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5.追っ手

「この街って、夜間興行はダメなんだっけ?」

「往来じゃなけりゃいいって話だったはずだけどな」


「もしかしてペールがここにいるってバレちゃったのかな?」

「なんにせよ、俺ら芸人なんて捕まっちまえばそれでお終いだ。逃げるしかねえ」


 旅芸人は街や国の管理下に置かれていない代わりに、保護もしてもらえない。

 言い分とか釈明とか、そういうのも聞いてもらえない。


 無実だとしても、捕まってしまった時点で罪が確定してしまう。


 だから絶対に捕まれない。 


「だね」


 二階に駆け上がり、ルッチェが部屋の扉を蹴破るように開けると、そこには身を起こしたペールの姿があった。


「あ、起きてた?」

「あれだけ下がやかましかったら、いやでも目が覚めるさ。まあ、起こしてくれたことには感謝しよう」


「ほんとに感謝してる?」

「してるとも」


「じゃあ、案内してくれる?」

「は?」


「逃げ込めそうな場所。どこか心当たりあるんでしょう? わたしたち、この街には不慣れで、このままじゃあ逃げてもきっと捕まっちゃう」


 街の細い裏路地まで知り尽くしているペールだ。

 心当たりのひとつふたつきっとあるに違いない。


「こっちはてめえのせいで巻き添え食ったんだ。つべこべいってねえで責任とれこの野郎。もしリヒーナが捕まるようなことになったらどうしてくれる!」


 ルッチェがペールの胸ぐらをつかむ。


 まだ、警吏が来たのが本当にペールのせいかどうかは判明してないんだけど。


「俺はどちらかといえばその子に無理やり連れて来られたんであって……」


 ペールはルッチェの脅しに動じることなく言葉を紡いでいたけれど、階段を駆け上がる足音が近づいてきたところで諦めたように大きく息を吐いた。


「まあ……。手当てと休ませてもらった分の礼はしとかないと寝覚めが悪いか」


 ペールはぽりぽりと頭を掻きながらベッドから下りると、傍にたたんで置いてあった濃緑のマントを纏う。


「やった! ありがとう、ペール」

「仕方なく、だからな。それよりいつまでそれ続けるつもりなんだ?」


 ペールにいわれて、リヒーナはまだ自分がリンゴを投げ続けていたことに気づく。

 完全に無意識だった。


「あ。すっかり忘れてた。普段走ったり歩いたりする時も練習してるから」


 リヒーナは投げるのをやめて、落ちてきたリンゴをひょいひょいと片手にひとつずつ受け止めた。


「リンゴ投げはともかく、ヴィエルのほうはもう少し練習したほうがいいだろうな」

「うわぁ。ばっちり聞こえてた? ヴィエルはちょっと苦手なんだよね……」


「細かいところが雑なんだよ」

「繊細さが足りないってよくいわれたなぁ……。って、ところでペール、体調はどうなの?」


「問題ないな」 

「こっから逃げられる?」


 リヒーナは窓の外の様子を窺ってからペールを振り返った。


「無理とはいわせねえぞ。ここしか逃げ道はねえんだからな」


 ペールの返事を待たずにルッチェが脅しをかける。


「そのくらいはわかって――」

「見つけたぞオンブル!」       


 ペールの言葉を遮るように、警吏がふたり部屋へ踏み込んできた。


「オンブル?」

「まあ、いわゆる俺の呼び名だな」


 首を傾げるリヒーナの問いに、ペールがあっさりと答える。


「やっぱりてめえのせいじゃねえか!」

「どうやらそうみたいだ。仕方ない。行くぞ」


 ペールは素直に事実を認めたかと思うと、リヒーナの脇をすり抜けて窓枠を蹴った。


「あっ!」


 マントをはためかせた長身の影が隣の家のテラスに飛び移ったかと思うと、そこに積んであった荷を足場にひょいと屋根の上へ移動する。


「あいつなかなかやるな」


 ルッチェがひゅぅ、と口笛を吹く。


「ルッチェのほうが心配かもね」

「うるせえな」


「待てっ! おまえら動くなっ!」


 警吏がリヒーナたちへと迫る。


「ごめんなさい、それは無理ぃ」


 慌ててペールのあとを追おうとした時、リヒーナは両手にリンゴをふたつ持ったままだったことに気づく。


「警吏さん、これ、どうぞっ!」  


 ぽいぽーい、とリンゴを警吏に向かって投げ、警吏が慌てている隙に、リヒーナとルッチェも宿屋から逃げ出したのだった。

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