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公爵令嬢 カレン4

 離宮は荒れ果て、雑草が生い茂っていた。


 1番星が輝く中、カレンは以前の終の住処を草をかき分けながら進む。

 嫌味なほど贅を尽くされた離宮は破壊され、重い柱や、床材など、処分に困るものだけがそのままに打ち捨てられていた。


 自分達の贄となった女が狂い死んだ建物など残したくはなかったのだろう。


 カレンは大股で迷いなく、真っ直ぐ中庭に向かって歩く。そこには彼女の愛した桜に似た巨木があったはずだが……もちろん根ごと掘り起こされ、消えていた。



 桜の根元から東へ5歩。その地面を見つめ、カレンは自分のものを取り戻したいと切に願う。神の恩寵により自然の力が手助けに入り、土が瞬く間に掘り起こされる。しかし、ピンと何かに引っかかった感触がしただけで、どれだけ掘っても彼女の金はなかった。


(掘り起こされてる。ご丁寧にその後に結界まで張った?面白い)


 カレンが残骸の石段に腰掛けて、ちょうど半分に膨らんだ月を見ながら、小一時間、かつての自分の生きた空間に想いを馳せていると、馬の駆けてくる音がした。嘶きとともに、がしゃりと下馬する音。誰がやってくるのかワクワクしながら、頬杖をつく。


「あらら」


 息を切らして、カレンの目の前にたどり着いたのは、先日の、ロードだった。





「カレン様、やはりカレン様でしたか!」

「…………」


「カレン様、この地の宝は我がザナギス家が代々、お預かりしております」

「そうなの」

「マギ神より、小夜(さよ)様の財宝をお聞きになったのですね?用途が決まっているのであれば、私が責任を持って動きます」

「……何故、ザナギスが絡む?」

「小夜様亡き後、ここの解体を指示したのは我がザナギス家。後顧の憂を無くす為、悲劇の小夜様を思い出すものが何もないように破壊し尽くしました」


「…………」


「小夜様の召喚を許したのも我がザナギス。帰還の道がないことを秘匿したのもザナギス。魔獣という共通の敵がなくなり、不安定な立場の我が国の体制のために、王子と隣国の姫の結婚を勧めたのも、ザナギスです」



 カレンは当時の宰相を思い出す。リリス・ザナギス。珍しいおばさん宰相だった。


 確かに『あなたは元の世界に帰れない』と言ったのも、『王子は婚礼が決まったので邪魔するな』と言ったのもあのおばさんだった。


 しかし、小夜はリリスを恨んだ覚えはなかった。小夜にとって、リリスはただのアナウンサー。日本に帰れないことなどリリス以外も、王や、大神官は最初からわかっていただろう。王子の婚姻も何故リリスに言わせる?リチャードや他のパーティーメンバーは何故自分で、面と向かって言いに来ない!そのことの方が衝撃だった。


 小夜にとっても、改めて考えるカレンにとっても、リリスは貧乏クジを引いたおばちゃんでしかない。彼女は常に厳しい表情を作り、それはある意味誰に対しても平等だった。


「……リリスはどうしたの?」

「リリスは我が祖母の姉なのです。リリス大伯母は、小夜様が儚くなられたちょうど一年後、自害しました。恐れ多いことですが、小夜様の墓の隅で眠っております。小夜様を一人にしたくないと……死んでからでは、何もかも遅いのですが……ははっ」


 カレンは空を仰ぎ、目を瞑り手を合わせ、念仏を唱えた。



「カレン様は小夜様のやり残されたこと、無念に思われたことを、使命として実行されているのでしょう?」


 惜しい!とカレンは呟く。カレンと小夜が同一であることを除けば、だいたい当たってる。


「カレン様、私にもその重い使命をともに背負わせていただけませんか?」


 ロードの真摯な瞳がカレンに向けられる。だからこそ、カレンは首を横に振る。ロードは完全な部外者だ。それにカレンはこの世界を嫌っているが、千代の孫ほどの世代に責任を取れと思うほど狭量ではない。どちらかというと、何事からも無関係になりたいと思っている。


「……小夜はあなた達ザナギスを恨んでなどいない。だから、これ以上小夜の末期を思い悩む必要はないわ。そもそも感じる必要のない罪悪感よ。共に背負うことで軽くしようなんて思わなくていい。じゃあね」


「お待ちください!あの金と、宝石は?」

「ロード様にあげるわ」

「そんな!マギ神がお許しになるはずがない!」

「私があげるって言ってるのだから、いいのよ。ロード様の才覚で自由に使って。じゃあリリスの子孫、あなたもご家族も、小夜のことは忘れなさい。幸せにね」


 この地に乗り物もなしに来ているのがバレているのだからと、カレンは異能を隠すのを止めた。ロードの前から一瞬で飛んだ。





 ◇◇◇




 時間が流れる身体になったら、途端に下半身に肉が付くようになった。慌ててカレンはワカメ漁に出て、三食ワカメ三昧の日々を送っていると、クロちゃんが再び飛んできた。


 頭を撫でて、手紙を受け取る。中味を見て、カレンは口の中のワカメを吹き出した。

 羽を休め、ワカメを嘴で除きながらオムレツを啄ばんでいたクロちゃんが忌々しそうに飛び上がる。


 キャメロンからの手紙には、ロードがカレンに婚約を申し込んで来たとあった。そして、結納金として、何十億という額になろう金のインゴッドを持参したと。父もキャメロンもほとほと困り果てている、と。


(ロード…………やられた!)



 自分が出向くより他ない。カレンは早々に諦め、数日家を空ける準備をした。









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