第3承 第14和【神友(しんゆう)】
◆《静寂の森――英雄の消失》
野槌が消えたあとの森は、不自然なほど静かだった。
まるで世界から音が奪われたかのように、風さえ止み、ただ夕陽だけが淡く揺れていた。
悠真の身体を抱く美桜は、その静寂の中心にいた。
彼女は泣いているのに、涙が音を立てない。
ただ、震える呼吸だけが、かろうじて彼女が生きている証だった。
◆《美桜の心――“置き去りにされた未来”》
美桜は、悠真の頬に手を当てた。
冷たくなり始めた肌。それが、どれほど残酷な真実か。
「……ねえ、悠真。
あなたね……私、怒ってるんだよ。」
声は泣き崩れる寸前に震え、でも、絞るように続けた。
「どうして……
どうして“守る”なんて言っておいて……
最後の最後で、置いていくの……?」
唇が震え、涙が落ちる。
「私ね……悠真が生きてる未来を、ずっと想像してたんだよ……。
あなたが笑って、私を名前で呼んで、
一緒に帰るんだって……
そう信じてたのに……。」
風が吹き、美桜の髪が揺れた。
「ねえ……聞こえてる?
私は……あなたに “生きていてほしかった” ……
ただ、それだけなのに。」
けれど。
その瞳に、わずかに灯りが戻った。
「……でもね悠真。
あなたの死を、悲しみだけで終わらせたりしない。
“あなたが生きた意味”を、絶対に私が証明するから。
だから――見てて、悠真。未希を守って見せる」
美桜は、静かにそう誓った。
◆《仲間たちの胸に残ったもの》
【源蔵】
豪快で、怒鳴ってばかりの男だった。
だが、今の源蔵は別人のように瞳を伏せていた。
「……悠真、お前……最後までバカだったな。」
そう呟きながら、拳を地面に叩きつける。
「なんで……俺を置いて先に逝くんだよ。
守るのは……仲間で決めるんだ……
一人で背負って……勝手に死ぬなよ……」
声が震え、泥まみれの拳に血が滲む。
「……次はもう、お前みたいな死に方はさせねぇ。
絶対にだ。」
【蒼真】
静かに膝をつき、槍を胸の前に構えた。
彼は祈るように目を閉じた。
「悠真……君は最期まで迷っていた。
でも、その迷いは弱さじゃない。
“誰かを救いたかった証”だ。」
彼は微笑む。
「君の意志は、ここに――私たちの中に残っている。
もう迷わないよ。
今度は私たちが、君の分まで迷わず戦う。」
【LUNA】
LUNAは震える手で、悠真の胸に小さな花を置いた。
「……ありがとう、悠真。
あなたがいたから、私……逃げずに戦えたの。」
膝をつき、祈るように手を重ねる。
「あなたのおかげで、“生きる”って言えたよ。
今度は……私が誰かの光になる。」
【虎永】
虎永は泣いていた。
大声で、しゃくり上げながら、泣いていた。
「悠真さん……嘘だろ……
昨日まで笑ってたじゃねぇかよ……。
まだ……一あなたから教えてほしいことたくさんあったのに……
お願いです、返事してください……。」
彼は拳を握りしめ、震える声で叫んだ。
「次の戦い……絶対逃げねぇ!
あなたの敵は、全部僕たちがぶっ潰してやる!!」
◆《MIKADO本部――言葉にならない衝撃》
報告を受けた鷹宮総理は、手を震わせていた。
「……神崎悠真君は、
この国を……世界を救ったのだな。」
誰も言葉を返せない。
総理の隣で、古参の局長が涙を隠そうとせず言った。
「総理……彼は……最後の最後まで……
人類のために剣を取っていました……。」
オペレーターの若い女性は嗚咽し、
無線機を胸に抱えて席を離れられない。
彼女は震えながら呟いた。
「……毎日、彼と通信していました……
すごく優しくて……
“ありがとう”って言ってくれる人でした……
こんな……こんな終わり、嫌です……。」
誰も反論できなかった。
◆《皇室――静かな祈り》
天皇陛下はしばらく沈黙し、
やがてゆっくりと目を閉じた。
「神崎悠真。
その名は、決して忘れぬ。」
皇后は静かに涙を拭った。
「未来を救うために命を捧げた青年に――
どうか安らかな眠りを。」
◆《そして、海里の誓い》
海里は、悠真の亡骸を見つめていた。
涙を何度拭っても止まらない。
だが――彼の中には、一つの想いが確かにあった。
悠真が託したもの。
仲間の涙。
美桜の絶望と決意。
世界の祈り。
すべてが、彼を立ち上がらせた。
海里は拳を握り、
地を踏みしめ、
そして空に向かって叫んだ。
「悠真!!
お前の生きた意味は、絶対に俺が証明する!!」
胸が震えるほどの声で続ける。
「世界はまだ救われてねぇ!
でも……俺たちはまだ生きてる!!
だったら戦える!!」
仲間たちが顔を上げる。
海里は目を閉じ、涙をぬぐい、
そして――覚悟の瞳を開いた。
「次の脅威が何だろうと関係ない。
炎神カグツチでも、
その裏にいる“何か”でも――」
「私たちが必ず、立ち向かう!!」
夕暮れの光が、仲間たちの背中を照らす。
世界はまだ混沌の中にある。
だが、海里の叫びは――
確かに次の希望になった。




