落ちる、命、廻る。
初めてこういった系統の短編を書きました。
私はまだ人生経験が少ないので上手くかけずに拙い文章になっていることがあるかとおもいます。
死ぬ間際にまた同じテーマで書きたいです。
感想よろしくお願いします
瀬野は落ちていく。底が見えない真っ暗な空間の中を。
瀬野は心筋梗塞で死んだ。死ぬまでは苦しかったが死ぬ直前になると、フッと痛みは消えていった。
享年87歳。
自分にしては長く生きられたほうだと瀬野は思う。
と、気がつくと周りにだんだんと色がついてきた。
それはどんどん鮮明な映像のようになって、瀬野の落ちていく速さと並走した。
そこに写ったのは自分の動かない体を前に泣きじゃくる家族だった。85歳の妻と62歳の娘、59歳の息子だった。子供は二人共もう結婚し、家庭を築いている。
わざわざ遠く離れた所から自分のためにここに来てくれたのだ。
と、再び周りが暗くなった。
しばらく落ちているとまた明るくなってきた。
今度は瀬野の還暦祝いの映像だ。
妻と子供達からのケーキを一気に頬張る瀬野の姿があった。
家族みんなに笑顔が溢れていた。
そしてまた暗くなる。
今度は親の葬式だった。
親の死という現実は瀬野の心を大きく抉った。
それを支えてくれたのは妻だった。
再び明かりが消える
瀬野は自分の体を見ると若返っていることに気がついた。
次に流れる映像には見覚えがあった。
娘の結婚式だ。
妻と共に号泣する自分が写っていた。あの時はスピーチが大変だったなぁ、と瀬野は懐かしんだ。
またまた映像が切り替わる。
今度は息子の二度目の大学入試結果発表だ。
一度落ちた時はひどくやさぐれ、何に関しても投げ出していた。
そんな息子を説得するのは妻。
自分は会社での残業が多くなっていたため、家族のことは全て妻に任せっきりになっていた。
そんな瀬野は仕事中に来た妻からのメールを見て、仕事を抜け出し息子の元へと向かったのだった。
息子は泣きながらに「父さん、母さん、今までありがとう……! おがげで俺……ッウウゥ…………ありがとう………………ありがとう…………!」と言うもんだから瀬野は愛おしそうに息子を抱き込んだ。
周りは少しづつ暗転する。
瀬野は明るくなるまで待った。
どうやら瀬野が落ちれば落ちるほど若返っていくようだ。
次に流れてきた映像は子供達が思春期真っ盛りの時の映像だった。
それはもう毎日のように喧嘩をしていた。
年頃の子供の扱いは本当に難しいと感じた時だった。
些細なことで喧嘩になるので精神的にも肉体的にもキツイ時期があったのだが、そこを我慢するのが親の役目なのかと瀬野は思っている。
瀬野の落下は止まらない。
今度は息子の小学校入学式の時のものだった。
新品でピカピカと黒光りするランドセルを誇らしげに背負っている。既に入学していた娘はだんだんと姉としての自覚が出てきていた頃だ。
次はおさない娘が家でデコを怪我して病院に行った時だ。妻も瀬野も慌てふためいてパニック状態になっていた。急いで車を出して病院に行ったものだ。
まだ落下は止まらない。
再び暗転。
娘が生まれてきた時の映像が流れる。
小さな命は、それでも懸命に生きようと大声で泣いていた。指を差し出すとその小さな手で弱々しく握り返してくる。
夫婦二人は共にその幸せな時間を噛みしめた。
そして映像が切り替わる。
結婚式の時だ。
柔らかい日差しに包まれて、二人は誓いのキスをかわした。
スピーチは噛み噛みな上に途中で泣き出してしまう始末であった。
次に流れたのはプロポーズのシーンだった。
高級なレストランで二人とも緊張しながらご飯を食べる。
緊張から会話は弾まない。
「あ! あの……! その、今まで何度となく君に助けられてきたけど、ぅぅう……あの、その、こっ、これからも……! 一生差支えて欲しいんだ……。そして、君のことは俺に支えさして欲しいんだッ……! だから……!」
そこで瀬野は区切る。
「俺と、結婚してください!!」
「うん! うんッ!! よろこんで!!!」
彼女は涙で頬を濡らし、赤らめながら答えた。
次の映像は随分とにぎやかだった。
高校のときの友達と再び集まった時のことだ。
昔話に花が咲き、みんなで母校の校歌を熱唱した。
瀬野はどんどん若返っていく。
瀬野が19歳の時の頃の映像が流れる。
初めて彼女を見たのは図書館だった。
一目惚れだ。
瀬野はなんとか彼女に声をかけるきっかけを作って仲良くなることができた……。
再び暗くなる。
次に流れてきたのは高校の卒業式だった。
始まってから少しづつなく人が増えていき、最後は全員が号泣していた。
仲の良い男子たちで集まって将来のことについて語り合い、いつか、また全員で会おうと涙ながらに約束を交わした。
中学生のときに親とずっと対立していた時の映像が流れてきた。
ほんの些細なことですぐに喧嘩になる。
今なら親としての苦労がしみじみとわかる。
瀬野の体は益々幼くなっていく。
丁度瀬野の親がでかけていくところが写った。
瀬野の親は共働きで幼き瀬野は寂しい思いをしてきた。
なのでだんだんと甘えん坊へとなっていったのだ。
次に流れてきたのは瀬野が母にだかれているところだった。
暖かく、柔らかく、そして優しいぬくもりだ……。
そして周りは暗くなっていく。
瀬野は泣いていた。
こうして自分の人生を振り返ってみると悪くはない人生だったと彼は思う。
生まれてから死ぬまでいろいろなことがあった。
辛いこともあれば楽しいことがあった。
嬉しいことや寂しい、悲しいこともあった。
とにかくいろいろなことがあったのだ。
その様々なことが彼を築き上げたのだ。
瀬野は自分の人生に関わった全てのものに感謝した。
相変わらず涙は止まらない。
嗚呼、いい人生をおくれたなぁ……。
まだ瀬野は落ちていく。
そのうちにも彼は若返る。
延々と続く真っ黒な闇の中に一筋の光がさした。
落ちていくにつれ、それは大きさをます。
そして、遂に光が全てを包み込んだ。
落下は止まり、その場に浮遊して止まっている感覚に陥る。
彼はゆっくりと、そう、ゆっくりと目を閉じた……。
「……ぅ、おぎゃぁぁあ! おぎゃぁぁあああ!」
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
ある日のとある病院の分娩室にその産声は響いた。
ーーfinーー