妹
誤字脱字は気づき次第変更いたします。
俺には妹、千雪がいる。
5歳年下の妹、今年大学生になる。目つきが悪いとか雰囲気が怖いって言われる俺と違って妹はどこかおっとりとした柔らかい雰囲気だった。両親は忙しく不在がちだったため、俺が千雪のそばにいた。どことなく儚げでもある妹を守るのが俺の仕事だと思っていた。
小さいころから俺たちは一緒だった。あいつが虐められたとなれば俺は絶対に、相手を許さなかった。どんな手を使ってでも虐めた相手を追い詰めた。
そういえば、あの時のあいつ。千雪に嫉妬してあることないこと言いふらしたり、教科書を捨てたあの女。結局どうなったんだろうか。ネットにアドレスと住所、名前を乗せてからすっかり見なくなった。近所に住んでいたはずだが、どこへ行ったのか…
千雪が虐められることがあってから千雪を守るために監視をすることにした。
千雪がいつも持ち歩いている鞄の内側と、誕生日プレゼントに送った猫のぬいぐるみに
盗聴器をつけておいた。鞄のほうにはGPSも。制服にもつけていたが、高校を卒業してからは普段使いの鞄につけたがどうも心もとない。だが、この鞄も俺がプレゼントしたものだ。しっかり持ち歩いてくれている。うれしい限りだ。
今日は大学の先輩と出かけるらしい。自室の机で機械をつなぎ、ヘッドフォンをつけ、
スイッチをいれる。
『…今日は付き合わせちゃってごめんな』
ゾクリと背筋がする。男の声?どうして?
『気にしないで下さい。早く買い物しちゃいましょう』
そのあとに千雪の声。俺は盗聴器から聞こえる声に神経を研ぎ澄ませる。
『従妹とはいえ、女のプレゼントなんて何買えば良いかわからなくてさ』
『合格祝いですよね。それなら学校生活で使いやすいようなものが良いですね』
楽しそうな千雪の声。あいつはプレゼントを選ぶのが好きなんだ。
二人の明るい話し声が聞こえてくる。無意識のうちに唇を噛み、血がにじんでくる。
鉄の味が口に広がる。あの千雪が男といる。どんな男かは知らないが、きっと下劣な奴だろう。汚されてしまう。純粋で綺麗な千雪が。恐怖と嫌悪感が俺をめぐる。
『このペンケースなんかどうですか?この水色の』
やめてくれ。俺以外にそんな声で話をするな。
『おかげで良い買い物できたよ。ありがとうな!お礼に飯でも奢るよ!』
俺の千雪に近づくな下郎が。お前のような男に千雪を汚されてたまるか。
我慢ができずヘッドフォンを外す。ふらふらと机から立ち上がる。
本棚に近づくと、一番上の右端の本を手に取る。
ベッドに腰掛け中を見ると、俺が集めた千雪の写真が貼られている。
可愛らしい笑みを受かべているものや、何やら気難しい顔をしているなどバラエティに富んでいる。
俺の千雪…可愛い俺の妹・・・ほかの男には渡さない。渡してならない。
「ただいまー、お兄ちゃん。お土産買ってきたよー」
千雪が帰ってきた。俺は一つ決意をして、千雪のいるリビングへ向かう。
リビングのドアを開けると、千雪がテーブルの上に荷物を広げていた。
「おかえり千雪」
「あ、お兄ちゃん。ドーナッツ買ってきたの。一緒に食べよう」
屈託のない笑顔で話す千雪。俺は必死に笑顔を作り、コーヒーを入れてくるとキッチンへ向かう。
二つ出したマグカップ。淡いピンクの花柄のカップ。千雪のものだ。
俺はそのカップにポケットから出した粉薬をいれる。
そしてそれにコーヒーを淹れ、何食わぬ顔で千雪に持っていく。
幸せそうにチョコのかかったドーナッツをほおばる千雪。
俺はそんな千雪を見ながら話しかける。
「なあ、千雪。楽しかったか?」
「もちろん。楽しかったよ」
返事をすると、コーヒーを一口飲む千雪。
「そうか…楽しかったのか……ほかの男と一緒にいるのが」
「え…?」
驚いた声をあげる千雪。何か言おうとしていたが、そのまま意識を失ってしまった。
机の上に突っ伏した千雪を、優しく抱き上げる。
まさか、睡眠薬がここまで効くとは。俺は千雪を自室へ運ぶとベッドへ寝かせ、そしてそのまま手足をベッドのふちにつないでしまう。
妄想の中だけで収めようと、買ってはいたものの使わなかったこの道具を、
使う時があるとは思わなかった。
ベッドにつながれた千雪の顔を眺める。長い睫に小さく桜色の唇。小柄な体に長い黒髪。
俺は優しくその唇にキスをする。
俺の千雪。俺だけの千雪。誰にも絶対に渡さない。
お前は一生俺のだからな。
これからの生活を想像し、俺は笑みがこぼれた。
最後までありがとうございます。※文章と内容を一部変更いたしました。