第1承 第6和 【封印の復唱】
島根の山間。
朝の光が山肌を淡く染める中、海里は亀裂の前に立っていた。
八岐大蛇の尾はまだ揺れ、空気は重く、振動が肌を刺すように伝わる。
「行くよ、八岐大蛇……私が、止める」
海里は手の甲の光を強く握り締める。赤白の光が指先から迸り、全身を包み込む。
桐生が装置のパネルを操作し、富嶽零式と接続された画面に目をやる。
「光の同期率、八十五パーセント。世界中の神承者たちも、反応を始めた」
糸がそっと海里の肩に手を置く。
「一人で抱え込まないで。世界の神承者たちが、あなたの光に呼応している。今こそ封印の力を復唱するのよ」
海里は深く息を吸い、心の中で封印の言葉を唱える。
“光よ、闇を裂き、封印せよ――日いづる国を護る力よ”
地中の亀裂が振動し、光が八岐大蛇の尾を絡め取るように伸びる。
大蛇は咆哮を上げるが、その身体は徐々に動きを止め始めた。
遠く離れた世界各地でも、神承者たちの手の甲が微かに光り、彼ら自身は理解できなくとも、海里の光に呼応している。
蒼真はコンビニのカウンターで、手の甲を見つめながら微かに息を呑む。
美桜は娘を抱きしめながら、知らぬまま胸の奥で震える力を感じていた。
LUNAはドームのステージで歌いながらも、手の甲の光に呼ばれる感覚に気づく。
ジェイデン・アラキもトレーニング中、手の甲の光を見て立ち止まった。
黒城は独房の中、手の甲を見つめ、冷たい独房の空気を震わせた。
海里の光は次第に亀裂全体を包み込み、八岐大蛇の動きを完全に封じる。
空気の重みが消え、山間に静寂が戻る。
光柱は収束し、夜空は再び柔らかな月光に満たされた。
「……やった……封じ返した」
海里の声は小さく、しかし確かな達成感に満ちていた。
桐生がモニターを見つめ、低く呟く。
「同期率は百パーセント。これで完了だ」
糸は微笑む。
「封印は完全ではない。でも、第一歩としては十分。世界の神承者たちも、目覚め始めた。次は――」
遠く東京、総理官邸。
鷹宮総理はモニター越しに島根の光を見つめ、深く息をつく。
「国民の命が守られた……しかし、これはまだ序章。世界の運命は、これからだ」
海里の手の甲の光は消え、普段通りの高校生の掌に戻る。
だが胸の奥には、確かな手応えが残っていた。
“私たちの戦いは、これからだ――神承者としての使命が、今、動き出した”
島根の山間に、静かな夜が戻る。
第一承、完。




