第6承 第14和【八岐大蛇 陸腫 土の首 蒼真 後闘】
地中世界は、もはや“大地”ではなかった。
それは生きた神の内臓――
蠢き、脈打ち、蒼真の存在を拒絶する異界。
巨大なツチノコは、
その身をうねらせ、地層を引き裂きながら迫る。
「来い……!」
蒼真は叫び、
剣を構え、弓を放ち、神技を連続で解放した。
――裂地斬
――震脚・破
――八方連矢
土と岩が砕け、
神獣の鱗が剥がれ落ちる。
だが――
《――無意味だ》
ツチノコは、嗤った。
次の瞬間、
大地が“口”となった。
蒼真の足元が崩れ、
巨大な顎が閉じる。
「――ッ!!」
視界が反転し、
蒼真はそのまま――呑み込まれた。
魔胃。そこは、終わりの内側だった。
暗黒。
腐食。
硫酸の雨。
肉体が焼ける感覚。
蒼真は咄嗟に、
最後の神道結界を展開する。
「――耐えろ……!」
結界が、溶解を防ぐ。
だが――
気づいた。
剣が、光らない。
神技が、発動しない。
ここは――
神すら拒絶する“魔胃”。
「……くそ……」
結界は、時間とともに薄れていく。
(……終わりか……)
虚脱が、心を侵す。
そのとき。
――外から、衝撃。
ツチノコの身体が、激しく揺れた。
「……誰かが……戦っている……?」
外から、声が届いた。
震えている。
だが、確かだ。
「――蒼真……聞こえる?」
「……私、あなたが見えるの……」
蒼真は、目を見開く。
「……海里……!」
「一緒に闘って……!」
その声に、
心が――戻る。
魔胃の闇に、
一筋の光が差した。
老人のようで、
神のような影。
「――わしは、大国主命」
蒼真は、息を呑む。蒼真の神承神である大国主命。
「そなたと、今そなたのために闘っておる女人――
その二人は、縁で結ばれておる」
「この戦いに勝てば、
世界は存続し、
そなたらは、未来を得る」
「だから――
あきらめてはならぬ」
「縁を、信じなさい」
光が、魔胃の奥を照らす。
そこにあった。
――紫の玉。
海里の声が、再び。
「蒼真……!
あなたのお姉さんから連絡が来た!」
「ツチノコの弱点は……
あなたのいる魔胃!」
「……紫の玉が核……!」
蒼真は、息を整える。
距離を測る。
(……届くか……?)
飛べば――
失敗すれば、結界の外。
即、消失。
剣が効く保証もない。
だが。
迷っている時間は、なかった。
再び、大国主命の声。
「――縁を、信じなさい」
蒼真は、外へ向かって叫ぶ。
「海里!!」
「私が見えるなら――
剣も見えるはずだ!!」
「合図をする!!
私の剣に合わせて――
外からも、そこを貫いてくれ!!」
返答は、ない。
戦闘の轟音だけ。
(……聞こえてないかもしれない……)
結界が、ひび割れる。
蒼真は、静かに息を吐いた。
「……それでも」
「……信じる」
蒼真は――跳んだ。
全身全霊。
剣を、ただ前へ。
同時に――
外から、声。
「――蒼真!!」
海里の剣が、地表から突き刺さる。
内と外。
心と心。
二つの刃が、
完全に重なった。
――紫の玉が、砕ける。
ツチノコが、断末魔を上げる。
大地が、崩れる。
魔胃が、消える。
蒼真は、光に包まれ、地上へと放り出された。
地面に転がり、
荒い息を吐く。
空を見上げると――
海里が、そこにいた。
目が、合う。
言葉は、いらなかった。
土の首は、完全に消滅。
大地は、静まり返った。
【YAMATO】本部。
富嶽零式が告げる。
「――土の首、討伐確認」
鷹宮澪は、静かに目を閉じた。
「……よく、生きた……」
戦いは、まだ終わらない。
だがこの瞬間――
虎永が守った時間は、
蒼真と海里によって、確かに未来へ繋がれた。
縁は、切れなかった。
それは、
神よりも強い力だった。




