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森から離れて、平原を戻る。

異世界のこともキャンプのことも無知な私と違って、グレイさんはそこがいいと判断したのか、大きな岩のそばで足を止めた。



「今夜はここで野営する。経験は?」


「ないです」



できないことはできないとすぐに言う方がグレイさんは対応してくれるだろう。

騎士の格好をちゃんと見ていなかったけど、マントに隠れたところに小さなポーチがあり、グレイさんはそこからテントを取り出した。



「すごい!魔法のポーチ?」



火や水の魔法は王宮で見かけたけど、こんな便利道具を初めて見て私はテンションが上がった。

グレイさんは魔法でテントを張ると、次に鍋やら色々取り出した。



「グレイさんは料理ができるの?」


「魔物討伐で遠征に行くこともあるからな」



鍋に入れる水も、材料を切るのも、グレイさんは手際良く行うから私はそれを見てるだけだった。



「聖女様は料理出来んのか?」


「野菜を切ったり焼いたりは出来るけど、カレールーがない世界でカレーを作ろうって思うと出来ないかも……」


「カレールー?なんだそりゃ」


「カレーって料理があるんだけど、そのカレールーを入れて煮込むだけで美味しいカレーが作れるの」


「へぇ」



聞いたくせに興味なさげなグレイさんにちょっとイラッとしたけど、グレイさんは野菜と肉をお湯の沸いた鍋に入れると蓋をした。



「出来上がるまであんたに逃げ方を教える」


「うん、よろしくお願いします」


「杖は持ってろ。同じ状況でやらないと逃げる練習にならないだろ」



杖を置こうとして私を制したグレイさんはテントから離れた位置に向かう。



「まずあんたには俺から離れるなというのが絶対命令だ。だが俺が魔物を相手していたり、すぐ対応できない条件に限り逃げ方を教える」



そうしてグレイさんは指を三つ立てた。



「一つ目。魔物に気付かれてない場合。その時は魔物から背を向けるな。動向を都度確認しながらゆっくり離れろ」


「二つ目。魔物に気付かれた場合。走れ。振り向くな。あんたが生き延びてる間に俺が絶対追いつく。だから俺を信じて全力で走れ」



グレイさんの指が一本だけ残る。

最後の一つはどんな状況だろうかと待っていると、グレイさんは手を下ろした。



「三つ目はまだいいか……この辺りは低級の魔物しかいないしな」


「三つ目って、ランクが上の魔物に遭遇した場合の逃げ方?」


「あぁ。魔物にはさっきのような低級、低級の群れのボスのような中級がいる」


「上級は?」


「俺は見たことがない。だが地方の部隊が遭遇した。見た目は人間とほぼ変わらない。人間と同じ知能を持ち、会話もできる。だが、魔物は魔物。……その部隊は生存者ゼロだった」



生存者ゼロ。みんな魔物に殺されたと言う。

さっきみたいな動物に近い魔物ではなく、人と同じように会話する魔物なんているのだろうか。

この旅は無事に終わるのだろうか。

私の不安を察知したのか、グレイさんは私の頭にポンと手を置いた。



「上級の魔物なんざ、その話にしか出てきてない。確認できたのは壊滅した部隊と荒れた現場だけだ。それに瘴気を消していけば魔物の力は衰える。あんたが頑張れば魔物なんてどうにでもなる」


「うん……わかった。私、がんばる」


「あんたの家族を悲しませることはしない。だからあんたも全力で逃げろよ」



そうして走り方や逃げ方の練習が始まった。

体育くらいでしか運動しなかった私にはスパルタ気味に思えたけど、グレイさんの厳しさは私を守るためだとわかったから、頑張って逃げるんだという気持ちで走り続けた。

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