とある 創世記
世界は闇だった。
長い長い気の遠くなるような年月が経ち、ふいに目覚めた。
闇は世界だった。
世界に闇しかことを知っていた。
そうしてまどろんでいた。
長い間だったか短い間だったか。
もう一度目覚めたとき、闇は動き出した。
自身の一部を捏ね、平らなものを作った。
それが大地になった。
それ以外は空になった。
大地の片方を表と決めた。
さらに捏ね、でこぼこにした。
高いところが山となった。
世界は闇だった。
闇は闇でないものを作った。
それは光。
こうこうと燃え上がるもの。
それは太陽。
大地を照らす熱く眩いもの。
ただそれは強すぎて大地ががからからに乾涸びた。
闇は太陽を大地から遠ざけ、その周りを巡らせた。
昼と夜になった。
それでも大地は熱の差で崩れそうだったので、太陽の火を大地の中に入れた。
固いものばかりだったので柔らかいものを作った。
さらさら流れ窪みにたまり溢れ、平たい大地の淵から零れ落ちていった。
それは水となり川となり湖となり海となった。
大地の裏側に零れた水は巡る太陽に熱せられ、雲となり大地に戻り雨となった。
闇がふるりと体を震わせると微小なくずが大地に落ちた。
それは大地に根付き、命となり生物になった。
色が生まれた。
少しのち、大地に棲むものを真似作り上げたものを太陽に乗せた。
闇が最初に命として生んだもの。
輝きに相応しいもの。
光源。
大地を統べる硬い鱗を持つもの。
空を統べる羽を持つもの。
水を司る泳ぐもの。
風を司る軽やかなもの。
火を司る荒ぶるもの。
微小な命を支配する牙を持つもの。
大地の裏側を冥府と決めた。
太陽が照らせぬ冥府のために小さな灯りを、異なるように巡らせた。
月となった。
太陽より小さな月は、それより早く大地を巡る。
小さな雫を空にばら撒いた。
それは小さく煌き瞬く星となった。
闇は世界だった。
空を大地を冥府を眺めまどろむ。
闇の中の、小さな世界の揺り籠となって。