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「あなたの婚約者を寝取ってやった」と仰いますが、そのクズは私のではなく王女殿下のモノですよ 【王女視点】~クズの婚約者を寝取られた王女様とその護衛騎士~

作者: ぽんた
掲載日:2026/04/11

「シノ・アルバーン。あなたの婚約者をいただいたわ」


 王宮での夜会。


 大広間にその宣言が響き渡った。


 親友や幼馴染というよりか、姉妹といっても過言ではないシノ・アルバーン公爵令嬢や貴族令嬢たちと楽しく談笑していたときだった。


 ド派手なだけでなく不謹慎なほど胸元が露出しているドレスを着用した令嬢が、そのわたしたちの前にやって来て突然宣言したのだ。


 その令嬢の名は、アリス・ブレナン。ブレナン伯爵の後妻の娘だ。


 わたしは、彼女のことを知っている。わたしの専属騎士であるライリー・ジャクソンが調査し、報告してくれたからだ。


 その調査や報告は、わたしがライリーに命じたわけではない。ムダに過保護で忠誠心のあるライリーが勝手に調べ、わたしの耳に入れたのだ。


 とにかく、アリスは控えめにいっても問題児だ。問題ばかり起こしている。その問題のほとんどが、寝取ること。つまり、だれかの婚約者や夫を寝取るわけだ。


 どうやら彼女は、そんな非倫理的不道徳なことをライフワークにしているらしい。それはなにも、彼女が市井で育ったからそのコンプレックスからきているわけではない。彼女のそもそもの性格なのだ。


 彼女は、物心ついたときから周囲のモノを盗んだり奪ったりしていたらしい。ただ単純にモノだけでなく、人もだ。とくに女性から男性を奪うことに関しては、倫理や観念もぶっ飛んでしまうほどの狡猾さと貪欲さがある。


 その彼女が、たったいま宣言したのだ。


 ただ、その宣言相手がシノだったことに驚いた。わたしではなく、だ。


 いずれにせよ、これは宣言されたシノだけでなくわたしにたいする宣戦布告だ。


 わたしはそう理解した。



 わたしの名は、ハリエット・クレヴァリー。このオルセン王国の王女だ。国王である父に側妃はいない。父は、王妃である母を唯一愛し、信頼している。そのふたりには、わたしを含め四人の子どもがいる。わたしは末娘で、上の三人は男の子ばかりだ。


 父の溺愛っぷりは、母や兄たちやわたしを含めた周囲の者すべてをひかせるほどだ。もっとも、兄たちも父ほどでなくてもわたしを溺愛してくれているが。


 とはいえ、チヤホヤはされるけれどけっして甘やかされて育ったわけではない。そして、わたしもそれをよしとしない。


 わたしは、王女として両親や兄の役に立つ為に子どもの頃からすべてにおいて全力で挑んだ。それこそ、完璧にこなした。


 が、どうもレディらしいことだけは苦手で、というか女子力はなきに等しいらしい。刺繍とか裁縫とか、そういうことはほとんどできない。それよりも剣術や体術を磨き、政治経済学や帝王学を学ぶことの方が性にあった。しかも自由奔放すぎて、王宮内にとどまらず王都や各領地を飛びまわってしまう。


 そんなわたしの親友が、公爵令嬢のシノと護衛騎士のライリーなのだ。


 わたしたちは、子どもの頃からずっといっしょだ。シノのお母様であるアルバーン公爵夫人は、わたしの乳母。ライリーのお父様であるジャクソン公爵は、騎士団長。そんな関係であるわたしたちは、わたしたちが赤ん坊の頃からいっしょにいるわけだ。もちろん、シノの兄やライリーの兄姉やわたしの兄たちも揃って仲がいい。


 そして物心ついたとき、わたしに婚約者ができた。


 相手は、アンディ・バッキンガム大公子息。そのときには彼もまた幼かったけれど、未来のクズというわけだ。


 この婚約関係は、古いしきたりに従ったもの。王女は、大公家の子息と結婚する。そして、よりいっそう王族と大公家との絆を深めるわけだ。


 そんな時代遅れのしきたりでも、王家に生まれてきたからには従わねばならない。いいや。従うのが当然だ。だから、素直にその運命を受け入れた。


 ただし、婚約者になる運命を受け入れただけで、アンディを受け入れたわけではない。


 それとこれとはまた別の話だからだ。


 とはいえ、まったくの無視や放置や歩み寄らなかったわけではない。他のこと同様、それらの努力もまた惜しまなかった。が、どれだけ努力しようが、アンディとのことだけはうまくいかなかった。


 彼は、生まれながらのクズだ。すべての面において。学園にいた頃も、不平や不満ばかりで一切努力やガマンをしなかった。


 ある日、学園のカフェで聞いてしまったのだ。


 アンディが彼のいうところの「おれの崇拝者」たちに告げていることを。


 ちなみに、「おれの崇拝者」というのはアンディが使い走りさせている人たちのこと。つまり、取り巻きのことだ。アンディは、まがりなりにも大公子息。当然、取り入ろうと集まってくる人たちがいる。その人たちを、彼はこき使ったり虐めいじりいびっていた。もちろん、それはあくまでも大公子息だからであって、その立場がなければただのクズ。彼のことなどだれも見向きはしなかっただろう。


 それはともかく、彼はことあるごとに公言していた。


『王女は、おれにゾッコンだ。おれは、あんなワガママでエラソーな女は大嫌いだがな。家のために犠牲になるってわけだ。まっ、あいつと結婚させられるんだ。他に女でも作って遊ぶくらい、どうってことないだろう』


 そのように。


 それを聞いたシノと彼女の婚約者であるアンティ、それからライリーが怒り狂ったのはいうまでもない。ライリーなどは、駆けて行ってアンディを殴り飛ばしそうになった。それをなだめるのが大変だった。そしてシノの婚約者であるアンティは、アンディの双子の弟だ。床に土下座して謝罪しようとした彼を制止するのもまた大変だった。


 そのとき、わたしはポーカーフェイスを保った。怒り、悲しみ、情けなさ。そういったものをいっさいあらわさなかった。


 そのかわり、わたしは決意した。


 ぜったいにあんなやつの妻にはならない、と。あいつが自滅するのを待とうと。


 それ以降、わたしはあいつにたいして努力することをいっさいやめた。


 彼にたいして、すべてを諦めたのだ。


 そう割り切ると、身も心もスッキリした。


 同時に、心の奥底に封じ込めているある想いがムクムクと頭をもたげ始めた。とはいえ、事実上わたしはアンディの婚約者。婚約者がいるかぎりは、ぜったいにその想いは遂げることはできない。というか、遂げてはならない。


 複雑な気持ちのまま、日々をすごさねばならなかった。


「王女殿下。あいつ、失礼。大公子息は、また違う貴族令嬢をひっかけ、いえ、失礼。声をかけて遊んでいますよ」


 ライリーが腹立たしそうに言った。


 この日は、オルセン王国の北東部の領地へ視察に行っていた。道中、ライリーはアンディがああしたこうしたと報告してきた。


 視察は、たいていはシノに付き合ってもらう。護衛は、ライリーをはじめとした腕の立つ騎士三名。


 シノもわたしも子どもの頃から剣術と体術をやっている。その腕前は、見習い騎士が束になってかかってきてもチョチョイのチョイで負かしてしまうほどだ。


 王都にしろ各領地にしろ、たいていは馬で行く。乗馬服で荷物も最小限。とてもではないが、公爵令嬢やましてや王女には見えないいでたち。何者かが公爵令嬢や王女だと確信して襲ってくるようなことはないが、裕福な貴族令嬢だと襲ってくる者はまれにいる。


 そんな賊まがいの人たちでも、たいていはライリーたちが対処してくれる。シノとわたしとでチョチョイのチョイでやっつけたのは、たったの四度。そんなわけで、シノとわたしはそれぞれの家族の心配をよそにひんぱんに視察や慰問を行っている。それだけではない。慈善やボランティア活動で飛び回ってもいる。


 それはともかく、ライリーがアンディのことを報告してくるのはしょっちゅうのことだ。ということは、アンディが報告されるようなことをしょっちゅうしでかしているというわけだ。


「また?」


 シノが言った。


 それぞれが跨る馬は、街道を機嫌よくトロットで進んでいる。


「それで? つぎはだれなのかしら?」


 そう尋ねたのもシノだ。


「アリス・ブレナン。ブレナン伯爵の後妻の娘だ」


 ライリーは、よどみなく答えた。


「アリス・ブレナンですって? 彼女、ついこの前はレッドフォード男爵令嬢の婚約者を寝取ったばかりよ。気の毒に。男爵令嬢がその婚約者のパーティーに行って、そこで宣言をされたの。『あなたの婚約者を寝取ってやったわ』、とね」

「まぁ……」


 レッドフォード男爵令嬢とは、慈善活動で何度か顔をあわせたことがある。才気煥発という表現がピッタリで、性格もめちゃくちゃいいご令嬢だ。


 婚約者の屋敷でのパーティーでそんな宣言をされた彼女のことを思うと、胸が痛くなる。


「その前は、ダンベル侯爵令嬢が被害にあったわ。その前は、ランドルフ伯爵令嬢よ。彼女の場合は夫だけど。それから、その前は……」

「もういいわ、シノ。つまりブレナン伯爵令嬢は、だれかの婚約者や夫を寝取ることを趣味か生き甲斐にしているわけね」

「そんな感じですね。ですがまぁ、誘惑か脅しかわかりませんが、彼女にまんまとひっかかる男性にも非はあります。って、失礼しました」


 シノは、慌てて謝罪してきた。


 わたしの婚約者が、アリスにまんまとひっかかったことを思い出したのだ。


「いずれにせよ、彼女はひっかけるだけでなく公の場でそのことを宣言してご令嬢を貶め、優越感に浸るわけです」

「イヤな性格ね。そういうの、ぜったいに許せないわ」

「わたしもですよ」


 シノは、わたしよりも憤っている。


「その彼女、つぎは王女殿下にケンカを売ろうとしているのです。というか、王女殿下。あいつ、あ、いえ、大公子息をいつまで放置するのです?」


 ライリーの憤懣やるかたない声が、背中にあたった。


「そうですよ、王女殿下。もうすぐ王家主催のパーティーがあります。アリスはきっと、そのパーティーで王女殿下に宣言するつもりですよ。そうなれば、王女殿下だけでなく王家そのものが恥をかくことになります。そんなことはぜったいにあってはなりませんし、許せません」

「シノの言う通りです。あの悪女だけではありません。あいつ、いえ、大公子息もです」


 シノとライリーは、いっしょになってわたしの闘争心に火をつけてくれた。


 あとで知ったことだけれど、このときのやり取りは、ふたりが仕組んだことだったのだ。


 ひとえにわたしに覚悟をきめさせるために。わたしに決断させるために。


「王女殿下。アンティが帰って来ることはご存知ですよね?」


 シノが尋ねてきたので、無言でうなずいた。


 アンティは、シノの婚約者。双子の兄と違い、優秀で性格のいい最高の男性だ。


 外交官として他国に駐在していて、その彼が帰ってくるという。


 じつは、ふたりはとっくの昔に結婚しているはずだった。その上で、シノもいっしょに他国に行くはずだった。


 が、シノもアンティもわたしに気を遣い、結婚を先延ばしにしているわけだ。


 もちろん、シノもアンティもそんなことはわたしに悟らせない。ましてやひと言だってもらしはしない。しかし、赤ん坊の頃からいっしょにいるわたしには、彼女たちの考えていることや気持ちがよくわかるのだ。


「まぁ、そうだったの? ということは、いよいよ結婚ね。おめでとう」


 そのふたりが、いよいよ結婚してくれる。


 単純にうれしかった。心の底から祝福したい。


 が、それだけではなかったのだ。


 じつは、そのこともお膳立てを整えるためだったのだ。


 わたしは、そのことについても後日知ることになる。


 このときには、ふたりの結婚を知ってよろこび勇んだというお間抜けな反応しか出来なかった。いつものように言葉の裏の裏を読むということができなかった。


 やはり、アンディとアリスのことが気になっていたのかもしれない。


「あら? いつの間にか葡萄農園まで来ていたのね」


 そのとき、唐突にシノが言った。


「王女殿下。父から葡萄酒の発注を頼まれているのです。ちょっとよってきますから、ライリーと先に行っていてくださいな。すぐに追いつきます。さあ、あなたたちはわたしの護衛をお願いね。行くわよ」


 シノは、わたしが口を開くよりもはやく拍車をかけた。


「お待ちください、公爵令嬢」


 ライリーの三名の部下たちは、彼らの上役であるライリーを意味ありげに見てから慌ててシノを追いかけて行った。


「シノったら。わたしも一緒に行くのにね。でもまぁ、レンドル侯爵が待っているでしょうから、行きましょうか?」


 苦笑してしまった。レンドル侯爵領の葡萄酒は、この王国だけでなく周辺諸国でも有名なのだ。


 王宮でのパーティーや夜会にも使わせてもらっている。


「ライリー、行きましょうか」


 慌ただしく去って行くシノたちの背を見送り、ライリーに声をかけた。


「あの、王女殿下」


 すると、ライリーに呼ばれた。


 振り向くと、彼の馬がすぐ近くまで迫っていることに気がついた。その彼の野性的な美貌には、いつになく追いつめられたようなそれでいて困ったような表情が浮かんでいる。


 ドキリとした。理由はわからないけれど。さらには、動揺した。それがなににたいしてかはわからない。


 それらを彼に悟られないよう、ポーカーフェイスを保たねばならなかった。


「どうしたの、ライリー?」


 いつもの調子で尋ねてみた。


「王女殿下は、あいつのことをどう思われているのですか? すみません。あいつと呼んでしまって。しかし、あいつは王女殿下にはふさわしくありません。大公閣下は、それがわかっていながらいまだに婚約を辞退しようとはしないのです。わたしだけではなく、だれもがあいつは王女殿下にふさわしくないと思っています。王女殿下は、だれよりもしあわせになれる方です。いいえ。しあわせになるべき方なのです。あいつには、王女殿下をしあわせにできません。いえ。その資格はありません。あいつはずっと王女殿下を振りまわし、思い悩ませるクズなのですから」


 言葉数のそんなに多くない彼が、いまは肩で息をするほど発言している。


 そのことにまず驚いた。それから、その内容にも驚いた。


(そんなことを思っていたの? いいえ。そんなふうに考えていてくれたの?)


 驚きが、うれしさと切なさにかわった。


 胸のあたりが痛くてしょうがない。まるで心臓をわしづかみにされているかのような痛みだ。


 その痛みがなにを意味するかも、このときのわたしにはわからなかった。


「ライリー、ありがとう。だけど、わたしは王家に生まれた人間。わたしにできることといえば、王家とこの王国のためによりよい結婚をすること。それがたとえクズな相手だろうと見知らぬ相手だろうと……」


 そこまでしか言えなかった。これ以上言葉をつむぎだせば、感情が溢れ出てしまう。


 ライリーにこれ以上心配はかけられない。わたしのことで思い悩んでほしくない。


「だいいち、あなたにとやかく言われる筋合いはないでしょう? だって、あなたはわたしの護衛騎士であって、友人でもましてや恋人でもないのだから」


 わざと気丈に、それでいてつっけんどんに言い放った。


 それから、馬首を目的地に向けて拍車をかけた。


 目の前がボワボワとしている。それから、胸は痛みを増している。


 自分が泣いていることにさえ気がつかなかった。もちろん、その涙の意味も……。



 そして、王家主催の夜会の日がやって来た。


 とはいえ王太子である兄も含め、兄たちは揃って同盟国に表敬訪問に行っていて帰国途中のため欠席。両親とわたしと数名の王族だけが参加することになった。


 じつは、その同盟国に外交官として滞在しているのがシノの婚約者でありアンディの双子の弟であるアンティなのだ。彼は、兄たちと一緒に帰国の途についている。そのはずだ。


 ライリーとは、あのあと気まずすぎて会話をかわすどころか顔を見ることさえ出来ないでいる。彼も同様で、わたしの護衛を部下たちに任せている。そんなわたしたちのことを、シノが気がつかないわけはない。が、気遣い抜群で機転の利く彼女は、けっして踏み込んではこない。それでも、さりげなく寄り添ってくれるところは、ありがたすぎて泣けてくる。


 この夜会でも同様で、パートナーがいない者どうし、ふたりで腕を組んで大広間にやって来た。


 というか、シノはともかく、わたしのパートナーである婚約者は、いつもその役目を果たしてこなかった。


 今回も期待していなかったけれど、ある意味期待通り現れなかった。


 わたしたちは、いつもどおりご令嬢たちと女子トークに花を咲かせていた。


 そこに現れたのが、アリス・ブレナン伯爵令嬢だ。 


「シノ・アルバーン。あなたの婚約者をいただいたわ」


 身構えたわたしだったけれど、想定外のことが起った。それは、わたしだけではない。シノにとっても想定外だっただろう。


 まさかの人違い。というか、婚約者違い。


 しかも、アリスはわたしのことを知らないようだ。


 とはいえ、貴族や政財界のVIPは知っているけれど王国民のほとんどがわたしの顔を知らない。いつもシノに目立ってもらっているからだ。王女だと知られたくない。知られれば、なにかと不便だし面倒だからだ。


 市井で生まれ育ち、社交界に仲間入りしてまだ日の浅いアリスがわたしの顔を知らなくても当然だ。


 しかも彼女は、わたしがシノの取り巻きだと思っている。だから、今後のために彼女にくっついていろと誘ってもきた。


(だれが婚約者を寝取ったあなたに媚びを売るものですか)


 王女スマイルを浮かべつつ、心の中で中指を立てた。


 そんなとき、もうひとりの主役が現れた。


 アンディ・バッキンガム。


 わたしの婚約者だ。


 笑えたのは、アンディがアリスのことを覚えていなかったことだ。遊び人の彼のことだ。アリスのことも「寝てくれる都合のいい女」程度だったのだろう。しかもアンディは、酔うとすぐに記憶をなくす。覚えているわけはない。運よく覚えていても、一夜かぎりの関係、もしくは二、三日寝台の上で遊んで「はい、さようなら」だ。


 もっとも、アンディがほんとうに覚えていないのか、それとも公の場なのでしらばっくれているのかはわからなかった。


 いずれにせよ、そこからが怒濤の「ざまぁ劇」だった。


 両親である国王と王妃が大広間に現れ、アンディとアリスとアリスの義父と実母を断罪した。シノの婚約者のアンティも登場し、アンディは家族から見捨てられた。さらには、国外追放された。


 そして、わたしもクズな婚約者に言ってやった。


「レディ遊びだけでも許せないのに、大公家子息の立場を笠に着てやりたい放題。わたしのことが気に入らないとはいえ、度が過ぎたのよ」


そのように。それから、これもだ。


「もう遅すぎるのよ、クズ野郎」


 大広間内に起こった拍手をききながら、不完全燃焼の感をぬぐえなかった。


 もっと言ってやりたかったけれど、そこはやはり王女という立場がある。


 が、スッキリしたことはスッキリした。


 さらには、爽快だった。


 それよりも、シノとアンティのことだ。


 ふたりには、一日でもはやく結婚してもらいたい。だから彼女たちを急かすと、アンティが「男」であることをみせてくれた。つまり、これだけおおくの人々が見ている前でシノに口づけしたのだ。


 しあわせそうなふたりを見ていると、わたしまでしあわせな気分になった。


 が、心のどこかでは、寂しくて虚しい気もしていた。


 夜会後、シノとアンティと話をした。


 アンティと兄たちは、アンディを懲らしめようと急いで帰国したらしい。


 そして、あらゆるお膳立てをしてくれたのだ。


「王女殿下。できれば、幼馴染四人で同時にしあわせになりませんか?」


 別れ際、シノが言った。その意味がわからずに黙っていると、アンティが部屋の隅にたたずむライリーの腕をひっぱり連れてきた。


「ライリー。つぎは、きみたちの番だ。きみは、ジャクソン公爵家次男だ。王女殿下と釣り合わないなどということはけっしてない。きみは、それを言い訳にしているだけだ。王女殿下は、アンディと婚約破棄した。このチャンスを逃せば、きみは一生涯後悔することになる。いや。男として、騎士として失格だ」


 アンティは、ライリーをわたしの方へとおしやった。


 文字通り、背中をおしたのだ。


「では、王女殿下。わたしたち、ひさしぶりにパジャマパーティーをするんです。もう行きますね。おやすみなさい」


 シノの全力の笑顔。彼女が扉へ向かうと、アンティが慌てて追いかけた。


「って、パジャマパーティー? 子どもの頃ならいざ知らず、いまそれをやったら、わたしはきみの父上と兄上たちに八つ裂きにされるよ。あ、おふたりとも、おやすみなさい。いい夜を!」


 アンティの悪戯っぽい笑み。


 ふたりは、ワイワイ騒ぎながら去って行った。


「あの、王女殿下。アンティの言う通りだと思います。わたしは、いままであなたに婚約者がいるからと、すべてを諦めてきました。いいえ。それを言い訳に逃げていました」

「バカね、ライリー」


 苦笑してしまった。


 バカなのは、ライリーだけではない。わたしもだ。


「ええ。わかっています」


 彼も苦笑した。


「じつはバッキンガム大公やアルバーン公爵が口添えしてくれたのです。もちろん、わたしの父であるジャクソン公爵もです。それから、王妃殿下も」

「あー、なるほど。みんな、グルなのね」


 さらに苦笑してしまった。


 わたしの幼馴染たちは、わたしをしあわせにするめに手段を選ばなかったのだ。


 ライリーとしあわせになる。


 そのために、国王であるわたしの父を説得してくれたのだ。


「これからは、わたしがあなたを護ります。もちろん、しあわせにします」

「だったら、いままでと同じね。あなたが側にいてくれたから、わたしは護られていたししあわせだった。だけど、いまからはもっともっと護ってもらい、しあわせになる。あなたといっしょにね」


 そう言い終えた瞬間、ライリーに口づけされていた。


 それは、シノとアンティよりずっと濃厚で長かった。



                                (了)


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