12.にぎやかなふたり
リヒーナ怪我はないか大丈夫かてめえ気安くリヒーナに触れてんじゃねえぞこのやろう。
市壁から充分に離れたところで荷台下の上げ底部分から外へ出るなり、ルッチェはリヒーナを自分の腕の中に確保し、ペールにつっかかってゆく。
「別に触れたくて触れたわけじゃない。あれ以上音を立てられて見つかりでもしたら、俺たちが捕まるだけじゃない。姉上にも迷惑がかかる。それを防ぐために仕方なくやっただけだ」
ルッチェの威嚇をかわして、ペールがさりげなく失礼なことをいう。
けれどなんでだろう。
身体の震えはおさまったのに、胸のどきどきがなかなか止まらないことが気になって、文句のひとつもいえない。
荷台の上に座り直し、再びがたがたと揺れる馬車に身を任せながら、ペールとルッチェのやりとりを眺める。
「ふん。こんなことになったのもてめえが追われてんのが原因じゃねえか。そもそも、なんで雇い主に追われてんだよ。なにヘマしたんだ?」
「別に。ただちょっと面白そうなネタがあったから利用できないかと思って嗅ぎまわってたら、密偵じゃないかって疑われただけだ」
「そんなどうでもいいことのせいで宮廷楽師の職を棒に振ったのかよ?」
「時に情報は命ほどの価値をもつことだってある」
「でもそれで密偵の疑いをかけられて追われて死にかけてんじゃ、意味ねえじゃねえか」
「まあそうだな。次はもっと上手くやるようにしよう」
そういって会話を終わらせたペールがルッチェから目を逸らした拍子に、リヒーナの視線とぶつかる。
ばくん、と心臓が一際大きく跳ねる。
ずっと見ていたことに気づかれた?
「なんだ?」
「え、あの……。怪我、大丈夫かなって思って」
咄嗟に、ペールの頭に巻かれたままの布を指さしながら誤魔化す。
「ああ。もう血は止まってるし、目立つからはずしたほうがいいかもな」
そういうと、ペールはするすると布を取ってしまった。荷台の外に手を伸ばし、くっついていた血止めの薬草をぱらぱらと捨てる。
額に落ちる前髪のあいだから見え隠れする傷痕はまだ痛々しいけれど、そこに滲む血はもう見られない。
「目立つっていうんなら、てめえのそのでかさと金髪も目立つけどな」
「なんだ、俺より身長が低いのが不満なのか?」
「誰がそんなこといったよ?」
「ああ、気にしていたんなら悪かった。でもおまえだって平均よりは高いだろ。あまり気に病むなよ」
「だから気にしてねえっつってんだろ!」
なにかとつっかかってゆくルッチェと、それを受け流しつつも適当に相手をしているペールは、なかなか相性がよさそうに見える。
なにより賑やかなのは嬉しい。
「髪はフードでも被っとけばいいだろ」
「なんでそこは適当なんだよ、てめえは。なんだったら染めるの手伝ってやるぜ?」
「そんなことしたって、見つかる時は見つかるし、見つからない時は見つからないものだろ」
「ったくそんなんだからコソコソ嗅ぎまわってんのバレたんじゃねえの?」
「なるほど、あれは見つかる時だったんだな。それじゃあ仕方ない」
「どこが仕方ねえんだよ? もうちょっと気ぃ配れよ」
やれやれ、という風にルッチェがいうのを聞きながら、リヒーナは「あ」と短く声を上げた。
「どうした?」
「念のため、わたしもこれはずしといたほうがいいよね?」
髪飾りをつけたままの頭を指さしながらルッチェに訊くと「ああ、そのほうがいいかもな」という答えが返ってくる。
鈴だけははずしたけれど、髪留めはつけたままだった。
リヒーナたちがペールと一緒に逃げたことは伝わっているはずだ。マジェームという人がどのくらい執念深いかは知らないけれど、小細工でもしないよりはしておいたほうがいいかもしれない。
パチン、と留め具をはずすと、髪飾りがふぁさりと落ちる。
一気に軽くなった頭を、リヒーナは軽く左右に振った。
露になった、短く切りそろえた髪が、さらさらと揺れた。




