初めての人助け
「・・・」
速い。朝は焦っていて気が付かなかったが自分がどれだけのスピードで走っていたのかを体感した。
そしてもう一つ。まったく疲れない。全力で走っているのに息が上がらない。それどころかどんどんスピードが上がっていく。
「見えた」
3人パーティーが戦っているのが見えた。
対して敵は1体。黒く禍々しい巨体には見覚えがあった。
「リッチ・・・か?」
リッチ。魔族系の中でも戦闘能力が高く、黒魔法も使える。個体ごとに持っている武器が異なるため非常に戦いづらい。効率よく倒すには弱点の神聖属性で攻撃するのが手っ取り早い。
「ジョブチェンジ。聖騎士」
体が光に包まれて純白の鎧が装備されていく。
「ハァァ!」
リッチを一刀両断する。文字通り真っ二つだ。
ゲーム時代でも一撃で倒せていたからあまり驚かなかった。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
まだ体の震えが止まっていない。それもそうだろう。オレが助けにこなければ今頃死んでいたのだから。
しかし何故リッチがここにいるのか解らないな。
リッチは地下渓谷の迷宮ダンジョンに湧くはずだ。異形の森に出没するなんて情報は聞いたことがない。
いや、なくて当然かもしれない。俺がこのゲームから出られなくなってからおかしな事が続いているのだから。
「あの、本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか。」
3人組のリーダーであろう男が話しかけてきた。
「あぁ、俺がもしあそこにいなかったら今頃3人仲良くあの世行きだったな」
ここはあえて冷たく接する。そうすれば他意が無いと思ってもらえるからだ。
「はい。まさかリッチがこんな所にいるなんて思ってもいませんでしたから」
「あぁ、俺もそれを疑問に思っていたところだ。後ろの2人は大丈夫か?」
まだぐったりとしていて精気がまるで無い。
「もう少しすれば落ち着いてくると思います。あの2人は強いですから」
「そうか。じゃあ気おつけて帰るんだぞ」
「最後にお名前だけでも!」
「ロータスだ」
そう言って出口へと向かって歩いてゆく。