第6承 第9和【八岐大蛇 肆腫 雷の首 麗香 後闘】
雷雲が、天地を覆った。
空と地の境界が消え、
世界は雷そのものへと変貌する。
轟天――
雷の首は、完全に顕現した。
八岐の中でも最古にして最速。
天を裁く神格。
「来い、麗香。
雷を“理解した”というのなら――」
雷が、意思を持って落ちる。
避けられない。
防げない。
雷そのものが、選別の刃となる。
麗香は、一歩も引かなかった。
恐怖が、胸を締め付ける。
それでも――逃げない。
「……お母さん」
母の声が、心の奥で重なる。
『雷は、あなたを守るわ』
麗香の体に、雷が落ちた。
――だが、砕けない。
雷は、彼女を焼かなかった。
稲光が血管を走り、
神承の刻印が輝きを増す。
「……来た」
麗香の瞳が、黄金に染まる。
雷神憑依。
轟天が、初めて目を見開いた。
「……人が……雷を宿す……だと……?」
二人は、雷の中心で向き合う。
武器はない。
ただ、雷が巡る。
麗香は告げる。
「あなたは“裁く役”を押し付けられただけ。
本当は……ずっと、問い続けてた」
轟天の雷が、不規則に揺れる。
「我は……
人に恐れられる存在……」
「違う」
麗香は、首を振る。
「雷はね、
迷っている人の背中を叩く音なの。」
雷鳴が、静まった。
その時――
闇が、雷界を裂いた。
「麗香ーーー!!」
暗黒の首を超えた海里が、
雷界へ強行突入する。
「馬鹿!来ないで!」
「馬鹿はそっちだよ!!
一人で神と話し合いとか!!」
雷が、二人を包む。
だが――拒絶しない。
雷が、仲間を認めた。
轟天が、静かに問う。
「人は……
再び、過ちを犯す」
「ええ」
麗香は、即答した。
「何度でも」
「ならば……
なぜ、雷は必要なのだ?」
麗香は、海里を見る。
海里は、笑った。
「失敗しても、
“戻れる道”を照らすためでしょ」
その瞬間。
雷界が――裂けた。
麗香は、雷を集束させる。
だが、それは“刃”ではない。
「終わらせるんじゃない」
「……還すの」
雷が、轟天の首を包み込む。
雷神は、抵抗しなかった。
「……そうか……
我は……道標……」
轟天の巨体が、雷へと還元されていく。
雷雲は消え、
空が――晴れた。
雷の首は、消滅した。
だが、世界は静かではない。
八岐大蛇の残る首は、
さらに狂暴化している。
麗香は、膝をつく。
雷神憑依が、解ける。
海里が、支える。
「……ありがとう」
「お互い様」
二人は、拳を合わせた。
最後に、
一筋の雷が空へ昇った。
それは、裁きでも破壊でもない。
――祈り。
麗香は、空に手を合わせた。
「……お母さん。
道、照らせたよ」
雷の首は、討たれた。
だが――
白い首(主蛇)は、すべてを見ている。
「……人は、神の理を超えるか」
八つの戦いは、
終盤へと向かっていく。




