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公爵令嬢 カレン1

(みんな幸せになったってことでいいのかな……)

 カレンはこれまでの自身の()()を振り返る。


(ライラックは修正できなかったけど、隣国に追放されてすぐ救出して、あっちのクセのある王子に引き合わせたら意気投合してたし。まあ私が後見についたからではあるけれど……こっちの王子エンドだったんだーって喜んでたからいいのか?そもそもお花畑の性格だったしなー)


 カレンは疲労で重たくなった身体を引きずり、なんとか人目のつかない路地裏にたどり着いた。


(セスも初っ端、拗らせてて焦った。ったく、学生の頃からキュア一筋だったくせにヘタレなんだから!まあでも結果キュアと仲睦まじくやれてる。ラブラブ新婚さんだ)


(終わった……)


 右足で三度タップする。

 カレンは10歳は若い姿に()()()、海を見下ろす崖の上の棲家に移動した。




 ◇◇◇




 カレンは前世、シンジの前代、50年前に召喚された勇者だった。


 地球の日本という国で、離島の診療所に赴任中の人のいい医者の父と、それを助ける母の庇護のもと、自分も医者になるべく友人とともに受験勉強に励む日々。忙しくも幸せだった学生の彼女は、ある日足元に浮かんだ見たこともない紋様に吸い込まれ、この世界マギニーダに召喚された。


 突然、魔獣討伐をしろと言われ、拒絶すると殴られた。無理矢理戦わされると何故か己が強くて恐ろしかった。人々は賞賛してくれたが、その目の奥には得体の知れない者への畏れが見え隠れしていた。


 パーティーメンバーだった王子は彼女を何くれとなく世話をした。戦闘に心が傷つくと手を握り、合間に花の冠を作って喜ばせた。家族を思い泣く彼女を、一緒に涙目になって抱きしめて慰めた。

 孤独な彼女はあっという間に恋をして、励まされるままに、傷だらけになりながらも討伐を終えた。


 すると約束していた家族の元には帰れないという。どういうことだと詰め寄ると、気の毒そうな顔をされるだけ。王子に会わせろと言うと、高貴なお方は彼女となんか会えないという。王子は時代が平和になった象徴として、もうすぐ他国の姫と結婚するのだから、と。


 彼女は贅の尽くされた部屋に隔離され、発狂して死んだ。





 真っ白な世界で、背中に純白の羽のある幼女に会った。幼女は彼女にマギニーダでの不幸を詫びた。何か一つ願いを叶えると言う。

 疲れ果てた彼女はどうでも良かったが、二度と異世界から勇者など呼びつけるな!それだけ強く訴えた。


『魔獣はこの世界がうっそりと溜め込んでしまった闇気が吐き出されたときに変容した邪。どうしても……誕生するのです』


「この世界の仕組みなんてどうでもいい。わざわざ他所から勇者呼んで巻き込まなくてもいいでしょう?この世界で自己完結してよ!」


『あなたの言うことは最もだけれども、それしか方法が……そして今、一気に闇気が再び膨れ上がっているのは勇者であるあなたの嘆きによるもので……』


「ちょっと、私のせいだと言いたいの?ありえない!そんなの堂々巡りじゃん!まさか、もう次の召喚の準備してるんじゃないでしょうね!止めてよ!許さない!許さないから!何でも願い、叶えるんでしょう!」


『……おっしゃる通り。では……他のシステムを何とか構築します。ですが次回の召喚には間に合わない。もし、次代の勇者が心配なのであれば、干渉する権利を与えます。あなたが助けてあげてください。あなたが次代の心を救った時、その明るい力を元に新システムを完成させ、その次の召喚を行わない約束をしましょう』


「それ、私に全然利があるように感じない」

『これしか手はありません。受けるも受けないもあなた次第』





 ◇◇◇





 そして転生しカレンとなった。

 カレンは王兄の娘として誕生した。前世、愛して捨てられた男の孫だった。カレンの髪はあの男とソックリの王族の証であるサラサラの金髪。


 立場上、大抵の望みは叶えられたのだが、それ以上に内々にあの幼女……マギ神により、カレンは神の御使、カレンの行動を遮ってはならぬ。という信託が降りた。

 そのため、国庫を使い潰すでもしない限り、カレンは一人、自由に動いた。


 勇者を始め転生や転移に巻き込まれ、この世界にやってきた人々を不遇な目に合わせないためのカレンの行動には、マギ神によってあれこれと制約がついた。決して不自然にならぬこと。勇者の意思を尊重すること。無理矢理討伐から引き離さないこと、勇者や転生者に関わったこの世界の人間を代償のように不幸にしないこと。などなど。


(誰にも悟らせず、とにかくさりげなく、力技禁止……マジでむかつく制約だった)


 マギ神が新たに作った魔獣排除システムは、この世界の聖女による闇気が魔獣になる前の浄化。

しかし、

(聖女も転生者利用とかふざけてんのか?私の導火線の長さを試してんの?シンシア、マジで苦労したし!)


 カレンはガシガシガシと両手で頭を掻いた。

(次にあの世に行ったとき、絶対文句言ってやる!己の世界だけできちんとまとめろ!聖女も生粋のマギニーダ人であることを一筆書かせないと!)


 頭皮に爪が当たり、おや?と思う。自分の爪をジッと見る。

(伸びてる?)


 カレンは使命を果たすために、都合のいい魔法チートを持たせられている。移動魔法であったり、姿を変える魔法だったり。しかし今回は勇者ではないので攻撃力はない。そしてそれプラス時間を止めてもらっていた。ミッションクリアまでどれだけの時間がかかるかわからなかったから。カレンは体力の整った10歳前後から使命のために暗躍していたが、成長は前世死んだ18歳で時を止めていた。


(時間が流れだした……ってことは、仕事が終わったってことだよね)


 シンジがユカとかわいい赤ちゃんと、仲睦まじく食事をしていた光景を思い出した。


(シンジ……よかった……私にならないで、よかった……)


 カレンはおもむろに外に出て、海に向かって叫んだ。


「私は約束守ったわ!召喚はシンジで最後よ!絶対なんだからー!」


 泣きながら叫ぶカレンに、真っ白なマギ神の羽が一枚落ちた。









今回のテンプレ……異世界転生、不遇の勇者、神との遭遇


ようやくカレンの素性が明らかになりましたので、あらすじを書き直しました。

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