第13話 力の国
言い忘れてましたけど、魔力は生命力みたいなモンだから多いと強いです
トリニティ街道。ゴルト山及びゴルトマリーの村、スカーレ火山、そして王都オーレンの交流地点となる街道。
「王都ってウィザードリィじゃないんだな」
悠斗はキールに貰った地図を見ながら街道を進む。人や馬車が草を踏みしめ、土を押し固めてできただけの道だが、凹凸も無く歩き易い。
「王都ったって何も1つだけじゃないからね。私達が行くのはオレンガスト王国の城下に構えられた王都よ」
「オレンガストって、確か武帝アルスに並ぶ実力者と呼ばれた戦神ゲオルグって人が建てた国だったよね? 」
愛梨が歴史書の情報を照合する。
「ええ。兵器、魔法、戦術。あらゆる点で最先端を走っていたアルス王に対し、腕っ節ひとつで最後まで食い下がった男。ゲオルグ・プロイスト・フォン・オレンガストを王に讃える武闘派の国よ。戦の際にゲオルグ王が先陣切って一騎当千の戦果を上げたことからアルス王直々に戦神の異名を賜ったんだとか」
「長い名前だなー」
悠斗はアンジェリカの言葉をほとんど右から左へ聞き流し、足元のウルにじゃれついていた。
「…………まあそんな訳でウィザードリィに次いで戦闘技術関連の水準が高い国なの」
アンジェリカは諦めたとばかりにため息を吐いて言葉を続けた。
「アンタ達、元の世界に帰る方法探すにしてもある程度強くないと駄目でしょ? 異世界を繋ぐ門がドラゴンの巣の真っ只中とか、あり得なくはないんだし」
「……考えてもみなかったな」
悠斗はドラゴンの群れに突っ込んで雛の餌になる自分を想像し、青くなった。
「極端な例だけどね。とにかく、世界中のどこを旅しても大丈夫なようにはなっといて損ないでしょ? 」
「うん。それに、ヴェルドゲーデとまた闘うことになるかもだし……」
愛梨の言葉に2人の表情が硬くなる。
「もっと強くならないとな。ウルを護るって約束もあるし」
「ウォウ!」
ウルが名前に反応する。
「そう言えば……その子は王都に連れていけるのかしら? 」
「あ……」
3人と1匹の旅は、早くも関所に差し当たった。
☆
王都オーレン:王都門前
「止まれ!」
男の声が周囲にビリビリと響く。番兵は3人の旅人らしき格好の集団を呼び止めた。辺りは夕陽が山に吸われ始めていたせいもあって赤と紫が入り混じった空模様になっている。
「私達はゴルトマリーの村から来ました! 村長のニッキー・ゴルトウィンより当代国王ジグムント・サウロス・フォン・オレンガスト様への親書を預かって参りました!」
金髪の少女は強面の番兵を前にしても臆さずはきはきと告げた。
「よかろう! 王城の門前にて詳細の検閲を行う! くれぐれも騒ぎの種にならぬよう!」
番兵はそれだけ言うと巨大な門を開いた。
「すげ……俺らの倍くらいの高さの門を手で開けてる」
「流石は戦神の国。番兵の実力も相当なものだね」
悠斗と愛梨が素直に褒めると、それを聞いていた番兵は気を良くして悠斗達に向き直った。
「ハッハッハ! むしろこれが仕事でもあるからな! この門を開くことができるのはオーレンでも片手の指で足りる程しかおらぬわ!」
先程の警戒を剥き出しにした態度とは打って変わって番兵は快活に笑った。
「ようこそ! 武の都オーレンへ!」
3人は戦神の国に相応しい洗礼を受け、その門をくぐった。
☆
「あぶねー。いきなし門前払い食らうとこだったぜ」
「全く無計画過ぎよ!」
「は、早く出してあげよう。一杯荷物あるからウルちゃん息できなくなっちゃう」
門を通ってすぐ、悠斗は荷物の入った袋に手を突っ込んだ。何かを掴んで引っ張り出すと、舌を出してぐったりとしているウルが尻尾を掴まれて出てきた。
「キュゥーン……」
「わ、悪いウル! 今度は何か対策考えとくから……」
悠斗はウルを抱き抱え、回復魔法をかけてやった。アレコレ考えた結果、アンジェリカのローブの内側に隠すことにした。
☆
王都オーレン
城下町は人で賑わっていた。到着したのが夕刻であるにも関わらず、飲み屋や食事処の連なる歓楽街のような通りは様々な人が行き交っていた。
王都の住民らしき軽装の男女。兵役帰りの男衆。冒険者風の格好をした集団など。
「おー! なんかRPGの街に来たって感じがするぜ!」
悠斗は行き交う人の波に流されながらキョロキョロと辺りを見回す。
「あんまりキョロキョロしないの。田舎臭いんだから」
「でも悠斗君の気持ち、分かるかも」
愛梨は珍しくワクワクした表情で悠斗と同じく色んな店や人を見回していた。
「アイリまで……とりあえず宿を探すわよ。見つからなきゃ私達野宿なんだからね」
「はーい」
「分かってるって」
悠斗と愛梨はそう言って宿を探し始めた。そう時間もかからない内に古ぼけた一軒の宿屋を見つける。
「あったあった! これで安心だな!」
「まだ部屋が空いてるとは限らないでしょ。なるべく3部屋、最低でも2部屋は要るんだからね」
アンジェリカはそう言ってスタスタと足早に宿屋へ向かう。
「やめとけよお嬢ちゃん。そんなボロ宿」
不意に男の声が聞こえ、3人は声のする方を見た。見ると、数人の屈強な男がニヤニヤとした笑みを浮かべてアンジェリカに近寄ってきた。
「俺たち向こうのイイ宿取ってんだ。案内するぜ。俺たちの部屋しか空いてないけどな!」
男たちの下卑た笑いが響く。
「お生憎様。アンタらみたいなのと泊まるならイモブタ小屋にでも泊まるわ」
ちなみにイモブタというのは魔猪を食肉用に改良した家畜のことである。
アンジェリカはすっぱりそう言うと再び宿屋に歩き出す。
「待てよ。俺達ゃオーレンの闘技場でも名うての剣闘士なんだぜ? 損はさせねって」
「しつっこいわねえ! いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ!」
アンジェリカは威圧する為に魔視魔法を発動する。双眸に浮かぶ魔法陣のような光に男たちが一瞬気圧される。
「くっ! なんでえそれくらい! 俺達ゃ剣闘士だっつったろ! チンケな魔法風情にビビるかよ!」
先頭に立っていた男がアンジェリカに殴りかかった。アンジェリカは回避のため後ろに飛ぼうとした。
「おい」
男は振り上げた拳が固定されるのを感じた。声のする背後を振り向く。
「俺のツレに何しようとしてんだ? オラァ!」
悠斗だった。悠斗は男の顔面に深く拳を突き刺し、殴り抜けた。
「がっ……ぺ……」
男は歯と血を撒き散らしながらダウンした。
「テメェ! よくも兄貴を! 」
「やっちまえ! 」
リーダーがやられ、他の男達が一斉に襲いかかる。
「ハッハッハ! やっぱ喧嘩はいいなあ! あ、2人は先に行っててくれ!」
悠斗は人並み外れたスピードで男達の猛攻を躱し、余裕のある声で2人を宿屋へ促す。
「あ、アンジェリカ……」
「ほっときましょ。男ってどこに行ってもバカばっかりなのね!」
アンジェリカは怒り半分呆れ半分で宿屋に入っていった。愛梨も悠斗を心配そうに見ながらアンジェリカに続く。
宿屋の外から「テメェ! ホントにガキかよ!」とか「なんだその魔力は! 反則だろ! ウチに来いよ!」とか聞こえてきた気がしたがアンジェリカは何も聞こえなかった。
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