7.ふたりの関係
「あなた……」
落ち着いた青いドレスに身を包んだその女性は、ペールの姿を見るなり目を瞠り、驚きの為か口元を手で覆った。
明るい金の髪はペールの髪の色ととてもよく似ている。
「久しぶりにお目にかかりますヒルテリア様」
いつも泰然としているペールの声が、少し震えていることにリヒーナは気づく。
「あなたたち、もう下がっていいわ」
ヒルテリアが言葉を失っていたのはわずかなあいだで、すぐに使用人たちに下がるよう指示する。
豪奢な作りの館。
けれど一歩入ってみれば、中はどこかがらんとした印象が強かった。
お金持ちの館や宮殿に多く見られる装飾品が少ないからだと思う。
「突然の訪問をお許しいただきましたこと、感謝します」
「そんな話し方はやめて、ペール。よく無事で……。いいえ、あなた、怪我をしているの? すぐ医者に……」
「いえ、手当ては済んでいるのです。深い傷でもありません」
「もっと近くでよく顔を見せて。四年、いえ五年ぶりになるかしら。大きくなったわね、ペール。バロウのバンジャマン」
ヒルテリアの青い瞳から涙がこぼれ落ちる。
「本当は、今更のこのこと姿を現すつもりはなかったのです。俺は一番大事な時になにもできなかった。なにもしなかった。なにも知らずふらふらと呑気にあちこちをうろついていた。そんな俺には、今更、姉上にあわせる顔などない。ずっと、そう思っていました」
ゆっくりと首を横に振るペール。
ヒルテリアのことを姉上、と彼は呼んだ。
金の髪も青い瞳もめずらしい色ではない。
けれどふたり一緒にいるところを見れば、血のつながりがあることは一目瞭然。
バンジャマンには末っ子、という意味がある。
「お姉さん、だったんだね」
「なんか、複雑な事情がありそうだけどな」
リヒーナとルッチェはふたりの様子を見て、ペールがここに逃げ込んだことに納得する。
「いいえ。よく来てくれたわ。わたしにできることがあれば、遠慮なくいいなさい」
「恥を忍んでお願いします。どうか、俺たちがこの街の外へ逃げられるよう、手を貸してもらえないでしょうか」
そういって、ペールは頭を下げた。
「お願いします!」
「頼みます!」
リヒーナとルッチェもペールに倣ってヒルテリアに頼み込む。
「わかったわ。朝までに手配しましょう」
ヒルテリアは間を置かず答える。
「追っ手はマジェームです。姉上にもご迷惑をおかけするかもしれません。それでも……」
「それでも、わたし以外に頼れる者がなくてここに来たのでしょう? それならば、わたしはあなたの――今となってはたったひとりとなってしまった家族の為にできることはなんでもするわ。三年前のあの日。バロウ宮最後の日、なにもできなかったのはわたしも同じなのだから」
ヒルテリアがベルを鳴らし、使用人が現れる。
指示を受けた使用人が部屋を出てゆくと、室内にはまた四人だけが残った。




