第3承 第15和【戦闘 迦具土(カグツチ)】
この文書のイメージBGM:
『To U (Salyu Version)』
(“イメージとして推奨される楽曲であり、作中使用はありません”)
この世界が赤く染まった。
火山の噴火にも似た轟音。
大気を灼き切る熱量。
神承者たちは思わず後ずさる。
「……これが、迦具土……」
海里の喉が震えた。
灼熱の巨神は立つだけで周囲を灰に変える。
近づけば数秒で命を奪われる“絶対炎域”。
その中へ、
一歩──
また一歩──
焦げる大地を踏みしめながら歩み寄る男がいた。
ジェイデン・スギウラ。
100mオリンピック金メダリスト。
神承者“雷脚”。
仲間の中でも最速の男。
「待てジェイデン!行くな!」
海里が叫んだ。
しかしジェイデンは振り返らず、胸に手を当てた。
そこには、海里に預けた“封筒”があった。
「海里。これは……妹のメアリーに渡してほしい。頼んだぞ。」
その声は静かだったが、決意は鋼のように固かった。
◆封筒の内容
海里が受け取った封筒の重みは、言葉では言い表せないものだった。
封筒の中には――
★ 家族4人の写真
オリンピック競技場、金メダルを掲げ、
父・母・妹メアリーとともに笑っている写真。
写真の裏には、
日本語でこう書かれていた。
「みんな愛している。
これからも、ずっとみんな一緒だよ。」
――金メダルを獲得した日付とともに。
そして――
★ 古びた数珠
★ 母の手紙
『ジェイソンへ ママより
この小さな玉の飾りは“じゅず”と言います。
日本人は、祖先を敬い、
守ってほしい時、手にして祈るの。
あなたは杉村家の血を継ぐ子。
この数珠は、あなたを守るためにある。
愛しているわ。
どこへいっても、あなたは家族の誇りよ。』
海里の手が震えた。
ジェイデンはいつも左手首にその数珠を巻いていた。
それは、彼の“誇り”、そして“家族そのもの”だった。
◆ジェイデンの決意
迦具土が吠える。
大地が歪み、火柱が天へ突き上がる。
「母さん……メアリー……父さん……
俺は、ちゃんと走るよ。
いつも通り、スタートラインに立って最初にゴールを目指す。」
振り向く。
海里が泣きそうな顔で叫ぶ。
「戻って来てジェイデン!!死ぬ気なの!!」
ジェイデンは笑った。
あの金メダルを取った時と同じ、優しい笑顔で。
「海里。
仲間を守るために走るのが、俺の誇りなんだ。
――これは、俺にしかできない。」
そして走り出す。
炎の中へ。
◆迦具土体内への突入
炎の壁は常人なら触れた瞬間に灰になる。
だがジェイデンは、
“雷速”で炎を超える唯一の神承者だった。
光の筋を描き、
炎の渦を裂き、
瞬間的に温度差で空間がひび割れる。
迦具土の体内は地獄そのもの。
溶岩が脈動し、
全身が焼けただれる。
それでもジェイデンは走り抜けた。
「うおおおおおおおおッ!!」
肺が焼ける。
視界が白くなる。
手足が炭化し始める。
それでも不思議と無傷のままだった。 その左手首には、海里に預けた数珠と同じものが浮かび上がってきた。
――母がくれた“守り”。
光の粒が彼の周囲を包み、最後の力を引き出す。
◆神技《雷火・瞬断》
迦具土の核が見えた。
「これで……終わりだ!!」
ジェイデンは全エネルギーを右脚へ集中させ──
神速で核を蹴り砕いた。
スタジアムで金メダルをとった時、
世界中を沸かせたあの神の一蹴。
その何百倍もの破壊力で。
光が爆ぜた。
轟音と共に、
迦具土の体が外側へ向かって爆裂する。
◆ジェイデンの消失
外では仲間が炎の爆風に押し倒されながら叫んでいた。
「ジェイデン!ジェイデンーーーッ!!」
炎が嘘のように静まり、
煙が晴れていく。
そこには、
粉々に砕けた迦具土の残骸。
そして――
ジェイデンの姿は、なかった。
ただ、焼け焦げた地面に、
“金色のスニーカーの破片”と、
“数珠のひとつだけ残った玉”が落ちていた。
海里はそれを抱きしめて、膝をついた。
「ジェイデン……
あなた……本当に……」
涙が止まらない。
仲間たちも皆、静かに頭を垂れた。
◆海里の誓い
海里は左胸に当てて静かに言った。
「ジェイデン……必ずメアリーに届ける。
あなたの誇り、あなたの心、…私があなたの家族に届ける。」
そして、空を見上げ叫んだ。
「見てろジェイデン!!
俺たちは絶対に負けない!!
世界はお前が繋いだんだ!!
最後まで走り切ってみせる!!」
残った数珠の玉が微かに光った。
まるでジェイデンが笑っているかのように。




