1話 世界観をお話しします
――――『キラッと☆宝石箱の中の恋人たち』
世の乙女たちが夢中になったイケメンオアシス……いわゆる乙女ゲームである。
中世ヨーロッパ風の世界の貴族の子息子女の集う学園を舞台とした攻略対象キャラのイケメンたちと恋をするベタなものだ。
私自身はプレイしたことはなく、オタク気質の友達が熱弁するのを聞いていたのだが、まさかその世界に転生してしまうとは……。
そもそも、いつどうして死んだのか思い出せないんだよなー。
高校で生徒会長をして“女子校の騎士様”なんて呼ばれてたあたりまでしか思い出せないし、在学中に事故か何かで死んだのだろうか?
まあ、死んじゃったものはしょうがない!
話を元に戻して、タイトルから分かるように、このゲームの主要人物は宝石にちなんでいる。
だからこそ友達の話を聞くだけでも覚えられたんだよねー。
まあ、主要人物と大まかなストーリーしか知らないんだけど。
ジュエラレーヌ国――――
中世ヨーロッパ風の豊かで周辺国よりも発展した先進国。
攻略対象キャラは5人――――
ルビー=ジュエラレーヌ
ジュエラレーヌ国の第一王子で深紅の瞳と髪を持つ正統派イケメン。王族らしい尊大な態度だが根は真面目な努力家。
サファイア=スカイワイズ
宰相の一人息子で透き通る青い瞳と長髪のキレイ系イケメン。幼い頃からルビー王子のご学友でルビー至上主義。
エメラルド=ナイトフォレスト
騎士団長の孫で深緑色の瞳と短髪の泣きぼくろがチャームポイントのお色気系イケメン。チャラいのに天才肌で基本的に何でも出来る。
ガーネット=ジュエラレーヌ
第二王子でルビーの弟。兄と同じ瞳と髪色の可愛い系男子。甘え上手だが腹黒い策略家。兄弟仲は良好に見えて冷めている。
そしてあと一人、隠しキャラがいるらしいが、登場条件が難しいとのことで友達も攻略はおろか名前すらも知らないとのこと。
だからゲームに関して全て友達頼りの私も何一つ知らないのである。
まあ、そんなに難易度の高い攻略キャラなら一生会わないだろう。
そして――――“悪役令嬢”だ。
ラピスラズリ=ヴァイオレティーニ
紫色の瞳とウェーブのかかった髪の美人だが、選民意識の高い典型的な悪役令嬢。ルビー王子の婚約者で、彼のルートではヒロインを執拗にいじめて殺人の手引きまでして断罪される。
だが、ラピスラズリはただの悪役令嬢ではない。
彼女を悪役令嬢たらしめた事情というものがあるのだ。
ラピスラズリは母が病弱のため次に子供は望めないと思った父の手によって幼少より公爵家を継ぐべく厳しく教育された。
しかし、10歳のときに弟――アメジストが生まれお役御免となる。
弟の出産に伴い母が死に、跡継ぎとしての価値がなくなり周りから人が離れて孤独な日々を過ごす。
次に父がルビー王子との政略結婚を目論み、その期待に応えるため婚約者となった彼からの愛に執着した。
それからはゲームのストーリー通りに一歳年下のヒロインがルビーの心を得て、嫉妬からいじめ、殺害を目論み、断罪される。
本来は身分剥奪ののち国外追放となるはずが、家への処罰を少しでも軽くしたいため刑の執行を待たず自殺した。
彼女の思惑通り、娘を亡くしたことを考慮してヴァイオレティーニ公爵家には何のお咎めもなかったという。
ここまでで分かるだろうが、ラピスラズリは根っからの悪役ではないのだ。
むしろ、愛情不足に人生を狂わされた悲劇のヒロインだと思う。
自分がラピスラズリに転生したから自己弁護しているのではない。
彼女は前世のときから思い入れのあるキャラクターで、もし私がラピスラズリの傍にいたら救ってあげたいと本気で思っていた。
幼馴染みにでもなれたら、一緒に遊んで、笑って、泣いて、彼女を守れるのに……なんて、ゲームのキャラクターなのに、どうしてか私は彼女に感情移入してしまったのだった。
私がラピスラズリになったのは、そういうことが原因なのだろうか?
今となってはラピスラズリを救うことはできないけれど、私には現在守りたい人がいる。
「あーちゃ(お母様)」
腕の中からお母様に呼びかける。
「ふふ……可愛いラピスラズリ。私を呼んでいるのかしら?」
「あーい(はい)」
さすがお母様……!
溢れんばかりの愛情ゆえに娘の言葉が何となく伝わるんですね!
公式設定では、ラピスラズリの母は病弱でアメジストの出産のさいに亡くなってしまう。
こんなに優しくて美しい人がそんな運命だなんて私は許せない。
庇護欲を誘う彼女の儚げな雰囲気は私の中の“騎士様”の血を騒がせるのだ。
「たうよっ!(必ず私がお守りします!)」
小さな握りこぶしを作って私は目を輝かせた。
この想いが少しでも伝われば良いなと思いながら。
「まあ、おしめかしら?」
「…………ちゃう」
今のは関西弁ではない。
赤ちゃん言葉で違うって言ったつもりだ。
まあ……今はまだ伝わらないけれど、
これからコツコツと頑張ろう。
私をベッドに戻して侍女を呼びに行く母の後ろ姿に、そう静かに誓いをたてる私なのであった。
最初は主人公が一人言を延々と話しているようになっちゃいますが、これからいろんな人達と関わってストーリーを膨らませたいです(*´ω`*)
どうかお付き合いください!