転生したけど才能ゼロの凡人だったので、ヤンデレな天才幼馴染を『利用』して特別な女になろうと思います――ねぇ、なんで嬉しそうなの?
この世界に転生して16年。
チートが使えると思っていた時期が私にもありました。
剣と魔法のファンタジー世界に転生したことに最初はうきうきしていたし、魔法も頑張って習得しようとした。
が、魔法というのは生まれながらの才能がものを言う分野であり、私にはその才能がなかった。
じゃあ、女剣士を目指してみるか?と兄と一緒に剣の稽古をしていた時もあったが、母親からそれとなくやめるように言われてしまい稽古ができなくなった。
貴族のご令嬢らしく、一定程度の礼儀作法は身に着けたけど当たり前過ぎて、それが特別褒められることもない。
私はもっとこう現代日本のような「私として」の個性が欲しかった。
普通が幸せであるなんて誰が決めたのか……。
現代日本より、普通じゃないと不幸だって言う同調圧力が強すぎる!!
「……」
「フィーナ?」
「ゼノはいいよねぇ、特別な力があって」
教室に居残り、なにかよくわからないがおそらく魔導具を組み立てている幼馴染に話しかける。
待っていてというから待っているのに、自分の用事を優先させるとはさすが天才様である。
「そうかな?」
「無自覚かよ。ちくしょう……」
「僕にとってフィーナは特別だよ」
「あー、はいはい。ありがとう」
そうではないのだ。
私は世界をあっと驚かすような特別が欲しい。
こう前世の知識を利用した、無双をするとかさぁ!!
けれど悲しいかな、知識はあるのに知識を形にするための仕組みが分からない。
仕組みが分からなければ再現できない。
もっと前世で勉強しておけばよかったと心底後悔した。
「どうして特別になりたいの?」
「私はほかのご令嬢と同じじゃない」
「うん、そうだね。世界一可愛い子だと思う」
「そうじゃなくて!私が特別だって世界に知ってほしい!!」
「なんで?」
「なんでって、なんで?」
人間、自分の才能で特別になって注目されて、ちやほやされたいでしょ、普通。
「有象無象からの特別があったって、たった一人からの特別が貰えないんじゃ意味がない」
「うん?どういうこと?」
意味が分からなくて首を傾げると、ゼノは不機嫌そうに口を尖らせて魔導具作りの作業へ戻ってしまった。
この世界に生まれ落ちてから幼馴染をやっているゼノはこの世界の「特別」である。
魔導具作りの天才と言われ、子供の頃から便利な道具を作って金も名誉も同い年とは思えないぐらい持っている。
私だって前世の知識が生かせれば、すぐにゼノなんて追い越せるのに……と、ゼノがキラキラした瞳で新しいものを見せてくれると心がささくれる。
前世でも天才はいたけれど、画面の向こう側の世界の話だったからなんとも感じなかったけれど、目の前に天才がいると本当に心がすさむ。
「なんか、むかつく」
そのうっぷんを晴らすようにゼノの頬をつねってから、立ち上がる。
「どこ行くの?」
「帰る」
「まって、僕も一緒に帰る」
「それ、完成させなくていいの?」
「頭の中で完成できてるから」
「……そーですか」
ほんと、こういうところが憎たらしい。
私が持ち得ないものを持って、それを当たり前のように行使する。
それが特別だと思わないで、普通にできることだと信じて疑わないから無神経な言葉が出てくるのだ。
後ろをついてくるゼノの足音を聞きながら、学園の玄関に向かいながら思う。
結局私は何者にもなれない、と。
分かっているのだ。
前世で何者でも無かった私が、この世界でチート能力を使って無双ができないって事。
チートを使いこなすにはなにかひとつでも別の才能がないといけないって事。
さすがに16年この世界にいれば、嫌でもわかる。
私はどこまで行っても凡人で、転生ボーナスなんて無くて、ただただ普通の貴族の女として生きていくって。
「あ、そうだフィーナ」
「なに」
「これあげる」
そうして渡されたのは細長い小箱で、開けてみると中に前世でいうところのボールペンみたいなのが入っていた。
「なにこれ」
「大きく振ってみて、こういう風に」
魔法使いが杖を振るうようにゼノが腕を振ったので、同じようにやってみるとペンからそよ風が発生した。
「……なにこれ」
「フィーナが魔法が使いたいって言ってたから、作ったんだ。このメモリを合せると属性が変わるんだよ!」
あぁ、本当にこの男は私の神経を逆なでするのが上手い。
憧れていた魔法を、前世のボールペンみたいなのから出すなんて、どこの魔法少女だよ。
それを前世の知識がないゼノが作ったことが本当に腹立たしい。
「そっか、ありがとう」
腹立たしいことこの上ないけれど、どう?すごいでしょう?ってキラキラした目で訴えられたら、無下にもできなくて、ゼノにお礼を言うしかできなかった。
感情のままに怒りをぶつけたって、これは私が勝手に感じている劣等感で、それをゼノにぶつけるのは間違っている。
これでも前世では大人だったので、そういった感情のいなし方は分かっているつもりだ。
でも、だからといって劣等感や嫉妬心が無くなるわけではない。
常にゼノという光の傍にいて、そういう心が刺激されないわけがないのだから。
そんな気持ちを抱えながら毎日生きていくしかないのだ。
生きていくしかないんだけど……。
「妖精と話せるとか、動物と話せるとかの能力がないもんか……」
昼間の件が尾を引いて眠れずに、それなりに大きい家の庭でぼんやり庭師が整えた花壇をベンチに座って眺める。
正統派のヒロインならば、ここで妖精があらわれたり?可愛い魔獣があらわれたりして何かが起こりそうなものだけど、残念ながら期待しても無駄というやつだ。
なんとなく持ってきたゼノから貰った、魔法が出るペンを取り出して、デザインを私好みにしている事に気づいてため息が出る。
全部全部私の為なのだ。
試作含めて魔導具は何もかも、私が「苦労する」って言った事を全て楽にするためにゼノは作ってきた。
それがほかの人も楽になるからゼノの家で専売しているだけで。開発の発端は全て私。
これもある意味、前世の知識のチートなのかもしれないけど、私は一言「こうだったらいいのになあ」と言っただけ。
よくわかんない理論とか、魔法制御とかを考えたのはゼノ。
やっぱり本物の天才は違う。
「田舎に引っ込もうかなぁ」
ぽろっと漏れた、その言葉がこの苦痛から逃れる唯一の正解に思えて、まだ起きているであろう父の所に相談をしに行こうと立ち上がったら、後ろから抱きしめられた。
「え、はぁっ!?」
「行かないで!!」
「え、なに、ゼノ!?なんで!?」
「行かないで!!絶対に行っちゃダメ!僕の傍にいて!!」
「待て待て待て、色々待て!」
ゼノの腕の中から抜け出して、真正面から向き合う。
涙目のゼノに、何故うちの庭にいるのか、私の言葉を知っているのかを問い詰める。
「えっと……、あのね?」
「言いなさい」
「フィーナの事が心配で、そのペンに盗聴機能と転送機能をね……」
「ばっかじゃないの!」
「ごめん!でも、フィーナが心配で!!」
「プライバシー侵害を許したつもりはない!」
「でも、可愛いフィーナが誰かに襲われたら気が気じゃなくて……」
「だからなんでそんな発想になるの?おかしいでしょう?どう考えても」
「だって、フィーナが僕のものになってくれないから」
「はぁ?」
「ずっと大事だって言ってる!フィーナが特別だって!なのにフィーナは流すじゃないか!」
「いちいち幼馴染からの親愛を受け取ってどうすんのよ」
「……違う!」
掴まれた手首には普段のゼノからは信じられないほどの力が入っていて、驚きで体が固まる。
「僕は、フィーナが好きなんだ。ずっとずっと大好きで、フィーナの為に魔道具を作ってきた。そうすれば僕から離れられないでしょう?なのに、フィーナはちっとも僕の気持ちに気がつかないんだもん!!」
「いや、だって、ゼノが私を?」
「そうだよ」
掴まれた手首を引っ張られて、その腕の中に閉じ込められる。予想外の事ばかりで頭が混乱して言葉も出てこなければ、身動きも取れない。
「ねぇ、僕だけの特別じゃダメなの?ずっとずっと永遠に僕の特別はフィーナだけなのに……」
甘えるように私の首筋に顔を埋め「フィーナ、僕を君の特別にして」と懇願される。
それを受け入れてしまえば、私はずっと劣等感に苛まれるのは分かっている。
でも、それでもゼノを振り払えないのは、その気持ちに嘘がないと分かっているからだ。
そして、才能のある男が平凡な女を求めている事が心地がよかった。
あぁ、本当に私はどこまでも打算的で自己中心的な女だなと自嘲する。
けれど、同時に心が満たされていくのだ。
この才能を私がコントロールしたら、どんなに特別なことだろうか、と。
盗聴され監視されようが、この天才の才能が手に入るなら些末なことではないだろうか、と。
「その才能、私にくれるの?」
「なんでもあげるよ。僕が持っているもの全部あげる。僕はフィーナしかいらないから」
だったら貰ってあげる、と私はゼノを抱きしめた。
世界の流行を変えるほどの魔導具を作れる男が私の為に魔導具を作る。
それは私が流行を作っている事と同じでしょう?
最先端を走る「特別な女」に私はなるの、ゼノを使って。
◆
<sideゼノ>
フィーナは昔からちょっと変わった女の子だった。
ものの見方が普通と違っていて、フィーナの話を聞くのはとても楽しかったし、頭がおかしいと言われる僕の話も「すごいね!」と聞いてくれた。
でも、フィーナはそれだけじゃなくて周りから気持ち悪いと言われる魔導具を褒めてくれたし、笑顔で受け取ってくれたんだ。
その笑顔が可愛くて、可愛くて、僕はフィーナを喜ばせるためだけに魔導具を作ってきた。
いつも可愛い笑顔を僕に向けてくれるように。
その笑顔が永遠に僕だけのものになるように、僕の魔導具無しじゃいられない状況を作ってきた。
実際、フィーナの身の回りには僕の魔導具であふれていて、市販されていない物も多くある。
僕がフィーナの為だけに作った、フィーナ専用の魔導具。
可愛い君の笑顔を独り占めする為の道具。
だから壊れても僕が直すし、改良もしてあげる、だからフィーナは僕がいないとダメなのに……。
なのに……。
フィーナは成長していくにつれて普通を嫌がった。特別になりたいと言うようになった。
僕の中では十分特別な女の子なのに、どうしてそんなことを思うんだろう?
たくさんの人から称賛されるような特別になりたい、と思うんだろう?
君が称賛を受けるようになったら、誰かに君を攫われてしまうのに……。
僕だけのフィーナでいて欲しいのに。
ああ、そっか、僕が世間の光り輝く特別になれば、フィーナを僕の作った暗く濃い影に隠せるから誰にも攫われない。
でも僕はフィーナの物だから、僕に向けられる世間の特別はフィーナのものになって、フィーナも喜ぶよね?
そうして魔導具を一般にも販売できるように、父に販路を整えて貰って、販売した。
そのおかげで僕は「天才」と言われるようになったし、名声も名誉もお金も手に入れた。
そんな僕をフィーナは避けるようになったけど、強引に近くに居座り距離を保ってきたつもりなのに……。
ようやく、転送装置の小型に成功してペン型の魔導具に取り付ける事ができるようになったから、フィーナが使いたがっていた魔法が使えるペンとして渡した。
あんまり嬉しそうじゃなかったけど、受け取ってくれたからよしとしよう。
それにちょっと嫌そうな顔も可愛いから全部許してあげる。
フィーナは可愛いから、危ない目にあったら困るしね。
そうしたら、「田舎に引っ込もうかなぁ」っていう言葉だ。
慌てて転送装置を起動させてフィーナの所に駆けつけた。
怒られたけど、僕にとってはそれどころじゃなくて必死に気持ちを伝えた。
「その才能、私にくれるの?」
「なんでもあげるよ。僕が持っているもの全部あげる。僕はフィーナしかいらないから」
背中に回された腕に心が湧きたつ。
あぁ、ようやく、ようやくだ!
ようやく磨き上げてきた「才能」に食いついてくれた!
……あぁ、本当にバカなフィーナ。
僕の才能なんてものに食いついて来ちゃうなんて。それは君にあげるために磨き上げた極上のものだとは思っていたけど、思い通りに食いついてくなんて。
僕は君の物だけど、君も僕の物だってこと、忘れてるなんて本当に可愛いんだから。
だから、どこへも逃がしてあげないし、もっともっと僕無しじゃ生きられなくしてもいいよね。可愛い僕のフィーナ?




