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魔法剣士になろう  作者: 白王
オレンガスト大陸編
17/54

第15話 魔法剣士になろう

タイトル回収回にしてはパッとしないかな?

 

 適正診断の通知は早速翌日届いた。

 本日正午。オーレンの闘技場にて行われるらしい旨が書いてある書物と共に2枚の割符が添付されている。提示することで初めて診断を受けられるらしい。


「適正診断っていうのは公的な身分の方針を示すもの。特にそうした診断結果を運命として受け入れ、目指すのが最大の美徳とされているわ」


「なんか公務員試験とか資格試験とかそういうのみたい……」


 愛梨はやや敬遠した態度でアンジェリカの話を聞く。


「んで? 具体的に何するとか決まってるのか?」


 悠斗が武器の手入れをしながら尋ねる。


「魔法試験と戦闘試験。希望者は筆記試験なんかも受けられるけど、最後のは辞退しといたわ。字もたどたどしいアンタ達が良い結果を出せるとは思わないからね」


 アンジェリカは特に悠斗に視線を集めて言った。悠斗は何か言いたそうにしていたがほとんど図星だったので押し黙ることにした。


「魔法試験って……やっぱり回復魔法も含まれるんだよね?」


 愛梨が不安そうな声色で尋ねる。アンジェリカはこくりと頷いた。


「気にすることないわよ。回復魔法がまともに使えるのは4人に1人くらいの確率だって師匠も言ってたし。何よりアイリはスピードで相手を翻弄できるから回復魔法自体はそこまで必要ないと思うわ。できないこと嘆いたって何も始まらないんだからね! しゃんとしなさい!」


 猫背気味に落ち込む愛梨を見兼ね、アンジェリカはその背中をパシッと叩く。


「う、うん。ありがとう」


「そうそう。情けないのは俺の方だぜ。同じタイミングで剣術を習った女の子に追い抜かれるなんてよ」


 悠斗は場の空気を和らげるために冗談めかした調子で言った。


「あははは……。あんまり嬉しくないかも」


「……技術の得意不得意に性別なんて関係ないわ。さ、そろそろ行きましょ」


 アンジェリカがやや複雑な表情で話を締めくくると、2人も支度を整えて闘技場へ向かった。



 ☆



 オーレン:闘技場

 武の都・力の国と呼ばれるだけあって闘技場もかなりの大きさだった。ここでは週に一度、つまり6日に一度武闘大会が行われる。オーレンでも腕に覚えのある血気盛んな戦士達が集い、命と誇りを懸けて闘う過激な武闘会だ。オーレンのほとんどの国民は武闘大会の大ファンで、その日一日はほぼ全ての国民が仕事や学業を投げ出し、我先に闘技場へ向かうのだ。

 その巨大な闘技場に圧倒されながら悠斗と愛梨は中へと足を踏み入れる。


「私は資金調達をしてくるわ。キールに貰った特産品を売って、集会場に簡単に受けられそうな依頼がないか見てくる」


 アンジェリカはそれだけ言うと拳をグッと突き出し、2人にエールを送った。


「頑張んなさい!」


「おう!」


「うん!」


 2人も拳を突き出して応え、勇み足で入っていった。

 中は石を切り出して造ったような頑丈そうな造りだった。


「戦神ゲオルグが巨岩を拳だけで砕いてこの闘技場を造ったって話があるらしいんだけど……あながち嘘じゃなさそうに思えてきたね」


「はは……そりゃこんだけできたら戦神名乗っても文句ねえよな」


 雑談を交えながら受付に向かい、そのままアリーナへと案内された。そこにいる試験監督者に割符を見せてから適正診断を始めるらしい。


「お、きたきた。おーいこっちだ!」


 アリーナに入ると如何にも騎士といった格好の男が手を振って出迎えた。受付嬢は2人にぺこり頭を下げ『ご武運を』とだけ残してアリーナを去った。


「お前らがユート・タチバナとアイリ・コチヤだな。俺はロレンツォ・バッシュ。ロレンツって呼んでくれや」


 悠斗と愛梨も軽く自己紹介を済ませ、割符を見せた。


「よーし! で、試験内容だが……どーすっかな?」


 ロレンツが顎に指を当てて考え始める。


「って内容決まってるんじゃないのかよ!?」


「他んとこは同じ試験ばっかやってるらしいがな。ここはオーレンだぞ? どんな内容か決まってたら面白くねぇだろ?」


 ロレンツはそう言って豪快に笑う。


「どんな理屈だよ……ま、いいや。早いとこ決めてくれよ」


「確かに、事前に対策ができないのは厄介だね……」


 愛梨が苦笑して、けれども真剣な声色で呟いた。


「そうだ! 事前に対策ができる勝負などあるものか! 闘争ってのはいつだって不意に、不条理に、不足の状態で始まるんだ! 魔獣、夜盗、敵国軍……俺は色んなシチュエーションで色んな敵と闘ってきたがな。準備や対策がまともに通用したのは数える程しかねえ! まあそれが必要ねぇかってーと違うが……」


「話なげーよオッさん。で、何するんだ?」


「ちょ、ちょっと悠斗君。試験官さんなんだからもっと……」


「いい、いい! 元気なのはいいことだからな! そんじゃあ……俺と鬼ごっこでもしてみるか?」


 ロレンツはそう言うと金属製の胸当てと腰蓑を外し、軽装になる。2人は一瞬呆気に取られたが、すぐに倣って重い装備を外し始めた。


「あー待った。お前らは着けたまんまだ。一々装備を外して闘う気か?」


「えー。でもそっちだけ外してズルいじゃんか」


「何おう? こっちは1対2なんだぜ? 当然のハンデだろうが!」


「えっと……魔法の使用とかは……」


 愛梨がおずおずと挙手する。


「ん? あー……足止めに使うのはアリだぞ。多少なら俺に当てるのもアリだ。だが魔法を当てても俺に触ったことにはならねえからそこんとこ注意な。今正午だから……日暮れまでに俺を捕まえられたら合格だ!」


 ロレンツはビシッと指差して言い渡す。


「合格って……適正診断に合格も何もねぇだろ」


「まあまあ。それくらいの覚悟で頑張ろうってことだと思うよ。多分」


 適当で行き当たりばったりなロレンツに対して、愛梨は少々自信を失っていた。


「うーしそんじゃ……始め!」


 ロレンツの開始の号令が聞こえるが早いか、ロレンツは2人の目の前から消えた。


「!?」


「悠斗君あっち!」


 土煙の立ち方で方角を絞った愛梨は目の端でロレンツを捉えた。


「ほう、いい目だ! だが追いつけるかな?」


 ロレンツは目にも留まらぬ高速移動で2人を翻弄する。


「は、疾ぇ! どうする愛梨?」


「私が追ってみる! 悠斗君は足止めお願い!」


 愛梨はそれだけ言うと足に魔力を込め、土を抉る程の踏み込みでロレンツに接近した。


「スピードも上々! けどまだまだだな!」


「くっ! まだ疾く……」


 愛梨のスピードを見てロレンツは更にスピードを上げた。悠斗はと言うと、闘技場の壁に向かい走っていた。


「どうした坊や? 敵前逃亡かい?」


「冗談! 壁を背負ってた方がアンタを見失わずに済むだろ! 炎の精霊十一柱! (つぶて)と成りて弾け飛べ! 火連弾(ヒート・ショット)!」


 小さな火球が散弾銃のように互いを弾き合って四散する。


「うおっと! ヘヘッ! 中々やるじゃねえか!」


 ロレンツは飛んでくる火球を或いは躱し、或いは手甲(ガントレット)で弾いて凌ぐ。愛梨はロレンツの後を追うお陰で火球は全てロレンツに対処させた。


「あのスピードの中で正確に捌けるのか。けど、足止めはできた!」


「はあああ!」


 愛梨は更に魔力を練り上げ、一歩でロレンツに肉薄した。


「甘い甘い!」


 ロレンツは愛梨の手を縫うように躱し、すぐさま逆方向に切り返す。


「くっ!」


 愛梨も着地し、すぐさま追いかける。



 ☆



(……ほう? 中々やるな)


 愛梨の手を掻い潜りながら、ロレンツは内心かなり感心していた。事前の情報では駆け出しの旅人気取りの若者程度にしか捉えていなかった。

 しかし実際その姿を目にして、その考えは変わる。2人の纏うオーラとも言える魔力の片鱗。戦闘経験の長いロレンツはその雰囲気を敏感に感じ取り、わくわくとした心持ちで適正診断に臨んだ。そして今の立ち回りの一部始終。ロレンツは予測をふた回りも裏切る悠斗達の実力に素直に賞賛した。


(ちっと坊や達を舐め過ぎてたかね。本腰入れねぇと、夕刻にでも捕まっちまいそうだ!)


 ロレンツは口角が吊り上がるのを隠そうともせず、更にスピードを上げた。



 ☆



 数十分後。


「はぁ……はぁ……」


 愛梨は膝に手を突き、肩で息をする。


「お嬢ちゃんは一旦休憩、と。どうする坊や?」


「決まってんだろ? 鬼交代だ!」


 悠斗はそう言うと愛梨と同じく足に魔力を集中させ、強く踏み込んだ。広い闘技場の真逆にいたロレンツに数秒で接近する。


「お前さんも中々のスピードだが、お嬢ちゃんには劣るな!」


 ロレンツは余裕の表情で悠斗より疾く駆け抜ける。


「おおおお! 愛梨! 口と目を塞いでろ!」


 悠斗の言葉に愛梨が目を閉じ、口を袖で覆った。


「風よ逆巻け 天に昇る竜が如く 竜巻(トーネード)!」


「うおっ! くっ!」


 悠斗はロレンツの目の前に風魔法で竜巻を起こした。ロレンツは巻き上がる風と砂塵に一瞬足を止める。


「今だ!」


 悠斗は足の、特に指先に魔力を込めた。凝縮された魔力が爆発するような勢いでロレンツに接近する。ロレンツは砂塵にやられまいと目を閉じている。


「勝った!」


 悠斗は勝利を確信した。




「甘ぇよ、坊や」




 一瞬。一瞬だった。

 地面を強く叩くような音と共に悠斗の目の前にいたロレンツが消える。


「なっ……!?」


 悠斗はその勢いのまま自身が作り出した竜巻に錐揉みにされた。


「自分の魔法に自分から飛び込んでりゃ世話ねえな、坊や」


 ロレンツの声が背後から聞こえ、悠斗はすかさず振り向いた。数十メートル離れた位置でロレンツが澄まし顔をして服に着いた砂埃を叩いていた。


「また疾く……いや、今のは今までと全然……」


 悠斗は漠然とロレンツを眺めながら呟く。


「まさか『縮地(しゅくち)』まで使えるとは驚きだな。だがまだヨチヨチ歩きだ。オーレン騎士団団長の俺には追いつけんよ」


 ロレンツはサラッととんでもないことを暴露した。


「オーレン騎士団……団長……!?」


「マジかよ。そりゃ掠りもしねえわけだ。力の国のトップクラスの実力者が相手じゃあな」


 愛梨と悠斗は驚愕の事実に思わず身構える。


「で? どうする? もう辞めとくか? 小童に俺の相手はハナから無理だったかな」


「ざけんな! 絶対ぇ捕まえてやる! 愛梨! もう行けそうか?」


「うん! 私もそこまで言われて黙っていられないよ!」


 2人は実力のかけ離れた相手と知るや、諦めや後悔よりも闘志に火が点いた。


「ハハッ! いいねえ! 騎士団(ウチ)に欲しいくらいだ! さ、続けようぜ!」


 こうしてロレンツと悠斗、愛梨による鬼ごっこは日暮れまで続いた。しかし、2人はロレンツを捕まえるどころか触れることさえできなかった。


「あー……もう動けねぇ。魔力も体力もすっからかんだ」


「私も……魔力の運用効率がまだ悪いのかな?」


 2人は陽が落ちようとしているアリーナの中央で大の字になって寝転がっていた。ロレンツは余裕綽々といった顔で装備を付け直し、2人を見下ろす。


「ご苦労さん。久々にいい運動になったぜ。俺にいい運動させるなんて騎士団の連中でも一握りしかいねぇぜ。誇っていい」


 ロレンツは優しくそう言うと2人に手を差し出す。


「ちぇー。合格、できなかったな」


「そうだねー。もう少しだったんだけど」


「ハッハッハ! もう少しと来たか! ……結果は追って報告するからよ。今日んとこは帰んな」


 2人は手を取って立ち上がり、千鳥足のような足取りでアリーナを後にした。



 ☆



「あー……しんどかった……」


 暗くなったアリーナで、ロレンツは壁に寄りかかって座り込む。


「アイツら2人相手は見積もりが甘かったかな。なあ? ガイ?」


「そうだな。まさか団長が一瞬とは言え縮地を使う(本気を出す)ことになるなんてな! 大したガキ共だよ!」


 ロレンツの呼びかけに応じて、いつの間にかアリーナの入り口に立っていた男が姿を現した。筋骨隆々とした体に鉄板で出来た重装備。ガイと呼ばれた男は悠斗達を素直に賞賛する。


「で、どうする団長? 騎士団(ウチ)に呼ぶかい?」


「冗談だろ? 地力は認めるがあんなぺーぺーの駆け出しに任せられる程ウチは甘くねぇさ」


 ロレンツはそれだけ言うと立ち上がる。


「さ、受付嬢の姉ちゃんにどやされない内に帰るとすっか」


 ロレンツはガイを連れ、晴れ晴れしい笑顔で闘技場を去った。



 ☆



「ふむ。『鉄壁』を傍に控えさせていましたか。流石は『疾風』ですね。抜け目がない。次の作戦に移りましょう」


 静まり返った闘技場の宵闇に、男の呟きが溶けて消えた。



 ☆



 翌日。2人宛に手紙が届いていた。中を見てみると、冒険者組合からの適正診断通知だった。2人は早速中を見てみる。


「私は……えっと、盗賊だって」


 愛梨はやや複雑な面持ちで通知を見る。


「アイリには悪いけど納得ね。あのスピードは確かに盗賊向きだわ。何も本当に盗賊稼業しなくてもいいんだし、むしろ盗賊を退けられるくらいのスピードを手に入れて欲しいわね。で、ユートは?」


「魔法剣士、だってよ」


「………………は?」


 アンジェリカがフリーズする。


「? だから、魔法剣士だって」


「ちょっと見せて」


 アンジェリカは半ばひったくる形で悠斗の通知を見た。確かに書面には魔法剣士という4文字が記されている。


「な、なんかおかしかったか?」


「おかしいわよ。魔法剣士なんて聞いたことないもの! これでも適正診断については色々と調べたんだから、断言するわ! 絶ッ対変よ! そもそも本来魔法士と剣士は相容れない存在。どっちもそれなりにできる人間は診断困難として後日筆記試験や他の色んな実技試験を実施してようやく別の診断結果を通知されるのよ! こんなのおかしいわ! ちょっと抗議してくる!」


 アンジェリカは怒り肩でずかずかと部屋を出ようとする。


「待って! 何か俺が恥ずかしいからやめて!」


 悠斗は堪らずアンジェリカを引き止めた。


「ええい離しなさい! 人の生きる道標をなんだと思ってるのよ冒険者組合(あいつら)は!?」


 アンジェリカは腰に縋りつくようにして引き止める悠斗を振り払おうとするが、悠斗も食い下がって中々離れない。


「俺がいいって言ってるから別にいいじゃんかよ! それに魔法剣士ってカッコいいじゃん!」


「あ、アンジェリカ! これ以上暴れると服が……」


 悠斗がなりふり構わず縋りつくのでアンジェリカの下半身は半脱ぎ状態になっていた。太ももとパンツが丸見えである。


「キャッ! 離しなさいエロユート!」


 アンジェリカは悠斗を蹴り飛ばし素早く身嗜みを整えた。


「わ、悪い……。けどさ、いいじゃん。アンジェリカも言ってたし。俺は『剣術も魔法も卒なくこなす』んだろ? だったら魔法剣士はピッタリだ。具体的に何するのかはわかんねぇけど……これから考えてけばいいさ!」


「むぅ……ユートにしては珍しく正論ね」


「ほっとけ! つーわけで、ここに宣言する!」


 悠斗は咳払いをして立ち上がり、剣を抜いて天井高く掲げた。


「俺、立花 悠斗は今この時を以って魔法剣士を目指すことをここに誓う!」


 悠斗の覚悟の込められた声と姿に、アンジェリカもやれやれとため息を吐くしかできなかった。


 こうして魔法剣士という新たな職業がボロ宿の一室で静かに産声を上げた。

たくさんのブクマ・評価ありがとうございます!これからも楽しく書いていきたいと思っています

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