ひとつめ 生まれました
――なにもなかった。そう、始まりは何時だってなにもないところからできるんだ。
そこはまさに虚無。なにもなくて、なにも生まれなくて、だからなにも始まらない。終わらない。
そこでふと、気付いた。じゃあ自分は何だ?何もないなら、こうして思索に耽る自分は何者だと。
そう思ったとき、その存在は自身について考えるようになった。もっとも、その存在は考えるという概念を、まだ理解してはいなかったのだが。
やがて、自分を虚無を虚無でなくなるためのもの――すなわち、異物であると判断した。では、異物が生まれた意味は有るのかと考えた。結論は、無い。ならば消えるべきか?否。……
思考は連続性を生み、徐々に加速していく。そうして思考はいくつかの結論――生まれた意味はわからない、だが消える事もできない等――を出した上で自分はなにができるのかを探る。
異物はすぐに、『身体』が『粒子』の『集合体』でできていることに気づき、しかも『時間』とともに増え続けていることに気づく。
同時にそんなものがあるという概念に気づき、自身に定義づけた。
粒子は思考に沿って形を変えられるようだ。なにをするにも粒子の集合体では都合が悪いと判断した異物は、繰り返された思考の末に獲得した自我をもとに粒子を集める。
「嗚呼、こんなものかね」
出来上がった身体は、周りを観察して思考する為の器官を一つ、粒子や、それで創ったものに触れるための器官を二つ、自分の位置を変える為の器官を二つに、それらをつなぐ部分。
その姿は、黒髪に、長身痩躯の男一人。
我々が知る人間そのものだった。