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神様誕生 ―神承者たちの覚醒―  作者: konatsu


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第7承 第3和【八岐大蛇 終の首 主首 転闘】

白き主首は、もはや「敵」ではなかった。

それは剣で斬れる存在ではなく、

神技で祓える概念でもない。


終焉。


近づくだけで、言葉が崩れ、

思考が剥がれ落ち、

「生きてきた理由」さえ薄れていく。


世界の理そのものが、

静かに、冷酷に、

すべてを呑み込もうとしていた。


その圧倒的な白の前で――

一人の女が、前へ出た。


■ 美桜 ――母は、炎よりも強い


「……行くのか」


蒼真の声は、低く、かすれていた。

数えきれぬ死線を越えてきた彼でさえ、

その背中に、言葉を失いかけていた。


美桜は、振り返らない。


振り返ってしまえば、

戻れなくなることを、

彼女自身が一番よく知っていたからだ。


「母親だから」


それだけだった。

誓いも、覚悟も、英雄の宣言もない。


ただ、母だった。


炎が、彼女の足元から立ち上がる。


だがそれは、

敵を焼き尽くすための業火ではない。


それは――

抱きしめるための炎だった。


美桜の脳裏に、戦場はなかった。


浮かんだのは、

世界で一番小さくて、

世界で一番重たい存在。


――未希。


初めてその名を呼んだ日。

産声よりも先に、

胸の奥で何かが壊れ、

同時に何かが生まれた夜。


「この子を、守る」


誰に誓ったわけでもない。

神に願ったわけでもない。


ただ、自然にそう思った。


熱を出して眠れなかった夜。

眠れない自分を気遣って、

小さな手で背中をさすってくれた。


「ママ、だいじょうぶだよ」


その一言で、

どれほど救われたか。


そして――悠真。


初めて出会った日の、

不器用な笑顔。


命を懸ける理由を、

何も語らずに背負う男。


「俺は、世界を守る」


そう言って、

家族を守るために

“死んだことにされた”人。


(……ごめんね、悠真)


(あなたを、責めた)


(一人で未希を育てるのが、

 つらい夜もあった)


(でも……)


(あなたは、

 最後まで家族だった)


胸の奥が、熱くなる。


(私は今、

 あなたと同じ場所に立ってる)


主首が、動いた。


白の理が、

未希のいる方角へ、

“可能性そのもの”を喰らうように伸びる。


糸が叫ぶ。


「美桜さん!!」


海里が一歩、踏み出す。


だが――

間に合わない。


その瞬間。


美桜は、自ら炎の中へ身を投じた。


未希と主首の間に、

自分の命を差し込むように。


「――やめて!!!」


それは、神への挑戦ではなかった。


母の本能だった。


主首の理が、美桜を貫く。


存在が、剥がれていく。

時間が、逆流する。


それでも、美桜は立ち続けた。


「これは……

 あなたを殺すための火じゃない……!!」


「これは……

 命を、つなぐ火よ!!!」


炎が、爆ぜる。


それは世界を焼かない。

都市も、空も、未来も壊さない。


ただ――

娘へ向かう“死”だけを焼いた。


白が、軋む。


主首が、初めて“止まった”。


その代償として――

美桜の身体は、

ゆっくりと、確実に崩れ始める。


本部。


【YAMATO】指令室で、

鷹宮澪総理は、モニターを見つめたまま、

言葉を失っていた。


彼女もまた、

「子を守る立場」にある人間だった。


拳を、机に置く。


「……母とは」


震える声で、彼女は呟く。


「……世界を、敵に回せる存在だ」


皇后陛下は、静かに目を閉じる。


そして、こう言った。


「母は、国よりも先に、

 子の命を王とする」


その言葉に、

指令室の誰もが、涙をこぼした。


戦場。


美桜は、膝をついた。


もう、立てない。


それでも、

視線は未希から離れなかった。


最後に見えたのは、

泣き叫びながら、

必死に手を伸ばす娘。


「ママーーー!!!」


美桜は、笑った。


一番、優しい顔で。


「……未希」


「あなたはね……」


声が、風に溶ける。


「生きていいの」


「幸せになっていいの」


「……それを、忘れないで」


そして――

視線を、海里へ向けた。


「……お願い」


「この世界を……」


「この子たちの未来を……」


言葉は、そこで途切れた。


最後の炎が、

未希を包む“守り”として固定される。


それを確認して――

美桜は、ようやく目を閉じた。


「……悠真……」


「……ありがとう」


「……愛してる」


その一言を残し、

彼女は完全に消失した。


炎は、涙のように、

静かに、静かに、消えていった。


誰も、すぐには動けなかった。


海里は、唇を噛みしめ、

血が滲むほど拳を握っていた。


(……必ず……)


(必ず、終わらせる)


蒼真は、目を伏せ、

歯を食いしばって震えていた。


糸は、声にならない嗚咽を漏らす。


そして――

未希の泣き声だけが、

戦場に残った。


母は、世界を救ったのではない。


一人の娘を救った。

自分の全てをかけて。


それだけで――

十分すぎるほどだった。

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