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魔法剣士になろう  作者: 白王
プロローグ
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プロローグ リア充になろう

初投稿です。

完全に勢いだけで書きました。

「今日こそ……」


 放課後。立花悠斗(たちばなゆうと)は校舎の玄関でとある人物を待ち伏せしていた。

 手にはハートのシールで留められた便箋が一通。

 悠斗は今日、告白するのだ。

 相手は同級生の東風谷愛梨(こちやあいり)という女の子。目立って美人というわけではないが顔立ちは良く、学校の成績も優秀で人当たりが良い、所謂優等生だ。友達も多く、告白しては散っていった男子生徒も両手の指では少し足りない程。

 悠斗もまた、その一人となろうとしている。


「やーめとけって。お前よりいい男が何人もフられたんだぜ? 悠斗じゃ無理! 賭けてもいいね」


 友人の心ないからかいに、悠斗は拳骨で応える。


「う、うるせー! 来年の受験シーズンになったら、『受験勉強で忙しいから』とか便利な言い訳が増えるだろーが! 今年がラストチャンスなんだよ……!」


 悠斗は持っていた手紙を握り締める。


「ってて……。そうやってすぐに手が出る乱暴な奴、東風谷さんが好きになるかよ。ま、残念会の準備はしといてやるぜ」


 友人はそう言って校舎を出て行った。


「思えば長かった……もう3年になるのか」


 友人との会話で緊張が少しほぐれた悠斗は、愛梨との出会いを思い出していた。

 悠斗が愛梨と出会ったのは、中学校だった。

 一年生の頃は人気者だなー、としか思っていなかった悠斗だが、事件は二年生の体育祭で起こった。



 ☆



「はい。お疲れ様」


 そう言って愛梨はタオルとドリンクを悠斗に差し出した。

 体育祭の騎馬戦。敵軍の綿密な打ち合わせと完璧なフォーメーションに味方が次々と倒れていく中、悠斗の騎馬隊は抜群のチームワークで立ち回り、見事逆転勝利を果たした。


「お、おう。サンキュ」


 悠斗は愛梨の爽やかな笑顔が眩しくて、つい目を背けてしまう。


「凄かったね! 最後の必殺技みたいなの!」


「ああ! 名付けて【ケルベロス】だ! 俺が他の3人を担ぐことによって攻撃の手が3倍になるという画期的な作戦だ」


 悠斗はそう言って自慢げに鼻先を指で擦る。

 ちなみにこのフォーメーションに対して大会運営委員会は『面白いのでOK』との意思を表明している。


「あははっ! でもそれって下の人が3人担げないと意味無いよね?」


 愛梨が可笑しそうに笑う。その笑顔に悠斗の心臓はとくんと強く鳴る。


「ま、まあな! つまり俺以外の誰にも真似できない究極奥義ってことさ!」


「それにしても、自分と同じくらいの体重の人を3人も担ぐってすごいよね! どうやったの?」


「ああ、アレな。まず上の3人が脚を組んで固定して……」


 これが悠斗と愛梨の中学校では最初で最後の会話になる。それ以降、悠斗は愛梨に片想いし、ひっそりと同じ高校を目指したのだった。



 ☆



「高校に入ってからはクラスも別々になっちまって接点0……廊下で顔を合わすことすらなくなっちまった。きっと東風谷は俺のこと忘れてんだろうな。けど!」


 悠斗はキッと面持ちを整え、玄関に降りてくる愛梨を待った。


「想いを伝えずに別れるのだけは嫌だからな! ぶつけるだけぶつけてやるさ!」


 悠斗がやや大きい声で独り言を言っていると、玄関前の階段から一人の女子生徒が降りてきた。

 やや目が隠れる長めの前髪と、肩口で切り揃えられたセミロングの黒髪。すっきりとした目鼻立ち。抜群とは言わないが見惚れるに値するプロポーション。

 悠斗の意中の相手、東風谷愛梨だ。


(き、来たっ!)


 悠斗は下足箱の陰に隠れ、深呼吸をする。心臓が太鼓のように大きく、速く打たれる。


(作文は落第レベルだけど、思いの丈はここに全部込めた! 最悪これを渡せれば……って何弱気になってんだ! ちゃんと自分の口で伝えなきゃダメだろうが!)


 悠斗は両手で頬を張り、持ち直した。


「よし! 東風谷……」


 下足箱から愛梨を覗くと、愛梨はもう靴を履き替えて玄関を出て行くところだった。


「あ、待っ……」


(こ、声が出ねえ。直前でビビっちまってるのか?)


 悠斗は生涯でこれほど自分の声帯を恨むことはないであろうとばかりに恨んだ。

 愛梨はすたすたと歩き去ってしまう。


「と、とりあえず追いかけるか」


 悠斗は声をかけられずに愛梨の後を追った。ストーカーの誕生である。



 ☆



「〜♪」


 河川敷。鼻歌混じりに足取り軽く帰路に就く愛梨。それに比べて悠斗はというと。


「…………」


(あ、怪しい。今の俺絶対不審者じゃねーか!)


 自身の行動の後ろめたさに頭を抱えていた。


「と、とにかく声をかけるぞ。周りに人いないし。うん。そのためにここまで来たんだ。そういうことにしておこう」


 悠斗は勝手に納得し、頷いた。


「あれ? 立花君?」


「!」


 声をかけるという悠斗の目論見は早速崩れ去った。独り言を聞かれたのか、愛梨が悠斗に気付いて話しかけてきたのだ。


(マズイ! このパターンは想定外だ! い、いや! 恐れるな俺! チャンスじゃないか! ここで伝えるぞ!)


「お、お、おおおう。久しぶりだな東風谷」


「久しぶりだね。高校同じって知って嬉しかったのに、全然話しかけてくれないんだもん。私忘れられちゃったのかと思ったよ」


 愛梨ははにかみながらホッと胸を撫で下ろす。


(やっぱかわいい……じゃなくて!)


「今日は、どうしても伝えたいことがあって来たんだ」


 悠斗は引き締め直し、愛梨に真っ直ぐ向き合う。


「? どうしたの改まって?」


 愛梨はきょとんと首を傾げる。


「お、俺! 俺さ……東風谷のこと……」


「私のこと?」


「す、す……」


 バチィッ


 その時だった。電気の空気を叩くような音が聞こえる。


「な、なんだ?」


「な、何?」


 二人は音のした方を見る。すると、そこには黒い渦が発生していた。渦の向こうから何かが現れる。




『運命の輪は廻された』




 車輪。馬車に付いている、木製の車輪だった。車輪は独り言のように言葉を発した。


「なんだこれ? ハロウィンてまだだったよな? クリスマス?」


『選ばれし者達よ。運命の輪に導かれよ』


 バチバチバチ


 車輪の奥の黒い渦が大きくなり、段々と引力を持ち始める。二人は自分の体が渦に引き寄せられるのを感じた。


「う、わ……なんだよこれ?」


「引っ張られる……!?」


 次第に増す引力は、やがてブラックホールのように強大になり、二人は踏ん張りが効かず渦に吸い込まれていった。


「う、うわああああ!」


「きゃああああ!」


 夕方の河川敷。二つの影法師が、一瞬で消え去った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです。ケルベロス。笑
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