表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしのしあわせ  作者: 橋本春妃
2/2

『友人のベッド』

『友人のベッド』


 私たちが放課後や休日に集まるのは決まって友人Mの家である。

 Mは一人暮らしをしており、そのワンルームに設置されたベッドはちょっとした階段付の背の高いベッドである。なので、そのベッドへ上がると、ワンルーム全体が上から見下ろせる形になっている。

 私はその友人Mの家にあるベッドが非常に気に入っている。


 そのベッドの何が好きかと問われれば、部屋を見下ろせるところだと私はすぐに答えるだろう。


 私たちは皆インドア派であり、外出を好まない。友人Mの家へ特に用もなく集まっては、お菓子を食べたりゲームをしたり、なんの意味も持たないような会話を繰り返す。

 私たちは大体四人、ときどき五人になる。


 私はときどき今目の前にある全てを頭の中で額縁に仕舞い、客観的に眺めることをする。その場から自分の存在を消し去り、客観的に人を観察すると、額縁の中の人たちの感情が自分の中に流れ込んでくる。この人たちは今何を思っているのか、額の外から眺めてみると案外簡単に見えてくるものだ。

 普段は退屈なグループワークの最中や、苦手な人と話さなければならないときに私はこの行動を取る。自分をその場から排除して傍観者側に回ることで、ストレスが多少緩和されるからだ。


 しかし私はこの傍観者側に回る行動を、友人Mの家でも頻繁に取る。理由は簡単、しあわせだからだ。

 友人らと一通り騒いだ後、私はいつも決まって友人Mのベッドに上り友人らが集まっている部屋を見下ろす。友人らはなんの気にも留めず、相変わらずのゆるさでゲームを続けている。これがよいのだ。

 私の大好きな友人らが一堂に会し、楽しそうにゲームをしている。皆笑っている。しあわせそうに。

 そんな幸福な瞬間を私はベッドの上から額縁の中の絵を眺めるように観察する。


 「あぁ、なんて幸福なんだろう。大好きな人たちが同じ場所に集い、しあわせそうに笑っている」


 そんな絵を私は一番お気に入りの額縁に入れ、大切に大切に眺め、心の中に記憶する。

 永遠に終わりなど来ないかのようなそんな幸福。私は友人Mの家のベッドに上がればいつでもそんな幸福な絵を眺めることができるのだ。

 それだけではない。友人Mのベッドが好きな理由はもう一つある。

 それは、私がその幸福な絵の中に入りたい、額縁の中に手を伸ばしたいと思えばいつでもそれが可能であるところ。ベッドから下りる、そうすれば私もまたその幸福な絵の一部となれるのだ。


 大好きな人たちの幸福を、傍観者側から眺めしあわせに浸ることもできる。

 そして、自分自身もいつでもその中へ入り込んでいくことができる。

 そんな幸福を叶えてくれるのが、友人のベッドなのである。



 学生生活が終われば友人Mはそのアパートを引き払い、地元に戻るだろう。友人らもそれぞれの道へと進み、こうして集まることもきっとなくなる。ましてや、幸福な絵の中と外を自由に行き来できるこの特別な場所などもう二度と手に入らないだろう。


 友人のベッドは、私にとってかけがえのない幸福を見せてくれた大好きな場所である。


 

 わたしのしあわせ 『友人のベッド』 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ