第7承 第4和【八岐大蛇 終の首 主首 血闘】
――残された者は、何度でも死を生き直す
戦場は、まだ燃えていた。
だが――
美桜はいなかった。
そこにあったのは、炎の名残と、
守られたまま膝を抱える未希の小さな背中だけ。
海里は、動けずにいた。
剣を握ったまま、
英雄として立つべきその身体は、
まるで重力に縫い止められたかのように固まっていた。
「……嘘だろ」
声が、震えた。
何度も死線を越えてきた。
仲間も、敵も、見送ってきた。
それでも――
母が、娘を守るために消える光景だけは、
どんな神話にも書いていなかった。
蒼真は、ゆっくりと地に膝をついた。
拳を地面に叩きつけることもできず、
叫ぶこともできず、
ただ、唇を噛みしめていた。
「……姉さん」
その呼び名は、もう届かない。
糸は、未希を抱きしめたまま、
嗚咽を殺していた。
霊能者として、
死を“感じ取れる”彼女だからこそ、分かってしまった。
――美桜は、戻らない。
――魂ごと、使い切った。
「……美桜さん……」
その名を呼ぶたび、
世界が一段、暗くなる。
再び突き刺さる「死」
その時だった。
主首の白が、再び脈動する。
まるで嘲笑うかのように、
さきほどまで美桜が立っていた場所を――
“無”へと塗り替えようとした。
「やめろォォォ!!」
海里が叫ぶ。
だが、間に合わない。
その瞬間、
一つの影が、前に出た。
蒼真だった。
「……ここは、俺が行く」
「蒼真!!」
振り返った蒼真の顔は、不思議なほど穏やかだった。
「海里。糸」
二人の名を、確かめるように呼ぶ。
「俺は――大国主命の神承者
“縁を信じる者”として逝く」
蒼真は、懐から小さな布袋を取り出した。
色あせた、出雲大社の縁結びのお守り。
「これは俺の宝物。いつか自分より大事な人が現われたら渡そうと
“縁”って言葉が、好きだったから」蒼真の血は身体から噴き出していた。
蒼真は、海里の手を掴み、
そのお守りを、そっと握らせた。
「大国主命は、縁の神だ」
「だから――」
一瞬、照れたように、笑う。
「……いつか、また会えるだろ」
主首の白が、蒼真を侵食し始める。
蒼真は、最後に海里を強く抱きしめた。
「行け」
「生きろ」
「――俺の分まで」
その言葉を残し、
蒼真の身体は、光となって崩れた。
縁結びのお守りだけが、
海里の手の中に残った。
姉の祈り、盟主の命
通信が、割り込む。
【YAMATO】本部。
画面に映るのは、
鷹宮澪――日本国総理大臣。
そして、蒼真の姉。
彼女は、何も言わず、
自分の胸元から、同じ縁結びのお守りを取り出した。
弟と、同じもの。
強く、握りしめる。
「……蒼真」
一瞬だけ、
姉としての顔を見せてから――
彼女は、国家の長として顔を上げた。
「聞け」
「人類、最期の希望は――
君たち二人だ」
「日出国の盟主として、
スサノオノミコト・海里」
「卑弥呼として、糸」
「最期の出陣を許す」
「三種の神器の力、
すべてを解き放て」
声が、震える。
それでも、言い切る。
「私は、信じている」
「八岐大蛇を討ち、
信じ、守ってくれた仲間のために」
「――生きて、戻ってこい」
通信が切れる直前、
鷹宮は、心の中で祈った。
〈神様……
二人を……
人類を……
お守りください〉
最期の出陣
海里と糸は、
蒼真の消えた場所を見つめたまま、立ち尽くしていた。
だが――
泣きながら、立ち上がる。
「……行こう、糸」
「うん……」
海里の身体が、宙に浮く。
草薙剣が、抜かれる。
八尺瓊勾玉に――
蒼真の縁結びのお守りを、固く結びつける。
「私は、一人じゃない」
地上では、
ジェイデンの数珠を身に着けた糸が、
八咫鏡を、まっすぐに掲げていた。
その鏡に映るのは――
白き終焉。
八岐大蛇が、雄たけびを上げる。
そして、
糸を狙って、襲いかかった。
物語は、
ここから――
本当の最終決戦へと突入する。




