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魔法剣士になろう  作者: 白王
オレンガスト大陸編
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第16話 孤児院の少年

 

 適正診断を終えた悠斗達は、冒険者として様々な依頼をこなした。

 と言っても、街のゴミ拾いや迷子のペット探し(この時点で犬や猫といった動物を知った悠斗達はウルをペットの犬として宿に堂々と置いてもらった)など、民間人でもできそうなことだった。

 それでも少しずつお金を稼ぎ、王都の人々に顔と名前を覚えて貰い、土台作りとしては中々の立ち上がりである。

 今日も今日とて孤児院の掃除の手伝いを受けてそこへ向かうところであった。


「なあ。なんでこんな地味な仕事ばっかなんだよ? もっとモンスター退治とかレアアイテムの採取とかさー。せっかく魔法剣士目指すぞー! ってなったんだから派手なの無いのかよー?」


「ダメよ。私たちはまだ駆け出しなの。下手にそんな依頼を受けて他の冒険者が受ける依頼が無くなったら、逆恨みで何されるか分かったモンじゃないわ。今はしっかり地盤を固めて信頼を得る時期なの。分かるわね?」


「は、はーい……分かってっけどよー」


「悠斗君ボランティアとか草むしりサボってたもんねー。こういうのも結構悪くないよ?」


 愛梨は悠斗を宥めながら元の世界での思い出をチラリと思い出した。

 せっせと校庭の草むしりをしながら、先生に怒られている悠斗を横目でチラリと見ている自分の姿を。


「アレは喜ぶのが学校の偉い奴らばっかだからな! 今は報酬も貰えるし多少はマシだな。うし! やると決めたらちゃんとやるか!」


 悠斗は気持ちを入れ替え、張り切って目的地に向かう。


「その威勢が今度はどこまで続くのやら……」


 アンジェリカと愛梨はため息を吐いて続いた。悠斗はどの依頼も最初こそこのようなテンションだったが、すぐに飽きて文句を言いだすのである。


 そうこうしている内に孤児院にたどり着いた。

 教会を兼ねている孤児院は年季を感じるものの隅々まで手入れが行き届いており、庭のも薬草らしき植物が無駄なく生い茂っている。


「……これ、俺たちが掃除する隙あるのか?」


「悔しいけど今回は同意するわ。とっても良い所よね」


「すごく綺麗……むしろこっちが汚しちゃいそうで申し訳ないね」


 3人は口を揃えて褒めた。口を半開きにして孤児院を上から下まで眺めている。


「あら、貴方達が依頼を受けて下さる方かしら?」


 孤児院から一人のシスター姿の女性がこちらに歩み寄ってきた。


「あ、はい。冒険者組合から派遣されてきました。アンジェリカ・ロックウェルです」


「立ば……ユート・タチバナです」


「アイリ・コチヤです」


「アンジェリカさんに、ユートさんに、アイリさんですね。私はエミリア・クロル。この孤児院の経営を任されています。本日はよろしくお願いしますね」


 エミリアが頭を下げると、3人もつられてお辞儀を返す。


「さ、こちらです」


 エミリアに案内されるがままに悠斗達は孤児院へと入って行った。

 孤児院の内装は外観に負けず劣らず整っていた。教会の椅子や床には埃一つなく、子供達の住居も見なかった私室以外は目立って汚れている部分もない。エミリアは居間まで来るとたちどまり、3人に座るよう促した。


「見れば見る程私たちが来た意味が分からなくなってくるわね……」


「エミリアさん。私たちを呼んだのは『孤児院の清掃』のためでしたよね? 見る限りお金を払ってまで手伝うべきことも無いように見えますが……」


「そうですね。この辺りは子供達が手伝ってくれるお陰でいつも綺麗なんです」


 エミリアは誇らしげに両手を広げて居間を指す。紅茶を3つ淹れ、それぞれの前に出した。


「この辺りってことは……綺麗じゃない部分もあるんですか? 」


 悠斗はエミリアを真っ直ぐ見つめて問い質す。エミリアは少し申し訳なさそうに視線を逸らした。


「……ええ。実は……」


 エミリアが言葉を続けようとした時、居間の扉が勢いよく開かれた。


「シスター! 畑の野菜まだ採っちゃダメー?」


「シスター! 夕ご飯の買い出し行かないのー?」


「うぇーん! シスター、またカイルが僕の本を隠したー!」


 孤児院の子供達が雪崩のように居間に駆け込んできた。ザッと10人程度はいるであろう子供達によって居間はあっという間に賑やかになった。悠斗達も突然の出来事に完全にフリーズする。


「あれー? シスター、この人達だぁれ?」


「新しい仲間?」


「え、えっと……。みんな、とりあえず落ち着いてね。すみません皆さん。お話は後で……」


 エミリアは申し訳なさそうに笑い、子供達一人一人の相手を丁寧にし始める。


「ユリウス、お野菜はもう少し育たないとあなたの好きな味が出ませんよ。エリザ、もう少ししたら行くから準備しておいてね。アンドレ、カイルには私が言っておくから、もう泣かないで」


「す、すげぇ……」


「ほぼ同時に喋ってた子供達に、あんなに適切に受け答えできてる……」


 悠斗と愛梨はシスターのスキルに驚愕し、しばらくシスターと子供達を眺めていた。

 それから数分してようやく子供達を落ち着け、居間は静寂を取り戻す。子供達は外へ遊びに行った。


「すみません。私が甘やかして育ててしまったので、自分達の主張ばかり通すようになってしまって……」


「元気があっていいじゃん! 子供はあれくらいがちょうどいいさ!」


(芳佳と陽太もこんな感じだったっけ。芳佳はクラスの誰が誰を好きとかそんな話ばっかで、陽太は泣き虫のくせにガキ大将に喧嘩売ってよく虐められたって泣きついてきたっけな……)


 悠斗は元の世界に残してきた家族のことを想い、少しノスタルジックな気持ちになる。


「そう言っていただけると助かります。それで、清掃というのがですね……その、何と言いますか……」


 エミリアはばつが悪そうに指をもじもじさせて言い淀む。


「……何かワケあり、って感じね」


 アンジェリカが軽くため息を吐き、エミリアを促す。


「ええ。その、地下でですね。夜な夜な物音がしまして……」


 エミリアの話はこうだ。

 孤児院兼教会には地下室が存在する。何十年も前に建てられたものであるためどんな用途で作られたかは分からない。現在は物置くらいにしか使っていない。

 近頃その地下室から物音が聞こえるそうだ。時間帯は決まって深夜。気付いたのはアンドレという気弱な少年。アンドレ曰く、その音は誰かの啜り泣く声のようにも、怪物の呻き声にも聞こえたという。その後も音は聞こえるものの、孤児院に何ら悪影響は無く、ほとんどの子供達も慣れてしまっていた。しかし第一発見者のアンドレだけが異様なまでにその音を恐れるので、アンドレの精神衛生を保つ為にも、また根本的解決の為にも冒険者組合に『孤児院の清掃』というお題目で調査を依頼したという。


「このままではアンドレが可哀想ですし、私自身正体不明の異音が子供達の暮らす孤児院で発生しているのは見逃せないんです。お願いします! 原因を調査して下さい!」


 エミリアは改めて3人に頭を下げる。3人は互いに頷き合って立ち上がった。


「俺たちに任せといてよエミリアさん! ネズミだろうが幽霊だろうが退治してやるさ!」


 悠斗は拳で強く胸を叩く。


「や、やっぱり幽霊なんでしょうか……?」


 エミリアは目に見えて狼狽した。顔から血の気が引き、目が泳いでいる。


「エミリアさんまさか……」


「幽霊、苦手なの……?」


 アンジェリカの問いに、エミリアは赤くなって頷いた。



 ☆



 同刻:集会場


「どうしても駄目なの?」


 一人の少年が受付嬢と話をしている。


「ごめんなさいね。組合の規定で15歳未満の子は冒険者登録できないの」


 受付嬢は食い下がる少年の対応に困窮していた。もう何度も同じようなやり取りが行われている。


「僕、危ないことしないよ? 街の中の依頼しかしないから」


「そうは言ってもねえ……」


 受付嬢は困りきった様子で辺りに助けを求めるが、助け舟を出してくれそうな人物は見当たらない。同僚や上司もとばっちりを受けないように距離を置いている。冒険者達もそちらへ流れていく。


「どうしても、駄目? 僕お金が要るの」


 少年の潤んだ上目遣いが受付嬢の罪悪感を更に高める。


「えっと……どうしてお金が要るのかな?」


 受付嬢は話題を逸らして解決の糸口を探そうと試みた。


「お父さんとお母さんを探すの」


 少年の悲痛な呟きに、集会場の賑わいが一瞬止まる。


「お父さんとお母さんは僕が生まれた時にいなくなったってシスターが言ってた。でも、死んじゃった訳じゃないって言ってた」


(シスター……この子、孤児院の……)


 オーレンにただ一つだけある孤児院の事情を知っているが為に、受付嬢は少年の言葉に真摯に耳を傾けた。少年はぽつりぽつりと語り続ける。


「冒険者になって、お金を稼げれば依頼書が出せる。大きくなったら自分で探すこともできる。だから、早く冒険者になりたくて……なり、たくて……ぐすっ」


 少年は目に蓄えた涙を決壊させた。か細い声だが、そこには純然たる決意が強く込められている。少年なりに色々と考えて来たのだと知り、受付嬢は更に対応に困り果てた。


「いいじゃねえか。登録くらい」


 口を開いたのは、一番近くにいた冒険者の男だった。厳つい風貌の男は、優しい笑みで少年の手に頭を置いた。


「坊主も危ねえことはしねえって約束してんじゃねえか。将来のことまで頭の回るようなコイツが約束を破るとは思えねえ。違うかい?」


「カイゼルさん。しかし……」


「どうにかならないの? このまま空手で帰らせるつもり?」


 気の強そうな魔法士風の女が会話に割り込む。次第に他の冒険者達も異口同音に少年の援護を始めた。


「そうだそうだー!」


「事情があるなら例外として受け入れろー!」


「ボクー! 冒険者になれたらお姉さんのパーティに入れてあげるわよー!」


 あっという間に大合唱となった集会場に、組合員は立ち往生するしかなかった。


「……仕方ない」


 オーレン支部長がその場を収拾させる為に、登録状を少年に手渡した。その瞬間、冒険者達が一斉に沸き上がり、少年を祝福、応援する声が四方八方から飛び交った。

 少年は無意識の内に、その場全てを味方にしてしまったのである。

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