うーんこまった事になった
うん、こまった事になった。
うんこは待ってくれないのに。
おっす底辺ども。今日も社会の底辺でがんばってるか。
俺様は今日は休みだ。
高学歴・高収入・高身長でイケメンで足の長い人生の勝ち組。それがこの俺、池面太郎だ。池面・太郎ではなく池・面太郎だぞ。
俺は今、とても精神的に参っている。
別に好みの女との見合いに失敗したとかそんな理由ではない。イケメンの俺はお前らブサイクと違って女なんていくらでも選べる立場なので一度や二度の失敗なんかでへこたれないのだ。
そんな俺が何を悩んでいるかというとだ。
勝ち組の俺は週休二日なわけだ。
仕事の量で言えば周りよりも多いくらいだが俺は効率よく仕事をしているので周りよりも仕事をこなしつつ周りよりも長い休みを取れるのだ。
で、土曜は休みなのでジャプンの早売りを買いにいったわけだ。
一応法律違反なので場所は復す。この話はフィクションだからお前ら真似すんなよ。
まぁジャプンを買ってあとは家に帰って読むくらいだ。
俺は普段歩きだが今日は珍しくチャリに乗っていた。マウンテンバイクだ。都会なのにな。
で、休みの日だからかなり大雑把な服装でなぁ。
行って買って帰ってくるだけの簡単な作業で何も考えてなかったのが悪かったのか。
帰り道、ちょいと近道ってワケでもないが神社を通って帰ろうとしたわけだ。普段は道路側を走っているんだがな。
別にどっちのが早く帰れるとかはない。その日の気分だ。
それが不味かったのか。
神社には茂みとか木とか結構生えてるんだが普段は気にもしていない。興味ないしな。
そんな俺は普通に帰るだけのはずだったのに、やや上方の木の茂みの中からガサッと音がした。
はてなと思い上を見ようとしたがその瞬間には事が終わっていた。
俺の右肘に、なんか、緑色の、なまあたたかい、ネチャッとした物が……
「ぉおぅわぁ!?」
イケメンらしからぬ悲鳴を上げるのも仕方あるまいよ。
むしろこの状況で微動だにしないヤツが居たらそいつがキモいわ。
しかしこれは一体なんだ?
一瞬色からして虫かと思ったが違う。
なんかうんこに見えるんだが鳥のうんこはこんなじゃないし……いや、俺はうんこ博士じゃないからうんこなんて知らんがな。
お前らうんこ野郎だしお前らの方がうんこには詳しいから知ってるんじゃないか?
よかったな底辺ども。
底辺のお前らでも勝ち組の俺に勝る物があるじゃないか、うんこ博士。
脱線したな。俺は冷静でないというのか。
イケメンなのに。
ま、肘に付いたこの物体……まぁうんことしよう。
こんなもん付いたからとて慌てる事はない。
ティッシュなりハンカチなりでふき取って捨てれば終わりよ。
……普段ならな。
俺は普段は紳士の嗜みとしてハンカチもティッシュも消臭スプレーも持っているが今日は完全にオフの予定だった。
だからジャプンの早売りを買おうかなんて思ったわけだが、完全オフのつもりだったので身一つできてたのだ。
一応ジャプンを入れるための鞄は持ってたがそれだけだ。
だから肘にこびりついたうんこをふき取ることが出来ない。
うーん、こんな事になるなんて。
つってもここから家まではチャリで15分かそこらよ。
人に見られることも無く家に帰ってふき取ればそれで試合終了だ。
俺はお前らブサイクと違いメンタルもイケメン!
どんな窮地も問題なく突破してくれるわ。
土曜は休みである。一般的に。
ゆえに結構人とすれ違う……その度にうんこ見られないようにと肘を捻って不自然な動きをしてしまうがこれも仕方が無い事。
お前らブサイクなら肘どころか顔にうんこ付いてても違和感無いだろうが存在そのものがイケメンの俺にはそんな汚点がどこにあろうと許されるわけが無い。
だから人に見られないように必死よ。
そうして帰る途中。
家までの間にある最後の信号で止まっていたら、何の偶然か、あるいはうんこ……もとい運命のいたずらか。
偶然出会ってしまった。
こないだの見合い相手の人と。
犬の散歩か知らんが日本の町中で飼う様なタイプじゃないでかい犬を連れている。
はぁ、こういう非生産的かつ無駄なことする所が良かったのにもう俺には縁の相手なのよなとちと落ち込む。
彼女は俺に会った事を不快に思ったのか眉をしかめるがそれ以上は表情を変化させない。
もっとゴミを見る目で見てもらいたいと思ったのは内緒だが、まぁ知らない仲でもないしちと話でもするか。
「……今日は、におい」
「ははは、あの日はホント偶然ですたまたまです人生8回やり直したら1回くらいあるかないかの最悪の日でしかありませんよ」
信号が変わるまでのほんの短い会話だが相手の人は俺がうんこのにおいをさせていない事に違和感を感じていたらしいので、せめてうんこのにおいをさせていた事が異常事態だったのだとフォローはしておかねばな。
誰が好き好んで普段からうんこ漏らすかよ。
「ッ! す、すみません! わたしとんでも無い事を」
「ははは、いくら最悪の日とはいえその日にしか会って無いあなたからは普段からああだと思われても文句は言えませんよ。むしろ今フォローできた俺は幸運です」
「池さん……」
あれ? なんかこれ好感度上がってね?
すげえ!
さすが俺! イケメン! すごい!
完全に縁の切れた相手と思ってたがひょっとするとひょっとするんじゃないか!?
いける! やれる! この場を逃すな!
と、思って一気に距離を縮めようとしてそういや右肘にうんこ付いてたの思い出した。
クソァ!
くそ、本来ならチャンスなのに一旦引かねばならんとは……しかしにおいは無くとも肘にうんこ付いたままでは
「なんだ、この人はたんににおいの日とうんこの現物付いてる日とをローテーションで組んでるだけのうんこ野郎じゃない」
なんて思われかねん!
仕方ない、ここは無理せずに引くか……そう思って信号も青になったのでゆっくりと動き出した俺を指差して、近所にでも住んでるのだろうか? 偶然近くにいたガキが俺を指差して言った。
「あー! このオッチャン肘にうんこ付いてるー! うんこマンやー! えんがちょ切ったー!」
そう叫んで走っていった子供を呆然と見る俺。
少年の指差した先の俺の肘を見る彼女。
絶望的な表情をする俺。
道端におちたクソを見るかのような不快な表情をして走って去る彼女。
くそう。
この話はフィクションです