収納袋まで持っているなんて、アンタは一体何者なの?」


「ウム、何よりこの飯の美味さは異常じゃて。お主、もしかして加護(ギフト)を持っておらぬか?」


加護(ギフト)? 何ですか、ソレ?」


「はぁ? アンタ、そんなことも知らないの? 加護っていうのはね。神々から与えられた特殊な能力のことよ。超人的な身体能力や回復力があったり、瞬間転移、飛行能力など魔法でも不可能なことができたり。そうした能力は神々の加護(ギフト)と呼ばれていて、各国が血眼になって保持者を探しているわ」


「加護を与えられた者は同時に〈使命〉も与えられる。強力な身体能力や魔力を与えられた者は、国お抱えの冒険者となって、魔物と戦うことが多い。もっとも、国によってはその力を戦争で使おうとする。故に、加護を持つ者の中には、黙っている者もいるらしい」


 要するに、俺の加護がバレたらヤヴァイってことね。


「そうなんですねー。でも俺、そんな加護なんて持ってませんヨー。知りませーん」


 言い方が悪かったのか、全員がジッと俺の顔を見つめる。イヤだ、恥ずかしい。リフィナがフゥと息を吐いた。


「まぁ、そういうことにしておいてあげるわ。アタシらだって、チクるのは嫌だし。だけど気をつけることね。加護を持つ者は目立つのよ。有り得ないような技を見せるから」


「そうだな。飯くらいなら大丈夫だろうが、狩りなどであまり目立ちすぎると、王国に連行されかねない。加護持ちかどうかを見抜く魔道具もある。気をつけることだ」


 リーダーのフェスティオの言葉に、俺は真顔で頷いた。




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