第6承 第12和【八岐大蛇 伍腫 風の首 虎永 後闘】
嵐が、世界を引き裂いた。
天と地の境界が消え、
上下は反転し、
音すら暴風に飲み込まれる。
風の首が放った“終焉の槍”は、
大気そのものを圧縮し、
触れたものを存在ごと削り取る――
神域の一撃だった。
虎永は、前に出た。
十歳の体が、
嵐の中心に踏み込む。
「――来い」
声は、小さい。
だが、剣は震えていない。
父・定常の教え。
母・静の祈り。
仲間たちの背中。
すべてを背負い、
少年は、剣を振り抜いた。
「――《神技・無想一閃》!!」
時間が、止まった。
風が、裂けた。
虎永の剣は、
一切の迷いを捨て、
ただ“正しい線”を描いた。
嵐の槍が、二つに割れる。
だが――
次の瞬間。
見えない刃が、
虎永の身体を、深く貫いた。
「……っ!」
致命傷。
誰の目にも、それは明らかだった。
信長が叫ぶ。
「虎永!! 下がれ!!」
仲間たちが駆け寄る。
だが少年は、
剣を離さなかった。
血が、宙に舞う。
それでも――
虎永は、笑った。
「……まだ……終わって……ません……」
風の首が、怒号を上げる。
「愚か者が!!
その身で、何を守る!!」
虎永は、息を整え、
最後の一歩を踏み出す。
「……武士は……」
「……逃げません」
剣が、光を帯びる。
それは風ではない。
雷の前兆。
信長が、理解する。
「……そうか……」
「……お前、もう……」
虎永は、振り返らなかった。
「――《神承・建御雷》」
少年の身体が、
光に包まれる。
雷鳴が、天地を貫く。
剣は、雷そのものとなり――
虎永は、嵐を断ち切った。
風の首は、
悲鳴すら上げられず、
雷光の中で、消滅した。
勝利。
だが――
虎永の身体は、
静かに、崩れ落ちた。
信長が抱きとめる。
「……よくやった……」
虎永は、仲間たちを見た。
「……皆さん……」
「……ありがとうございました……」
最後に、空を見る。
「……父上……母上……」
そして――
少年の身体は、光となり、消失した。
泣き叫ぶ仲間たち。
誰も、言葉を持たなかった。
LIVE中継。
白装束の道場。
父・定常は、
静かに刃を取った。
母・静も、小刀を握る。
武士の家として、
サムライの親として――
息子の最期に、殉じる覚悟だった。
その瞬間。
道場に、雷光が満ちた。
「……やめてください」
声が、響く。
そこに立っていたのは――
建御雷。
だが、その瞳は、
確かに――虎永だった。
「……父上……母上……」
定常の手が、震える。
「……虎永……なのか……」
「はい」
「でも、もう……」
建御雷は、静かに頭を下げた。
「お願いがあります」
「武士としてではなく――」
「息子として、聞いてください」
「……死なないでください」
「僕の代わりに……」
「一人でも多くの人を、助けてください」
「武士道を極めた父上なら……」
「面子や伝統より、
“生きること”の意味を、選べるはずです」
刃が、床に落ちる音。
小刀が、畳に滑り落ちる。
定常は、震える声で言った。
「……静や……」
「我らの子は……」
「本物のサムライであり……」
「……良き、息子である……」
一筋の涙が、刃に落ちる。
静は、泣き崩れた。
建御雷は、微笑んだ。
光が、静かに収束する。
道場の木札に、文字が浮かぶ。
《建御雷 虎永》
雷神は、振り返らず、
風のように去っていった。
その背中は――
十歳のまま、
永遠に、誇り高かった。




