第6承 第5和【八岐大蛇 弐腫 氷の首 信長 後闘】
氷獄の空は割れ、氷の竜巻が天へ昇り続ける。
雪は地面を覆い尽くし、命の鼓動すら凍らせるほどの寒気が世界を襲っていた。
八岐大蛇の八首は、それぞれが異なる地獄を作りながら暴れ狂っている。
京都の空は裂け、地は砕け、時間すら歪み始めていた。
だが――
その氷獄の中心で、信長はひとり立っていた。
炎の理をその身に宿しながら。
「……ここで倒れる訳にはいかん。
皆の未来が、ここに懸かってる」
その決意に呼応するかのように、
信長の刀から小さく火の粒が舞い上がる。
氷牙が低く笑った。
「愚かなる人の子よ……
お前の炎など、冬の神である我が前では、
ただの灯火にすぎぬ」
氷牙の翼が広がり――
氷の矢が空一面に展開した。
その数、数万。
信長の影へ降り注ぐ。
「……っ!!」
避けきれない
斬りきれない
燃やしきれない
その瞬間――
轟音。
地面から突き上げる土の壁。
「信長っ! 遅れて悪かったッ!」
蒼真だった。
土の首との激戦の合間を縫い、この領域まで力を届けたのだ。
「隙は作った! 今だ、行け!!」
続いて、風が爆風となり吹き荒れる。
「信長ァァァ!! 加速させるぞッ!!」
虎永の声。
彼もまた風の首を押し込みながら、この一瞬の支援を放った。
雷鳴。
空を裂く紫電が、信長の身体を包んだ。
「瞬間だけ、体を強化するわよッ!!」
麗香。
炎の雨が横から差し込み、氷の矢の群れを蒸発させる。
「アタシの炎で道を開くッ!!」
美桜。
毒の霧が氷牙の片目を侵し、巨体がよろめく。
「今しかない……! 行け!!!」
バニー。
そして――
影から黒い刃が飛び出し、氷牙の翼を切り裂く。
「海里、行くよ」
「……わかってる、影の海里」
影の海里と海里が重なるように放った一撃は
氷の世界に“闇の裂け目”を作り、氷牙の体勢を完全に崩した。
――全員が、信長へ道を繋げたのだ。
仲間の声が、信長の耳に重なって響く。
『頼む……信長……!』
『ここで倒れたら誰も助からん!』
『お前の炎に賭ける!』
『信長ならできる!』
『信長くん……負けないで!!』
『私たちは、信じてる……!』
信長は震えた。
寒さではない。
仲間たちの“願い”に胸が熱くなったのだ。
仲間は皆、別の首と死闘を続けながら――
自分のために力を送っている。
(あぁ……俺は……一人じゃない……!)
刀を握る手が、熱を帯びる。
その背中に、もうひとつの影が現れた。
織田信長。
戦国の覇王本人の影。
「行け。
ワシの名を継ぐ者よ。
この時代を、救ってみせよ」
信長は静かに頷いた。
「行くさ……皆の想いを、俺が繋ぐ」
そして叫んだ。
「――天下布武ァァァァァァァァァッッッ!!」
大地が震えた。
空が裂けた。
信長の全身が紅蓮に燃え上がり、
刀が“炎の龍”の姿に姿を変える。
氷牙が咆哮する。
「来るか、人の子!!
ならば……冬の神が相手をしてやるッ!!」
信長は跳んだ。
氷牙は大口を開け、氷の神気を集める。
『炎龍――覇道閃!!』
『氷天――神葬絶界!!』
炎と氷。
二つの理が激突する。
世界が白と赤に染まる。
時間が止まったかのような一瞬。
信長は叫ぶ。
「俺は……必ず、皆を……未来を……守るッ!!!」
その刃は、炎龍となって氷牙を貫いた。
ズオオオオオオォォォォォォッ!!!
氷牙の身体が崩れる。
白銀の鱗が光となって散る。
氷の世界が溶けていく。
氷牙は消える間際、静かに呟いた。
「見事……だ……。
火の理、人の魂……
我が冬は……ここで終わる……」
――氷牙、断首。
信長は燃え尽きるように膝をつき、息を荒げた。
そこへ、仲間全員の声が届く。
『信長ッ!!』
『やったのね!?』
『すげぇよ……マジでやりやがった……!』
『信長くん、無事でよかった……』
『残る首は……あと六つ……いける!!』
『ここからだッ!!』
信長は空を見上げた。
仲間たちの光が、氷の残骸の向こうで瞬いていた。
「……あぁ。
行くぞ、みんな。
まだ、戦いは終わってない」
遠くで、
“白い首(主蛇)”が空を濁らせながら吠えた。
だが――
仲間は誰一人折れていなかった。
信長はもう一度刀を握り直し、歩き出す。
「――俺たちで、世界を救う。」




